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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第二章 東京都立魔法高等学園編
25/53

24話 悔しさ

 



「天原神月……!? 本物……!?」


 一同の視線が天原に集まる中、阿流間が珍しいものでも見るように目を見開いて叫んだ。


「そんなに有名なの……?」


 アオが驚くと、植田が真剣な表情で神妙に頷く。


「この学校で彼を知らない生徒はいないよ。“特課の天才”とか“さぼりの神”だとか、色々異名がついているほどだしな」


「そこまで言うなら……実力も相当ってこと??」


「実際に見たことはねぇけど、あいつだけは上級貴族が集まるA組のなかでも別格らしいぜ!?」


 広夜麻がそう答えると、アオは天原に視線を戻した。周囲がざわめく中、天原の焦茶色の鋭い瞳がA組をゆっくりと見渡す。



「おいA組」



 低く、落ち着いた、ぼそりとした声。

 神月はポケットに手を突っ込んだまま、だるそうに歩き出した。しかしその足取りは、信じられないほど滑らかで、無駄がない。


 ポケットに入れていないその手の指を動かしたかと思うと、いち早く反応した千草とアオが前に飛び出し───、



「「《シールド》!!!」」



 慌てて構築したシールドにはヒビが入り、天原の背後にいるA組の生徒達にも衝撃波が届く。


「あ、あの人!! 一瞬魔力を放っただけなのに……!!」


 恐怖に近い有崎の呟きが、一同の内心を代弁する。その声で我に帰った車谷が宣言。



「試合、続行!!!」



 聞いているのかいないのか、天原は手をポケットに入れ、A組の生き残りに目を向けた。


「オレが参加するからには合理的に行動しやがれ、馬鹿共」


「ば……!? 調子に乗らないでよ!! いつも授業をサボってるくせに、えらそうに」


 星野の反論を遮り辛辣な瞳で彼は答える。


「あのさぁ、お前。一回でも何かの成績でオレに勝ったことあんの?」


「っ……!!!」


「言い返せねーなら、オレに従え。てか、現にさっきまでボロクソやられてたじゃん。無駄に死に急ぐ必要はないと思うよ。じゃあ、まず石塚」


「はいよ、久しぶりだな、神月」


 石塚と呼ばれた少年が気軽に声をかけるが、天原は顔を顰めた。


「いいよいいよそういうの、めんどくさい。

 お前はそこの……魔力の高いクソガキをやれ」


「いやどれだよ」


 適当に目線を向けクソガキと言った天原に、慣れているようにすかさず石塚がツッコむ。

 クソガキと呼ばれた自覚のある千草は、額に青筋を威嚇しながら立てている。


「茶髪の……ほら、キレてるやつ。お前が適任だ。そんでディストリー、星野」


「ああ」

「あぁ?」


「そこの女……霧山碧をやれ。まぁアレは倒せなくても文句は言わねーよ。後はオレが戦うから。いいな?」


「準備はいい? 待ってあげてるんだけど?」


 見計らったアオが大きく声を張る。



──天原神月。話している間も全く隙がなかった。無闇に突っ込んでも防がれるし……国防軍にもそういないだろう。



「実力者、ねぇ」


 はは、とアオが楽しそうに笑うと、視線を移した。


「とりあえず君たちは倒させてもらうよ……《魔力弾》!!!」


 凝縮された魔力の塊が星野とディストリーを襲う。が、


「個人魔法《盾王(じゅんおう)》!!」

「《ぜったい割れない盾になれ》!!」


 星野の《言霊》によって強化された、ディストリーの個人魔法《盾王》はアオの攻撃でも突破できずに軌道を変えられる。魔力弾はその勢いのまま壁に衝突する。


「君に協力するのは不本意なんだけど。勝つためだ。ぼくの魔法、貸してあげるよ、真面目くん。その代わり指示はぼくが出すから」


「それは感謝するよ。存分に有効活用させてもらう。だけど指示を出すのは俺だよ」


「はぁー?」


 決して仲が良いとは言えない2人の協力。

 アオにとって個々の力は取るに足らないが、こうなってしまったら未知数。




「気絶させるぐらいのつもりで撃ったんだけど、傷もつけられないなんて……これは、厄介だな」




 彼女はますます楽しそうな表情を浮かべた。






 *****






「お前、名前は?」


「こういうのって、自分から名乗るんじゃねぇのかよ?? ……つか、さっきクソガキやらなんやら言ってたの忘れてないからな」


 千草が不快そうに顔を顰めると、石塚は納得したようで視線を向けた。


「それもそうだな……俺は石塚智也。まぁ、今日は戦うけど同じ魔高の生徒だ。これからよろしくな」


 明るくそう言った石塚。天原の生意気な対応と比べて好印象であり、千草は軽く相手の認識を改めた。


(こいつ……意外と良いやつじゃん)


「俺は千草界、よろしく………。じゃ、さっそくやるか」


「ああ、そうだな!!」


 拳を構えた石塚に、千草は違和感を感じる。


(個人魔法は強化系か?? いや…)


 考えるまもなく目の前に拳が迫った。千草は瞬時に頭を横へ逸らして回避する。


「速っや!!?? あっぶねぇ……」

「へえっ、避けるのか!? さすがだなお前!」


 石塚を視た彼は、ようやく違和感の正体に気づいた。


「石塚、お前……個人魔法、いや強化魔法さえ使ってないな?」


(碧と特訓してないと避けることさえできなかっただろうけど……)


「ん? ああ、よく気づいたな」


 何でもないようにそう言うと、言葉を繋いだ。


「俺、個人魔法を持ってねんだよ」


 あまりに軽々しくバラした石塚を見て、聞き間違えかと耳を疑う。殆どの者が魔法を持つこの時代、個人魔法がない人間は非常に稀なのだった。



「……っ、はあ!!???」



 千草は、一コマ遅れて目を剥いた。




 *****




 それぞれ戦闘が始まるなか、1人置いてけぼりにされている少女がいた。紺の長い髪で顔が隠れ、強張った表情が更に暗く見える。



「わわ、私は、どうすれば……」



「……有崎みずな。成績はB組最下位」


「ひぃ!?」


 静かに呟かれた声に悲鳴をあげ、顔を青ざめさせた彼女。気づいたら有崎の目の前に天原が立っていた。


「ななななな、なんで私のところに!? 何もないですから!! ほほほら私、超弱いですし……」


「いいから聞け。確かに弱いんだろうよ。戦ってるの見たことないけど別に魔力も多くねぇし、身体能力もそこまで高くないだろ」


「うっ……いや、そうですけど……」


「弱さの原因は、お前のその性格だよ。さ、ヒントはこのぐらいでいいだろ。残りものは残りものどうし、始めようか」



 楽しそうに口角を上げた天原に対し、表情筋をひくつかせ、冷や汗を掻く有崎。



「え……勘弁、してください……」



 彼女は、ガタガタと震える手で杖を握った。




 *****




「さーて、負けるのは嫌だし、強めにいくよ」



 空気が大きく揺れ、アオの存在感が1段階上がる。

 強い圧迫感が彼らを襲うのだ。



「魔力の解放……!? さっきの魔力弾も相当な威力だろうに……」


「びびってる暇あればさっさと盾作ってよね」


 星野の煽りに素早く叫んだディストリー。杖を大きく振って前に突き出した。


「言われなくても今やってる!! 《盾王》!!」


「《盾よ、100倍の強度になれ》!!!」



「《魔力弾・20連》」



 アオが両手をかざすと、髪が揺れ、空中に20の魔力の塊が用意される。その1つ1つが暗く濁った奥の見えない球体。星野の表情に恐怖が走る。



「《盾、もっと、もっと強くなって》!!」




 全弾、盾に直撃する。




 その威力で、衝突した煙が立ち込める。ディストリーと星野は盾ごと向こうまで吹き飛ばされた。



「……うそでしょ?」



 呟いたのは星野達、ではない。

 その方向に目を細めて凝らしたアオが、顔を引き攣らせながら呟いた。


 壁には大きく抉られた跡がある。アオの魔法の影響。

 しかし、彼らと、その盾はなんと────、




 無傷だったのだ。




 星野は、背後の変形した壁を振り返る。表情を変えないままに喉元を抑えた。掠れる呼吸音だけが音を鳴らしている。



(もし最初の100倍のまま受けてたら、ぼくたち確実に……!!)


「お、俺たちを殺す気か!!??」



 ディストリーは、前のめりにアオへ向かって、あり得ないと叫ぶ。アオは不思議がる表情をしていた。素のままに、理解できない、と首を傾げる。




「人ってこのぐらいでは死なないよ??

 ほら、先生たちも止めに入ってないじゃん」




 アオがちらりと2人の教師を見ると、駒井の腕を車谷が掴んでいた。駒井はその手を払いのけながら、疑いを隠さず車谷を睨む。



「実際盾がなければ死んでたろうに……なぜ、止めるんですか、車谷先生……」


「いまはだめですよ、先生。だってあの子達は今……、成長しようとしていますから」



 車谷は展開される戦闘に圧倒されながらも、面白そう、見守るように笑みを浮かべていた。





 見事アオの魔法を防いで見せた星野たちが呼吸を整えるように息を吐く。ディストリーはアオの仕草を一挙一動見逃さないようにアオに視線を止めながら口だけを動かす。



「次は威力も消す自信がある。そっちは?」


「ぼくもだよ。もし霧山碧に余裕があったとしても、あれを越すほどの火力は模擬戦のルール上出すことはできないはず……ゔっ……」



 星野が片手で喉を押さえたかと思うと、突然地面に膝をつき────吐血。


「ちょっ、平気か!? 星野!?」


「君の痩せ我慢よりはマシ。君の魔力、もう全然ないよね……」


「なんで……!?」


「次、攻撃が来たら、君1人で防ぎきって……ぼくは、その間にあいつを倒すから」


 覚悟を決めた表情。

 だが、彼女の言葉を切るようにディストリーも真剣な顔を見せ、それから星野に挑戦的な笑顔を向けた。


「指示をするのは俺だって言ってたよね。

だけど……そうしなきゃ、あれには勝てないのも同意だ……覚悟はできてるよな?」


「はは、このぼくを誰だと思ってんの!!」



 作戦は決まった。

 あとは行動に移すのみ。2人は詠唱を合わせる。



「「汝の願いを聞き入れたまえ……」」


「個人魔法《盾王》!!」

「《速くなれ》」




 彼らが準備をし始めるのを確認して、アオは体の内側に思考を走らせていく。星野とディストリーがこの戦闘を終わらせようと必死になっている様子を察し、それならと魔力を巡らせる。




──さっき使った魔力の倍……、残りの半分を……。




 エネルギーが強制的に歪まされて、凝縮され、グォンと激しい音を鳴らす。

 アオは両手を前に構え、腰を落として足で地面を踏ん張った。


「光まほ、うっ……《輝星(アストラプト)》!!」


 慣れない光魔法に、目の奥で激しく星が散り、顔を顰める。

 アオの正面に数えきれないほどの光の球が瞬いた。それは光速で盾に激突し、目が眩むほどの輝きを放つ。


「うっ……」


 アオが思わず頭を抑えると、彼女の背後で舞った煙が空気を切り裂いた。勢いよく振り返るアオの目に映るのは近くに迫った少女。


「ぼくの、勝ち……」


 その声に、海色の瞳がすっと細まる。

 彼女はなぜか、愉しげな表情をしていた。



 *****



「すごいな、まだ着いてこられるのか!!」

「はは、お前こそ……!!」


 その頃、石塚と千草は魔法を一切使わずに、素の体術のみで殴りあいをしていた。

 その戦いは接戦だが、若干、石塚が押しているようにも見える。


「まじで速ぇな……代償者ってやつ、か!」


 石塚の大振りを後ろに仰け反り回避しながら、千草が言った。



 代償者────。

 生まれつき何かに秀でた才能を持つ代わりに、一般的な能力が欠けている者のことを指す。代償者は珍しく、10万人に1人の確率とされていた。


「よく知ってるなぁ、千草。俺は身体能力が突出している。その代わり、生まれつき個人魔法の素質がゼロなんだよな」


 石塚の腕を流しながら、千草が足払いをかけようと足を出した、その時。


「い"っ……!?」


 千草の体が、一気に下へよろけた。


(足……つっちまった……!? 今更オールの反動かよ……やばい、やられ……!!!)


 彼は動かない右足を引き摺り、防御の姿勢を取る。それを見た石塚が彼に駆け寄る。


 しかし、攻撃はこなかった。

 その代わりに静かに差し出された、片手。



「おい、大丈夫かよ!? 動きが固かったし、やっぱ万全じゃなかったのか!?」


「は……?」



 予想外の発言に千草は目を丸くする。返事がないのをどう受け取ったのか、石塚は慌てた様子で教師陣へと目を向けた。


「せんせー!! 俺は何もやってないんすけど、千草のやつが急に倒れちゃって……」


「えっ、ちょっと、待っ……」


(もしかしなくてもコイツ………!!)


 千草の疑問が、石塚の心配そうな表情で確信に変わり、驚愕する。



(本気で俺のことを心配してるのか…!?

 どれだけ、お人好しなんだよ!?)



「ふざっけんな、てめぇ!!!???」



 混乱と嬉しさ、様々な感情が混じってバグを起こし起き上がると同時に彼は、下から石塚を蹴り上げた。



「痛った、突然なにするんだよ、千草!?」


「石塚てめぇ、アホか!? いやアホだろ!! どうみても隙だらけだったのになんで敵の事心配してんだっ!? 甘ぇよ!!」


「またかぁ……神月にも怒られたし、やっぱり俺、甘いんだよな……」


『個人魔法使えねんだからもっと人の隙狙えよ、クソ甘すぎんだよお前は……』


 苛だった天原の声が、石塚の頭の奥でよぎった。

 友達、と言えるのかはわからないが、他の生徒よりは天原と関わっている自信がある。

 似た事を千草に言われて困ったように笑う石塚。



「でもさ、痛そうだったしさ?? 悪かったよ、そんなに怒らせるつもりじゃなかったんだ」


(めっっちゃ良いやつ……悪い気はしない。でも)



「あ"ーもう、いいから戦え……!! これで手加減されたまま俺が勝っても胸糞悪いだけなんだっての!! 全力で、かかってこい」


 千草の言葉に、石塚は笑みを浮かべる。


「へぇ? お前も俺に合わせてるように見えるけどなぁ?」


「うるせー。行くぞ」


 千草も唇の端を少し吊り上げた。



「あぁ、全力で、な」



 2人で同時に地を蹴った。

 拳と拳がぶつかる。乾いた衝撃音が響き、互いの身体が揺れた。


 連打。


 一撃ごとに汗が飛び散る。しかし双方とも心底楽しそうな表情をしていた。


「すげーよ、千草……あの石塚とやり合ってる……!!」


 外野で見ていた広夜麻が呟き、観客席はその戦いに空気感に、圧巻される。

 最後の1発で、互いの拳が頬に同時に突き刺さった。2人はその場に崩れ落ちる。まるで不良漫画のようだ。

 しばらく動けずに肩で息をする。

 先に口を開いたのは、千草だった。


「石塚、てめぇ……結構、やるじゃねぇか……」


「はは……お前こそ……」


 二人は地面に寝転んだまま、苦笑いを交わした。



 千草界、石塚智也、脱落。




 *****




 無防備な彼女を視界に入れ、勝利を目前として笑みを浮かべる、星野。


「《眠って》!!!」


 魔力を乗せた言葉を放つ。

 こちらに気づいていないはずのアオの目が、星野を捉えた。その瞬間、


「うぁあああああああああああ!!!!??」


 ディストリーの方から悲鳴が聞こえた。


「な、何が!? ……ぁがっ!?」


 星野の表情が驚愕に染まると同時に、焼けるような喉の痛みを感じて地面に這いつくばった。静かに星野を見下ろすアオを、精一杯睨みつけた。


「そんなに睨まなくても……。

ディストリーの盾は確かに頑丈だよ。正々堂々の力比べじゃ、模擬戦レベルに制御した私の魔法は弾かれる。だから、方向性を変えればいい」


「な、にを……」


「さっき私が使った光魔法。先に強めの魔力弾を20連で放っておいたから、普通はもっと威力が高いのがくると予想するはずだね。

 だから、光魔法は囮。私は小さい魔力弾を壁に反射させて、盾の後ろを狙ったんだ」


 星野が、息を詰める。


「その間に君は私を急いで追おうとして、魔力を加速に使いすぎた……。私に言霊をかけようとするだけで、その反動が来てしまうほどにね」


 アオは小さく息を吐いた。


「君たちの敗因は、焦りと慢心……それだけだね。良い戦いだった」


 そう淡々と語り、彼女は静かに目を伏せる。その仕草は星野たちの敗北を示していた。



「───おやすみ」



「見えてたの……?? 全部……最初、から?」


 星野は枯れた声で最後にそう呟き、そのまま気を失った。ディストリーと星野の戦闘不能、脱落を確認すると、アオは視線を背ける。体育館の時計で時間を確認。



 制限時間15分のうち、10分が過ぎた。



「あと5分……残りは天原神月、だけ」



 アオの神級魔導具である長い杖は、未だ登場しない。彼女の背中で息を潜めていた。




 *****




 時は少し遡る。


「んじゃ、行くよ……《魔力弾》」


「なな、汝の願いを聞き入れたまえ、!! 水魔法《波紋》っ!!?」


 立て続けに撃ち込まれる魔力弾を、基礎魔法で対抗する有崎。


「ちょ、もう少し、話を!?」


「あのなぁ、模擬戦してんだよ?? オレらは。そんな甘さじゃ何もできねぇだろうが」


 天原は威力を上げてまた魔力弾を撃つ。


「きゃぁっ!? こ、降参とか……できたり……?」


「するわけないだろ」

「ですよね〜?? あはは……」


 涙を浮かべそうな表情で、有崎は後退りをする。背中の後ろで強く杖を握りしめた。


(なんとか……霧山さんが、来るまで……)


「うぁあああ!!」


 自分を勇気づけるように叫び、杖を構える。


「水魔法、《濁流》!!!」


 前に構えた有崎の杖から、勢いよく水が流れ出す。まるで川が氾濫を起こしたようだっだ。


「急だなぁ、おい……、魔力配分はちゃんと考えてるんだろうな?? ……炎魔法」


 天原は炎で一気に水を蒸発させる。それと同時に大きな爆発が起こり、辺りを煙に包んだ。


「ひぃっ!?……」


「魔法の制御が苦手、か……お前が弱いのは、お前自身の力を信じてねぇからだろ」


「っえ……?」


「……嫌な経験でもあるのかしらねぇが、お前程度の力でオレは負けねぇよ」


 自信過剰。そうとも取れるほどの傲慢さ。しかし、それだけの実力と世評が彼にはあった。

 それを理解している有崎も、出し惜しみしている場合ではない、と感覚的に悟る。


「わ、わかりましたよ……!! どうなっても、しりませんから!! 個人魔法……《階段》っ!!」


 顔色を伺うような目で天原を見ながら、有崎は個人魔法を発動させた。




 *****




「なんでまた研究室なんかに……霧山碧の件は済んだはずだろうが」

「それは那原を向かわせておいたから心配ない」


「あの新人かよ……毎日雑用にこき使って、さすがにハードすぎねぇか? しかも第零部隊と兼任なんだろ?」


「とにかく、それは別件だ。研究室で解剖研究されていた3年前の捕虜、鬼人・焔と、昨日、霧山碧が連行してきてここで取調べを受けていた学生3人なんだが……」


 彼は一度言葉を切り、悔しそうに言い放つ。



「何者かに攫われた」



「攫われた、だと!? 基地内で!? 鬼人の仲間がまだどこかいたってことかよ。待て、その学生って黒滝、江山、吉川……だっけか。あの千草っつーガキに手ぇ出してた奴らのことだよな?? なんでまた……」


 研究室に向かいながらそう話すのは、第二部隊隊長の森壁と、第四部隊隊長の時薪だ。


「その話を聞きに、今から研究室に行くんだ。あいつが興味を持つかは別だけどな」


 研究室のドアを乱暴にノックする。


「おい、今いいよな!? 入るぞ?」

「よせ、これで気分を悪くされたら……」


 案の定、森壁が吹っ飛ばされた。時薪はちゃっかり射線上から外れたところで回避する。


「久しぶりだねぇ、森壁、時薪ぃ……。天才の俺の実験、邪魔しにきたのぉ?」


「相変わらず胡散臭えな……漆原。なんなんだよ、その薬」


 薄笑いを浮かべる白衣姿の男、漆原の手には、何やら怪しげな煙の出ている試験管があった。


「ぁー、これ?聞きたぃ?」


 彼は愉しそうに笑う。


「いや別に」

「その薬の詳細を聞きたいのは山々なんだが」


 時薪は一度言葉を切った。森壁がそう前置きした彼をありえない、という表情で振り向く。森壁など既に眼中にもない漆原が目を輝かせた。


「ほんとーぉ!?」


 光が弾ける漆原の瞳を綺麗に無視して、真面目な表情の時薪が、



「その前に。あなたに聞きたいことがある」



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