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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第三章 魔高オリンピア編

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30話 生意気なガキが

第三章開幕で〜す!! 

いぇーいぃぇーぃィェーィ……。

更に面白いストーリーを作れるように努めますので、これからもよろしくお願いします。

 


 誘拐された江山、黒滝、吉川の居場所は掴めないままに夏休みは過ぎた。

 それでも地面から伝わる湧き立つような熱気はぐららと空気を揺らし、秋の気配はまだ遠かった。




 10月1日。

 3学期、始業式当日の朝。アオは任務に駆り出されていた。

 東京駅の広場で暴れる数十体の魔族を一人で相手取る。



「なんで!! 始業式に!! 出れないの!? ふざけるのも大概にしろよ……………!」



 彼女の知的好奇心は異常なほどに旺盛で、興味を持ったことはなんでも知りたがる習性がある。それは今に始まったことではない。


 要は、始業式という“イベント”を楽しみにしていたのだった。



 3月から5月、6月から8月。

 夏休みを挟んで10月から12月。

 魔高の変則的な学期制をこれほどまでに恨めしく思ったことはなかった。


 神級魔導具である杖を取り出して、魔力弾を連発。魔族は声にならない断末魔をあげながら、心臓や頭部を撃ち抜かれ討伐されていく。

 普段よりもやけに荒々しく乱雑な討伐に、少し離れた場所で後処理班を率いていた市川は、呆れながら頭に手を置いた。




「アレ、何なんだよ……本当に碧隊長?」




 そんな部下の声が聞こえ深いため息をつく。

 一日中無視し続けていた彼の携帯のバイブ音が再度耳についた。眉を顰める。



 しつこすぎる。ここで取らなければあと二日は続くのだろう。

 部下に断って持ち場を少し離れてから、携帯を耳元に寄せた。



「はい、何でしょうか」



『今、任務中かい? 最近のアオの調子を聞きたくてね。というか、さっきから何回も電話をかけていたんだけど、気づいてた?』



 予想通りの相手、坂の声を聞いてしれっと電話越しに無表情を作る。



「いえ。仕事が忙しくて」

『本当?』



 問いかけを無視して続ける。



「アオさんはこの前あなたと会って、どこか振っ切れたようで……可愛いらしい隊長スタイルはもう封印しましたよ。何というか……昔の生意気なガキに戻ったようにも……あ、いえ、何でもありません」


『何でもあるよね絶対……まあ何にせよ、報告ありがとう。今日はそれが聞きたかっただけだ。今度情報が掴めたらまた、電話するよ』



 軽く、本音を悟らせないような彼の声色に、市川が俯く。

 坂は本当に隠し事が多い。自身も人の事は言えないが、思わず、といったふうで呟いた。



「………国防軍に戻られるおつもりは、ないのですか?」



『……ないよ。今も、この先もずっと』



「そう、ですか。おかしな事をお聞きして失礼しました」



 冷たさの混じった雰囲気を感じ取り、市川は目を伏せる。



「あともうひとつ、お聞かせ願えますか?」

『何だい?』



「今、アオさんの機嫌が過去一ぐらいに悪くて魔族に八つ当たりしているのですがどう……………」



 返答がなくなったのを不審に思い画面を見ると、既に通話が切られている。



「すれば………………。話は最後まで聞きましょうよ」



 刹那、結構な大きさの瓦礫が眼前に飛来。

 それを間一髪で受け止め、明後日の方向に投げ飛ばした。どこかで悲鳴が聞こえた気がしたが、彼のせいではない。市川の方向に瓦礫を落としたアオのせいだ。



「ごめん市川ぁー、そっち飛んだ!!」



 遠くの方から謝ったアオの大声にこめかみに青筋を浮かべ、殺意を堪える。ここからでは姿は見えないが、特に心から謝ろうとしていない事はすぐに考えついた。

 しかし再び瓦礫が飛んできた時、市川のストレスは限界に達する。



「……どいつもこいつも自己中ばかり……っ!!」



 近くの木を力強くぶん殴る。その衝撃が地面を振動させた。

 ミシミシと音を立てた木は盛大に倒れ、木の枝に止まってきた小鳥たちが精一杯に羽を動かして逃げ出していく。

 まるで、関わらないでくれと言わんばかりに。




 隊長とその補佐が醸し出すあまりに険悪な雰囲気に、第零部隊に所属する部下たちは終日、背後で怯えながら待機しているしかなかった。




 *****




「ええか? こないなことはもう二度とせえへんように!! 第零部隊のほとんどの隊員から苦情上がっとったんやで??」



 魔族の討伐、そして事後処理、報告を終えたアオと市川は鬼谷の執務室へ呼び出されていた。いまだ彼らの機嫌は治らない。


 簡潔に言うと2人は、数年間共にして初めて───、喧嘩をしたのだった。


「アオちゃん、返事は?」


「……ごめんなさい」



 アオは躊躇うように、目を逸らして呟く。終始無言を貫きポーカーフェイスを保っている市川が、僅かに顔を顰めている。



「市川くんもやで?」



「………………すみませんでした」



「アオちゃんより間が空かんかったか今!?」


「アオさんの方が間が空いていたかと」

「市川でしょ」


 言い合いを始める二人を宥める役は、彼しかいない。


「いや待て待て、落ち着くんや2人とも!! 何かしら理由はあるんやろ?? アオちゃんはまだしも、なんでまた市川くんまで」



「自己中と傍若無人をかけてわがままを二乗したような隊長、元隊長の二人のお守りをする俺の身にもなって頂きたいですね……あぁ……そういえばアオさんは俺の弟子ではありませんか。

アオさん、上司とはいえ、師匠に対する扱いがなっていないのでは??」



「君こそ、私が始業式を楽しみにしていたのを知ってたくせに、わざわざ今日の依頼を受けたよね?? ……(たち)の悪い嫌がらせか?」



 アオと市川の静かな睨み合い。

 その中には僅かな殺気さえ含まれ、徐々に2人の魔力が高まっている。



「アオちゃん、せやからいい加減に……」



「第零部隊は強い者が上に立つ。どうだろ、久しぶりに……模擬戦で決着をつけようよ。あ、もちろん手加減はしないから安心して」


 鬼谷はその様子に苦笑し、割って入るが、それも虚しくアオが挑戦的な目で市川を向いた。彼はわずかに眉を動かし、アオの言葉に微かに笑った。



「……いいでしょう。では、実力の差を思い出してもらいましょうか」



 彼らは、鬼谷の制止を完全に無視して、背中合わせに踵を返すと、そのまま無言で執務室を出た。



「あぁもう……こいつら全く人の話を聞かん……………」



 鬼谷も仕方なく席を立ち彼らの後を追いかける羽目になったのだった。




 *****




 使用するのは訓練場。


 3年前の魔人の襲撃から更に施設に施す防御結界の強度を上げたもので、階級の高い魔法師の模擬戦に使われることが多い。中の様子は外にあるスクリーンから確認できるのだが、どこから情報が漏れたのか既に多くの隊員によるギャラリーができていた。



『武器、魔導具の使用は禁止!! どちらかが戦闘不能か降参と言った時点で終了や!! それでええな!?―――』



 向かい合うアオと市川。その視線は一点の揺らぎもなく互いを見据える。

 彼らの上から鬼谷のアナウンスが聞こえた。



『模擬戦、開始!!!』





 *****





「これは……どういうことだ?」



 始業式が終わり、基地へと帰ってきた千草と天原。

 人1人も見当たらない質素な廊下をただ歩く。


「あっ、見ろ天原、誰かいるみたいだ」



 相手側もこちらに気がつき、駆け寄ってくる。隊員の興奮したような様子に2人は怪訝な顔をした。



「なんで誰もいねえんだ? 集まりでもあるのか?」

「違うよー!! あれ、君たち知らないの?」


「「何を」」


 千草が隊員に問いかけると、楽し気な声色で聞き返してくるその男。

 綺麗にハモった千草と天原の言葉に、彼は嬉々として答えた。


「あの特級魔法師の碧と、一級魔法師の市川さんが喧嘩して、訓練場で模擬戦してるんだよ〜。君たちも早く行かないと、見逃すよ!?」


 角を曲がっていった男の背中を呆然と眺め、千草と天原が顔を見合わせた。



「あの2人が、喧嘩?」



「でもそれ本当なら…………」

「見逃すわけには………いかねぇなあ」


 楽しそうな表情を浮かべ、真っ直ぐ走り出す千草。


「ん?? あいつ……以前どっかで……」



 天原は先程の隊員に眉を顰めながらも、結論は出ず、千草の跡を追った。




 *****




 合図が鳴ったと同時に、アオの姿が消えた。いや、崩れ落ちるように一気に下へ重心を下げたのだ。

 地面に片手をついて体を支え、蹴り上げる。


 狙うは、首。


 市川はその足を反射で掴み、壁まで投げ飛ばした。



「うわっ……!!」



 アオが体勢を立て直すと目の前に市川の拳が迫る。彼女は間一髪で躱し、市川の腹に膝蹴りのカウンター。威力が足りないのか、彼は少しよろめいただけだった。それを利用してアオの胸ぐらを掴み地面に落とす。


「学習しなよ……」


 呟き、魔力を解放した。市川はすぐにアオから手を離しギリギリでシールドを展開するが、彼のスーツの袖が破れる。



「失念していました……そういえばアオさんは完全無詠唱がお得意でしたか……」



 彼の瞳が微かに和らぐ。

 3年前、坂が引退してからアオは変わった。他人を寄せ付けない強く華麗な隊長に。


 しかしそこには孤独があった。




(アオさんは、本当に成長したようだ)




「今日は……勝つ」




 光を映す綺麗な瞳で、アオが静かに口角をあげた。




 *****




 アオと市川が模擬戦をしている頃。



「あっ、君たち魔高の子〜?? 何年生??」



 国防軍基地から少し離れた場所、先程千草たちに話しかけた軍服の男は、魔高の制服を着た子供たちに近づいた。そこは広場で、人目も多い。

 しかし突然学生に近づいてくる男を不審がらない者はいないだろう。


「そう、ですけど……あなた、誰ですか?」

「不審者?? 通報する?」


 声をかけられた女子生徒は警戒するように目を細める。

 が、その背後にいた赤髪の少年が向日葵のように明るい笑顔を浮かべた。



「あ、那原さん!!! お久しぶりです…!!」

「ぇ…………、あっはは、もしかして、凪!? 驚いた、大きくなったね〜」


 軍服の男、那原は目を丸めて微笑む。


「兼得先輩、お知り合いですか??」

「はい! こちら那原田貫さんです。その隊服、やはり試験は合格したんですね…………すごいなぁ……」


「あはは……じゃあ、邪魔してごめんね。僕は用事があるから、これで」



「えっ……?? 僕たちに話しかけたわけじゃなかったんですか??


 ────ってあれ、那原さん??」



 那原の姿は忽然と消えている。

 兼得たちは不思議そうに周囲を見渡していた。





 *****




 衝撃波が訓練場を襲う。

 モニターで見ている隊員たちは、固唾を飲んでその戦いを見守っていた。


 その彼らの決着がついたのは、まさに一瞬だった。



 アオが掌底を撃ち込もうと前に出ると、市川の長い髪が揺れ彼女の視界から消える。

 鋭く研ぎ澄まされた殺気。

 アオはそれを感じ取り硬直した。何かがずるりと胸の奥から湧き出る。


 どす黒く濁った魔力が滲み出てアオに絡みついた。

 その何かが呼び覚まされ、彼女の瞳が冷たい弧を描く。



「アオ……さんッ………!?」




 強力な防御結界の張られた壁を抉り───、彼女の手が市川の首を絞めていた。

 軽く呻き声を上げて抵抗を試みる市川。気配が変った瞬間から突然出力が上がり、少女の体とは思えない力に、苦悶の表情を浮かべた。


 音もなく市川の足が揺れる。

 それがアオの顎に届く寸前、空間を裂くように轟く叫び声が響いた。



『模擬戦終了!!! そこまでや!!!!』



 一瞬、呆然とヒビ割れたスピーカーを見てから、顔を顰める市川を目に映した。


 湯悦に歪んでいたアオの笑顔が消える。



「…………終、了?? あぁそうか、模擬戦、か。うん、そうだったな…………」



 アオの瞳に光が戻っていく。ゆっくりと彼の首元から手を離した。

 突如空気が流れ込み、咳き込んで呼吸が浅くなる。市川は喉を抑えアオを向いた。



「………アオ、さん……」



 市川の黒い瞳が彼女を射抜く。それはマフィアである彼の本性が滲みだしたかのような暗さであり、明らかにアオへ向けられていた。



「俺を、本当に殺そうとしましたね??」




 訓練場の扉が開いて、大勢の隊員が押し寄せる。歓声で空気は晴れ、アオはその中へ平然と入っていく。

 彼女は少し頭を傾け、市川を振り返った。



「君だって本気だったじゃん……何か問題ある?」




 彼女の深い青に呑み込まれるような錯覚に陥る。この感覚にはどこか、覚えがあった。


 十数年前に邂逅した恐怖。悍ましいあの怪物と、目の前の少女の姿が重なる。




(人の性格や能力の殆どは、今までの環境と経験に基づいていると言われている。監視役として、隊長補佐として……)



「いえ、何も。しかし………………やはりアオさんは本当にお強い。感服致しました」



「……そっか」



 市川は立ち去っていく彼女に感情のない静かな視線を向け、胸に片手を当て敬礼を捧げた。




(俺は、アレの正体を知る必要がある)




 強く、確かな決意とともに。




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