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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第三章 魔高オリンピア編
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37話 変革の刻

お久しぶりですぅ。テスト返却もあって意気消沈の中、それはもう現実逃避の思いで書いていました。

ということで37話、どうぞお読みください!!



 狭間───そこは、人間界と魔界の世界を繋ぐ境界の空間。


 世界を渡る方法は大きく分けて2つある。

 1つ目の方法。魔界の大気中に存在する約5分の1に匹敵する量の魔力を用いて、異世界への“ゲート“を創り出すこと。

 先代魔王カストルは旧魔王軍全員の魔力を合わせてやっと“ゲート“を創り、人間界へと渡航したと伝記が残されている。

 2つ目の方法。その世界において極めて神聖で冥界に近いとされる場所、時間、状況で、そこへ踏み入れること。神隠しや転移はこれにあたると言われている。



 2つ目の方法では、世界秩序に認められない限り世界を渡ることは不可能。しかし、“狭間“になら入ることができる。





 約2千人の人間と魔王が対峙した───。





 飛行船、小型戦闘機、戦車、戦艦。

 文明の力によって人間は陸と空を制する。隊列を組んだ人間たちは、手当たり次第に出会った魔物を討伐しながら魔王城に向かい侵攻していく。

 その服の色は白。国防軍ではない。地上を走る巨大な戦艦に乗り、やたらと豪華な金銀の装飾を付けたものが混じっていることから、貴族、それと、貴族御付きの“日本騎士団“と呼ばれる者だと推測できる。

 日本騎士団は貴族を護衛するが、国防軍は国民全体や市民を守り敵を倒すのが役割だ。


 貴族直属の“日本騎士団“は“国防軍“の上層部とも言えるが、戦力としては比較にならないほどの圧倒的な力量差がある。もちろん、国防軍の戦力の方が大きいということだ。国防軍の隊員1人で日本騎士団の百人分の力はあると言っても過言ではない。



 つまり、日本騎士団はなかなか動かない国防軍に業を煮やし、無謀にも自分達で魔王を倒そうと“狭間“に侵入したのだった。



 「魔王なんぞ我ら貴族の敵ではあるまい!! いや、この軍勢を見て降参するかもしれんな。皆殺しにしてくれるわ!!」



 貴族は騎士団に討伐されていく魔物達を見て貶すように、ははは、と高笑いする。いや貶すようにというのは語弊がある。実際に心の底から自分が上だと信じて疑わない。


 太刀を腰に差した騎士の1人が魔王城を視認した時、何かに気がついたように、



「───ん?? 何だあの影は。人……か?」

 


 魔王城の尖った屋根の上を見て呟いた。釣られるように近くにいた騎士達も同じ場所を見上げ始める。通信機で戦車内や戦艦内にいる騎士にも連絡をするが、正体が判らず目を凝らす。


 その瞬間、空に幕が降りた。視界が暗転し、世界は闇に包まれた。しかし仮にも訓練を受けている日本騎士団。何者かの攻撃と気付くや否や個々が魔法で光を創り出す。


「汝の願いを聞き入れたまえ───」


 詠唱して少しずつ明るさを取り戻し始める。だがそれは愚策。敵に自分の正確な所在地をわざわざ伝えることを意味する。


「総員、早く灯りを消せ!!!!」


 それをいち早く察した指揮官らしき人物が命ずるが時すでに遅し。魔王城の頂点に立つ、純白に少しの黒が混じった髪を揺らしたその人物はしっかりと騎士団を捉えていた──。





*****





 騎士団が“狭間“へ入る少し前。アオの事を魔高での関係者に伝えた時のことだ。

 千草が碧を連れ戻すと豪語したその後、天原は断固反対した。苛ついていて珍しく感情を表に出している様にも見える。A組とB組、そして市川の視線が集まる。


「馬鹿だな。ふざけたこと抜かしてんじゃねぇ、そんなもの机上の空論だよ」


 天原が冷たく言い放つが、千草の目は変わらない。しばらく見守っていた市川は天原と千草の頭に手を置き────、



 床に埋めた。



「っぇがはっ!!」「痛っづづァあ!?」



「界さん、神月さん、冷静に。アオさんの所へ行くにしろ行かないにしろ、今のあなた方では話す前に瞬殺されます」



 クラスの中でアオを除けば最も強い2人がいとも簡単に埋められている光景を見て、A組もB組も市川を見る目が恐ろしいモノを見る目に変わった。ただ1人鈴能は「うわっ、すごい」と引いた目で溢している。


 そこで小さく震えながら片手を上げた生徒がいた。目が激しく泳いでいる。



「……あの───!! 私もっ、きょきょ、協力して、いいですか!!!!」


「えっ、有崎さん!?? まじで!?」


 手を挙げたのは意外にも人見知りの有崎みずなだった。広夜麻が驚いて声を上げ、やっと地面から這い上がった千草も目を丸くする。


「わ、たし、数ヶ月だったけど、色々お世話になったし……オリンピアでは千草さんに助けてもらったし。その……ちょっとでも力になれたらなぁ、な、なんて」


 か細い声で尻すぼみになりながらもそう語った。その言葉に口角を上げたのは、天原。


「なるほど……馬鹿だなお前。オレもだけど、お前がアオに通用するとは到底思えないけど??」


「や……その……」

「天原てめぇ、そりゃ失礼じゃねえの?」


 涙を浮かべかけた有崎を千草が庇うが、天原は言葉を続ける。


「事実だろ。だがまぁ、そいつの力は合同訓練の時に見たから知ってる。だから──」



「だからこそ……オレが教えてやる。感謝しなよ、有崎」



「ひぃっ!? どど、どういう事ですか!?」

「天原、お前もアオを連れ戻しに行ってくれるのか!?」


「まぁ、そういうことになるよな」


 怯えた声を出した有崎に被せて千草が叫ぶと、天原は目を逸らして呟いた。それを隠すように周りに声をかけた。


「他にオレたちと魔王様の所に行ってもいいってやついるか?? びびって安全なこの世界に残るってんなら止めねぇが」


「俺行くぜ!! 可憐な美少女、霧山さんが危険な魔王なわけがない!!」

「広夜麻が行くなら、僕も着いていこうかな」

「私も着いてく〜!!!」

「神月にそう言われて黙ってられないよな!」

「私も、いいかな?」


 声を上げたのは広夜麻、植田、阿流間、石塚、そして鈴能の5人。

 寒河江や菅沢、星野は興味がなさそうに口を閉じたままだった。


「みんな……!!」


「俺は引率係という所でしょうか……。では、この話は終わりに致しましょう。アオさんを連れ戻すのならそれ相応の力が必要です。これは内密にして頂けると助かるのですが、近々、国防軍の上層機関である“日本騎士団“が魔王討伐に向かうという情報があります。

それよりも先に……アオさんを説得しますよ」


 スーツを正して長い黒の長髪を結び直す。市川が軸となり、国防軍の思惑とは離れたチームが出来上がったのだった。




*****



「お邪魔しまーす」

「血液鑑定はできたのかい? 漆原」


 研究室にノックをして入ってきた伊津と坂が、一言目にそう訊いた。相手は白衣を羽織り、実験用ゴーグルを額にずらした漆原だ。


「ぅん、できたよぉ〜」


 なぜ坂と伊津が研究室に立ち寄ったのか。それは、以前頼んでいたとある血液鑑定。

 アオが───人間か魔物か判断する鑑定だった。


「空から落ちてきたアオの治療をした時に採取しといて良かったよぉ。異常に回復が早いからそれ以外で治療したことなぃしね」


「それで、結果は!?」


 食い気味に伊津が彼に寄る。距離を詰める伊津を漆原は無理やり押し返し、息をついた。


「結論から言うと……アオは人間だよぉ」

「えっ……魔物じゃないのか!?」


「アオは人間の可能性が高いってだけ……正確にいうと、魔物でも人間でもない、全く新しい血液を持ってる。魔王だからなのか、本当に全くの新しい種族なのかはわからないけどぉ……俺たちにとって未知の存在だってことには変わりないみたいだねぇ」

「人間でも、魔物でもない……未知の存在?? そんなもの……」


 坂が顎に手を当て考え込んだその瞬間───爆発音が響いた。医務室の方からだ。



「何だ!?」



 しかし、そのまた次の瞬間には、感じ取った殺気や強い魔力さえ、あっさりと消え去っていた。伊津と坂は違和感を感じ取ったようだが、漆原はそんな2人の様子に不思議そうに首を傾げる。



「どぅしたの?? 2人ともぉ、そんな、怖い顔して」



(勘違いか?? いや、秀成も何かに気がついたはずだ)



 伊津はそう推測する。そこから導き出る答えは───特級魔法師である伊津と坂も認識できないほどの刹那、正体不明の圧倒的強者が現れた───という事実のみだった。



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