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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第三章 魔高オリンピア編
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35話 狭間の世界

※残酷な描写、グロ描写あり

 


「こちらが、私たちの拠点でございます!!」



 扉を抜けた先は街だった。


 多くの建物が立ち並びアオは少しばかり驚いたように微かに目を開く。

 しかし普通の街と大きく違うのは、そこに住む者の殆どが、魔物だということだ。


 人間は奴隷や食物として扱われているらしく、魔界とほぼ変わらない。



「ここは狭間と呼ばれておりまして、人間界と魔界の世界を繋ぐ空間でございます……この前までは人間と魔物の共存地域だったのですがアイオニオス様がここへ来られると聞いた途端、町の魔物は喜んで人間共を奴隷に……あっいえ、誤解なさらず……」


 フォラウスは可笑しそうに嗤い、アオを向いた。


「君は……私を誤解してる。どんな噂を聞きつけたか知らないけど、人間だからと言って別に奴隷にして虐げたいわけじゃない……早く案内して」



 黒ローブを引き連れたアオは嬉々として説明するフォラウスの言葉を静かに遮り、彼の前を歩いた。

 彼は落ち込んだ様子もなく陶酔したような表情を一切変えずにアオに従う。



 到着したのは趣のある大きな屋敷。

 大勢の黒ローブの内3人が息を詰めた。


 そこには、魔物、その中でも上位の魔物特有の不穏で邪悪な魔力が染み付いていた。だいぶ薄まってはいるが、以前はよほど強力な魔物が住んでいたのだと考えられる。人間を拒絶する魔力。



「先代の魔王城……か」


「ええ、中へどうぞ……んふふ……今日からこの城は、あなた様の物でございますから」




 *****




「それで? これが新魔王軍とやらのメンバーなの?」


 アオは広い広間でたったひとつ豪華な装飾の施された椅子に腰掛けて足を組む。

 黒いローブを着た魔人や魔族たちは跪き、頭を垂れた。



「気づかないとでも思ったのかな?? そこの3人……人間だよね」



 視線を向けられた3人はびくりと肩を震わせる。背筋の凍る青い目が彼らを射止める。その隣に跪いている少年もなぜか恐怖に囚われたように顔を青ざめさせている。


 3人はすぐさま土下座の体制に移り頭を床につけた。



「ど、どうか……見逃して!! 知らなかったのよ、まさか霧山さんが魔王だなんて!!」



 叫んだのは3人の内の1人、薄い茶髪にツインテールの少女、江山蜜世。察するに彼らは誘拐された女子生徒たちで、隣の2人は黒滝真維と吉川哀羅だろう。



「で、君は……」



 少年の方へ目を向ける。冷や汗が吹き出し、目の焦点が合わない。1ミリたりとも体が動かせない。



 なぜあの時、アオを殺せると思ったのか。

 なぜあの時、フォラウスの提案に乗ってしまったのか。


 3年前とは比べ物にならない。

 同じ魔人であるはずの自分でさえ、届きえない存在だと確信できる。



 次元が、違う。



 彼は無理やり笑顔を浮かべた。歯の根が噛み合わずにカタカタと音を鳴らす。

 直接対峙してもとから決めていた言葉が頭から消し去られ、脳を破裂しそうなほど回転させる。



「僕は鬼人族、焔!! 君の部下にしてほしいんだ!! か、かつては魔王様にお仕えしてた時期もあって魔王軍に所属してた!!」


「私が慕っていた人間を殺したくせに、よくそんな言葉が吐けるな」



 アオの目が険しくなるのを見て、詰まりながら慌てて言葉を繋ぐ。



「そ、そうだ!!! 僕は死んだ仲間2人の残魂を持ってる……燈蘭と修羅のものだよ!! 君みたいな悪魔族には遠く及ばないけど、十分な価値はある!! これを君に献上す」



 言葉の途中でアオが片手を振った。



「………えぁ?」



 椅子と同じように豪華な装飾の施された床が抉られ、目玉が柔らかく生々しい音を立ててカーペットの上に落ちた。思わず彼の隣の吉川が「ぅっ」と口を抑えると、すぐに吐瀉物の悪臭が部屋に充満する。



 焔の右半身は既に無くなっていたのだ。

 臓物が顕となり、遅れて血飛沫が飛ぶ。透明で粘着質な液体が腸とともに流れ出た。



「ぉえっ、ぇっ、ぁ、、ぅえあぁ、、」



 ゆっくりと再生し死ぬことの許されない焔の荒い息遣いと、吉川の苦しそうな嗚咽が静寂の中に聞こえる。

 もう一度手を動かそうとしたアオに、フォラウスが前に出た。恭しく礼をする。



「恐れながら申し上げましょう……コレらを連れてきたのは私なのです、アイオニオス様。

 鬼人族のみに伝わる禁忌魔術……鬼が魔力を喰らうことで自らの力に変える術でございます。あなた様がこの世界を統一される際に役立つと思ったのですが……ふふ、不要なら切り捨てていただいて構いませんっ……」


「君……気持ち悪いよ」


「アァ、お褒めに預かり光栄至極にございます……!! それと、この3人の人間はあのカグヤ殿が命じ協力を要請した者でございます。捨て駒にちょうど良い、と」



 あからさまに引いた表情でフォラウスを見た後、アオは思考に走った。



「カグヤ……天原輝夜か。気に食わないやつだけど、彼は昔からのよしみだしね。

 哀羅、蜜世、真維……あと焔。これからよろしく頼むよ。私は、少し休んでくる」



 アオは椅子から立ち上がり部屋を出ようと歩き出すと、「あの!!」と黒滝が声をかける。

 彼女はフォラウスに睨まれながらも震える足を踏み出した。



「霧山さ……魔王様は!!! 何が目的なの!? 先代魔王の仇を取るため!? それとも……」




「………仇取り、なんかじゃない」




 アオが小さく呟く。その声にはほんの少しの苛立ちと決意が混じっていた。




「……私は、ただ知りたいだけだよ」





 *****




「霧山さんがあの国防軍の特級魔法師で、魔王の娘だった……?」


「いや、確かに碧は強かったけど……」



 広夜麻、植田が困惑した表情をする。

 天原と千草、そして市川は今回の事をクラスに説明するために1年A組、B組と鈴能をひとつの部屋へ呼んだ。



「それって、完全にそっちの失態じゃないか。観客席にいた桜ちゃんにも危険が及んでいたんだ、母様に言いつけてもいいんだけど?」


「ひまくんは優しいねっ!! でもいいの、ひまくんが怪我しなくてほんとによかった」


「それは桜ちゃんこそだよ」



 A組の生徒は慣れた様子で無視するが、寒河江と菅沢の空気に天原が思わず舌打ちする。



「誰かこの甘ったるい雰囲気どうにかしろよ」



 そこに知り合いがおらず黙っていられない鈴能が勢いよく挙手した。



「それで、霧山碧さんの扱いはどうする事にしたの? あ、1年生のみんな、初めまして!! 私は2年A組の鈴能史織。この前の魔高オリンピアで植田玲くんと戦った先輩だけど……、まぁ覚えてないよね」


「俺、覚えてる!! めっちゃ可愛い先輩いるなと思って応援してたからさ。途中結果で3位だった人ですよね!!」


「みんな覚えてるだろう。というかせめて幼馴染の僕を応援しろよ」


「痛っぁ!!」



 広夜麻が嬉々として声を上げると植田のチョップが彼の頭に刺さった。それを見た市川が軽く咳払いをする。



「魔王軍……いえ、アイオニオス率いる新魔王軍は“狭間“に拠点を構えているとの報告があります。“狭間“の魔王城は先代魔王カストルが構えた城……魔王と名乗った事と、魔王城に潜伏したことを考えれば、人間との敵対意識があるとも捉えられます」


「ですので、アオさんの扱いはこれからの動き次第、ということになるでしょう」



 市川の言葉に千草が苦々しい表情を浮かべる。しかし、彼の言葉には続きがあった。



「幸い、魔高オリンピア当日、魔王アイオニオスが姿を現してからの魔物の出現率が一気に減少しました。もし、対話による平和的解決が可能なのであれば……国防軍幹部、霧山碧さんを連れ戻す事は不可能ではないでしょうね」


「市川サン……!!」



 目を伏せた市川に千草が静かに目を輝かせた。天原はその様子に眉を寄せる。



「千草、お前いま……何考えてる」



(俺の恩人で、碧の師匠……死んだ南本サンのためにも)



「俺は……碧を連れ戻す。あいつを、信じようと思う」






こんにちは、試験1週間前の学生です。

ということであまり更新ができそうにありません。


とはいえ、夏休みに入れば少しは余裕ができるはずなので、また更新ペースを上げていけたらなぁ、と思っています。


登場人物が増えてきたので、この辺りでもう一度読み返してみるのもおすすめです!!


連載作品「天才×転生 〜コミュ力皆無の不老不死は普通を目指す〜」もそのうち更新するのでぜひ読んでみてもらえたら嬉しいです(^^)

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