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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第三章 魔高オリンピア編
32/53

31話 開幕

 


「界、天原、見てたんだ!!」



 多くの隊員に揉まれたアオは、息を切らせながら、騒がしい訓練場をかき分けてきた。目当ての2人を見つけて駆け寄る。



「ありゃなんだよ、碧……お前ほどのやつがなんでまた魔高なんかに潜入してんだ…」


「そんなことより始業式!!!」



「「は?」」




 数十分後。




「だからぁ……始業式なんてだるいだけっつってんだろうがハテナ妖怪が!!!??」



「ハテナ妖怪って?」


「なんか…ごめん?」



 天原の叫び声に千草が先に反応し、アオが苦笑する。


「ったく、しつけんだよ……いい加減にしろガチで…」


 アオの止まらない質問責めを受け疲れたように脱力する。千草が、はっ、とアオを見た。



「そういや、魔高オリンピアの話が出たぜ」


「あ、そうじゃん。もうすぐなはずだよね」


「それがなんと……1週間後、だって」



「予想以上に早い」



 天原の怠そうな声にアオはすかさず呟く。

 が、すぐに明るい笑みを見せた。



「でも、夏休みにあれだけ市川に鍛えられた君たちがそう簡単に負けはしないよ。

 別に不安がらなくていい」


「はは、確かに…あれは地獄だった」


 千草がその光景を思い出し青ざめる。


 しばらく話していると、天原が後ろを振り返った。ほっ、とため息をつく。



「……気配消して近づくんじゃねえよ、びっくりするじゃん……お前誰?」



「それはすまなかったな。碧、模擬戦を見たんだが、成長したな。3年前よりもずっと強くなってるじゃないか…。さすが特級だ」



 眼鏡をかけた隊員、時薪が天原の背後から現れる。



「ひさしぶり……時薪隊長。天原は…ほら、入隊した日に研究室で会ってるはずだよ」


「そうだっけ? オレ、興味がないやつ覚えんの苦手なんだわ」


「てめぇいちいち失礼なんだよ。一旦黙れ」



 眠たそうに欠伸をする天原に、千草がツッコむ。言い合っている、というより千草が1人で騒いでいるその様子を横目で見ながら、時薪はアオに寄った。



「ところで、那原を見なかったか??

 報告書の整理を頼んでいたんだ。第零部隊の仕事があるとか言っていたけど、あれの言うことのどこまでが本当なのか……」



「那原ぁ? や、全く見てないよ」



「そうか……態度点、減点にしてやろうかな…まあどこかで会ったら、僕が相当キレてるみたいだったと伝言を頼むよ」


「わかった」



 頷いたアオに、時薪は肩に優しく手を置き、軽く叩いた。



「最近仕事詰めだろ……ほどほどに休めよ。

 伊津隊長も心配してた」



「ありがとう。時薪隊長も……って君は部下に全部任せてるっけ」


「もちろん……あ、そうだ、魔高オリンピアは隊長全員で見に行くつもりだから」



 アオの表情が曇り、だんだんと嫌そうに眉を寄せた。



「ええっ……プレッシャー……」





 *****





 魔高オリンピア当日。




 会場は熱気に包まれ、華々しい花火があがる。東京都立魔法高等学園の敷地内に位置する、コロシアムのような形の闘技場。

 そこには約20万人ほどの観客が収容できる。




 出場者はクラス内で代表者3人と1人の補欠代表を決め、全学年全クラス混合で競い合う。


 アオ、千草、天原は当然のように出場者に選ばれ待機室でくつろいでいた。


 B組のクラス代表はアオ、千草、植田である。

 そして、補欠代表は。



「わ、私、ここにいていいんでしょうか……?」



 だらだらと冷や汗を流して杖を握り締める。


 有崎みずな。

 クラスで落ちこぼれと呼ばれる彼女が、クラスの補欠代表となった。



「ま、まぁ? ど、どうせ私の出番なんてありませんし……別にいいんですけど…」



 呟きを聞いて、ソファに寝転がる天原が、有崎に黒い笑みを浮かべた。



「ひいっ…な、なんですか?」



「元気出せって……オレが優勝してやるからさぁ」


「え、何? 私に勝てると思ってるの?」


「お前こそ、オレを簡単に倒せると思ってんの? ははっ、バカじゃね」



「は?」



 互いに好戦的な笑みを浮かべるアオと天原。

 ため息をついた千草が呆れる。



「なんでそこ2人でバチバチしてんだよ……同学年のくせに。それより先輩とかを警戒した方、が……」


「っ……!?」



 千草は素早く両耳を塞いだ。



 突然、キィィィン、と耳を鋭く刺すようなハウリングが会場に響き渡る。


『ああー、あっ…あ…これ聞こえてるよね?』


 強くしっかりとした芯のある女性の声。

 この声にアオはとても聞き覚えがあった。



『この度司会を務めさせて頂く、国防軍の伊津明響だ。早速だが、一回戦の種目が決定した』



 名前を聞き、一同は目を開いて顔を見合わせる。


 アオは目を輝かせて、首にかかった銀色のネックレスを軽く握った。それは3年前、入隊祝いとして伊津に貰ったものだった。



「伊津明響って、あの特級魔法師の…!?」



 驚きを超え怯えた表情で有崎が呟く。千草は乾いた笑みを浮かべて横目でアオを見た。



(お前の隣にいるヤツも規格外の特級だけどな…)



『一回戦の種目は……』



『えー……駆け抜けろ☆団体障害物競争だよっ!! だ!』


『ングッ…ふふ…決め顔…』

『何を笑ってるんだ? 時ま…』



 アナウンスがぶつりと途切れる。



「なにやってんの…時薪隊長は…」


「てか障害物競走で団体戦って。珍しいな」


「たしかに」


 千草とアオが話していると、いつのまにか天原はソファから起き上がり目を細めていた。


 その様子を不思議そうにアオが見る。


「あれ、開幕まで寝るんじゃなかったの?」



「……お前ら、気づいてねぇのか」



「何に?」



「この会場…人間とは思えねぇ魔力の持ち主が潜り込んでやがる……オレは嫌な予感がするよ」


「!? そういや天原は魔力の流れに敏感だったな……俺にはあんまりわからないけど…」



 ーー《魔力感知》



 天原の言葉にすぐさま魔力感知を発動させたアオは険しい表情を浮かべた。



 ーーこの私が、今まで気づけなかった。しかも、この禍々しく騒めくような魔力は。




「南本を殺した鬼人……焔……」




 背筋を冷たい何かが這い上がる。心臓が、凍りついたように一瞬だけ、止まった。




金曜までには更新します。

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