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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第三章 魔高オリンピア編
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38話 逃げ場などない

お久しぶりです。夏休みに入ったぜ!!!!




 静寂。心地よく、けれど不自然な沈黙と暗闇の中で、彼は目を覚ました。赤みがかった髪を柔らかく揺らし──、



兼得は医務室のベッドから静かに体を起こす。




「ぅガぁっ、ウあぁ、いっ、ああ"ァぁ……」




 ドクン。




 彼は破裂するかと感じるほどの苦しさに左胸を抑え、崩れるように布団とともにベッドからずり落ちる。嗚咽と息切れを繰り返しながら清潔な床を這いずり、





 世界が、停止する。





『目覚めよ……Ηρεμία』





 鐘のように力強く、有無を言わせず威圧する静かな声が彼の頭に響いた。

 髪の上部が白く染まり徐々に変化していき、頭に黄金の輪が現れる。瞳は光を映さない空虚で何かに操られているように見える。

 背中から生えたのは、光を吸い込むように白い、月光のように無垢で禍々しい二枚の翼だった。


 異変を感じ、医務室の個室のカーテンを開ける看護師。偶然、目撃してしまった。




「兼得凪、くん……???」


「……Η τιμωρία και η σωτηρία του Θεού……」


「なんて言った……? あなたは、一体───」




 兼得は聞こえるか聞こえないかというほどのか細い声で異言語を呟き、音もなく立ち上がり、姿を消した。その場に残ったのは、焼けるような硫黄のにおいと、一本の白い羽根。

 看護師の目が、理性の理解を超えた恐怖で見開かれる。




「これ、夢……??」





*****




 魔王城の頂点に強い風に煽られながらも、一切動じることなく体制を崩さない。

 灯りを消していく“日本騎士団“に目を向けたアオは透明な魔石が先端に嵌め込まれたその長い杖を、暗い、暗い、空へ掲げた。


「フォラウス」

「は」


 アオが名前を呼ぶと、瞬きする間もなく屋根の上に銀髪の魔人フォラウスが現れる。彼女の目線よりも低い位置に控え、長い銀色を肩に流した。頬を赤く染め、感極まっている。表情からはアオへの忠誠とそれ以上の信仰が読み取れる。


「この世は弱肉強食。今から私がやる事はごく自然なことだ」

「ハイ!! 全く、その通りでございます!!  やっと矮小な人間を鏖殺されるおつもりに……!?」


「狭間は私が片付ける。君は子供3人と焔と共に、人間界の……狭間に繋がる場所を突き止め破壊しろ……やり方は、任せる」


「──ぁああ……!!」


 赤黒い目を輝かせ、涙を浮かばせた。さらに頬を紅潮させて口の端を艶かしく両手でなぞる。唇から鋭い歯が覗き見える。



「この悪魔フォラウス、初の大仕事、必ずや完遂して見せましょう……♪」




 そんな言葉を残し、黒い霧と共に去っていく。見届けたアオは彼女の杖に魔力を流す。



 空気が歪んだ。それだけじゃ言い表す事は不可能。彼女の魔力は神々しく機械的でこの世で最も美しく残酷な光景を創り出す。

 黒いマントがはためいたかと思うと、彼女の全身から黒い霧と、殺気が漏れ出る。



「数が多いな。これを使うのは久しぶりだが……」



 二千人の騎士が絶望の表情でこちらを見上げるのを、ものともせずに、宙へと飛び出した。

 下からの風が白い髪を巻き上げる。首につけたままだったネックレスが魔法陣の光に反射した。何もない空を舞い、アオの背中に白い羽が出現した。対してその瞳は何の興味も愉悦も無い。


「白い羽!? 魔物にそんな種族は───」

「退避!! あの魔王は異常───」


 誰かの驚きの声もどこかへ消える。




「逃げ場などないよ……個人魔法」









「《神葬の彗星》」









 空が裂けた。






 次の瞬間には、そこから巨大な白銀と碧の彗星が、光の十倍の速さで泣き叫ぶ神々のような咆哮と共に地を目指す。

 灼熱と極寒が何千回と繰り返され世界を、“狭間“を襲い、全てを呑み込んでいく。

 当然のように、空を飛ぶ小型戦闘機も戦車も、戦艦も崩れて溶ける。



 アオの前方には何も残らない。




 非現実的な光景、まさに地獄絵図。






 この日、たった1人のたった一撃で、“狭間“の半分の土地が────、消滅した。






 アオの背後で攻撃に巻き込まれていない魔王城も飛来した瓦礫や炎で半壊する。

 生き残った新魔王軍の配下は、改めて確信し、その1人が呟いた。



「史上最強、最年少の魔王様────」






「アイオニオス様が、完全に復活なさられた」




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