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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第二章 東京都立魔法高等学園編
29/53

28話 影の男

申し訳ありません。

キリが悪くてとても短い回になりました。


次話は長め………たぶん。

 


 日が沈み、黒の帳が降りる。

 どろどろと溶けてしまいそうな暑さもいつの間にか涼しい風へと変わっていた。


 とある大きな屋敷の門前に、黒いスーツを身に纏い夜に溶け込んだ市川と、同じく黒に身を包む数人の部下が訪ねていた。市川は袖を捲り、銀の腕時計を確認する。



「定刻通り……さて、開けて頂けると良いのですが」



 重厚な鉄の門が、ゆっくりと開いていく。

 その先には白い生地に真っ赤な牡丹が大胆に描かれた着物を着た女性が佇んでいる。



「お待ちしておりました、横浜マフィアの皆様……どうぞ、中へお入りください」

「これはこれはご丁寧に……突然伺うことになり申し訳ない」



「……今宵は有意義な話をできることを願いますよ……天原、木月さん」



 市川の表情に影が落ち、妖しげな笑みを浮かべる。彼の腕時計の側面には小さな赤い光が点滅していた。



 *****



 木製で統一された古風な部屋に案内され、市川と天原夫妻が座敷で向かい合った。

 市川の部下は部屋の外で待機させていた。



「申し遅れました。ご存知かとは思いますが、俺は()()()()()()()()(りん)と申します」



 市川は感情の無い表情で淡々と名乗った。


 裏社会では存在する全ての情報が武器となり仇となる。それがたとえ、自身の名だとしても。



 彼の暗号名(コードネーム)は“霖”。


 暗い霧に覆われ、止むことのない雨。

 ひっそりと咲く黒い薔薇は、静かに、しかし闇の中で鋭く、その棘を魅せている。



 普段から使っている市川燐矢という名前も、もしかしたら偽りなのかもしれない───が、その真相は、本人以外に知る人はいない。


 白い着物を着た女性は静かに微笑む。


「改めて、私は天原木月(あまのはらきづき)。そして、こちらは主人の宋隆(そうりゅう)です。この度は横浜の方々がわざわざ、我が家との商談に乗って頂けるとは……」



「魔導具の取引を持ち掛けてもらえるなんて思ってもいませんでしたよ。我々としても貴族様との伝手はほしいですから………ところで、最近この辺りでは、いくつか不可解な事件が起きているようで。さぞお忙しいでしょう」


 指が卓の上をなぞり、すっと音を立てる。

 天原木月はその指に目を落としてから、静かに溢した。



「不可解な………事件ですか?」



 市川は、その様子にわざとらしく少し目を開き、声の多きさを落とした。



「ご存じありませんか? ……例えば」


「ある3人の学生の誘拐事件、とか。横浜でもよく耳にするのですよ。そして噂ではその全員が」



 市川の視線が宋隆を射抜く。

 逃げ道のない空気が、部屋に満ちていく。




天原輝夜(あまのはらかぐや)さんの関係者だった、と」




「そうですか、輝夜の………」


 宋隆の声はぎこちない。木月は湯呑みに手を伸ばすが、その手は微かに震えている。

 声も出せない緊張に、市川の腕時計の針音だけが静かに響く。



「何か……、ご存知ですね?」





 *****




 マンションの一部屋。



 暗い部屋、モニターの灯りだけが彼を照らす。

 薄い茶髪に隠れたイヤホンを外し、男は黒いスーツを纏った。



 窓の外の、あり得ないスピードで夜を駆けていく少年をちらりと見て、笑う。



「さ、僕も行こうかな」



 その男には左腕がない。足には爛れた火傷の跡があり、痛々しい包帯が垣間見える。

 彼は、デスクに立てかけられた松葉杖を手に取り、一言呟いた。



「個人魔法……《(シャドウ)》」




 *****




 基地内、研究室では。アオと漆原が毒々しい何かを作りあげていた。



「やっ……と終わった!」



 彼女は達成感を含んだ喜びの声を上げる。

 同じように興奮した声色で薄紫の髪を揺らしながら漆原が捲し立てる。



「すごい……! やっぱり俺と組んだらぃいよ!! ほら、市川みたぃなよくわかんない堅物じゃなくてさぁ!? 天才の俺の方が何かと頼りになるよぉ?」


「……でも彼も優秀で有能ですから。そういえば、漆原隊長は市川のこと、何か知ってますか?」



───今日の市川は、普段とはまるで別人だった。私が思っていたよりもずっと…。



「ぇー、裏の仕事をしてるとかしてないとか………やっぱわかんないや、きょーみないし」

「あ、そうですよね」


「それよりこの新作の麻酔薬!! どっかにお手頃な実験台知らない?? ここ最近まではあの魔人で試してたんだけどねぇ、学生さんと一緒に消えちゃったしさぁー」


「……まぁ、また新しいの連れてきますよ。その誘拐の件も、市川が解決してくれるみたいだし」


「へぇ……随分信頼されてるねぇ、あいつ」

「何か、あるんですか?」


 意外そうに呟いた彼に不満を隠さずアオが言うと、漆原は微妙な表情を見せた。


「ゃ、別にぃーけど。市川は………元々は狂犬みたいなヤツで全然人の言うこと聞かなくてさぁー? まぁ1人だけ? 唯一あぃつが従う人がいた」


──狂犬? そういうところが無いとは言い切れないけど、いつも冷静で真意が読めないから忠実というイメージはあれど、勝手に行動するようなふしはない。


 眉を顰めながら彼女は少し考える。



「それ、誰なんです?」



 アオは話を先に進めろと苛ついた口調で訊いた。彼は、その反応を面白くなさそうに、市川が唯一従うという、男の名を言った。



「……坂秀成」



「坂……!? ………懐かしいな」


「引退した今は、どっかで身を潜めてるらしいけどねぇ。一般人からの人気も相当だったから………騒ぎにさせなぃためかなぁ。あの腕と足も、人に見られて気持ちのいいものじゃないでしょ」


 鬼人・焔の攻撃からアオを守り、片腕を失くし片脚を火傷し、歩くのもままならない負傷をした坂。

 恵比寿センター街で市川と別れる時、市川が言った言葉を思い出す。



『今日の夜、ある商談がありまして。誘拐事件の真相に近づけるかもしれません』

『はっやいね。ひとりで行くの?』

『あぁいえ、心配ありませんよ。俺には…』




『協力者がいますので』




「まさか………ね」



 まるで自分がそうであってほしいと願っているような考えを、首を振って否定する。



───彼は、前線を離れたはずだ。




───私の、せいで。




評価、ブクマ、感想くださると嬉しいです!!!

次回はたぶん日曜に更新します。

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