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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第二章 東京都立魔法高等学園編
23/53

22話 神級魔導具ってなぁに


「これっ、て……」


「この杖は第三部隊の漆原隊長が管理と研究してたらしくてね。しかもこれ、本当に珍しい杖みたいで、階級は神級魔導具にあたるらしい。なんでも素材がこの世界のどこにもない素材でできてるって言ってたよ」


「たしかに……すごい杖だ。でも、なんでそんな貴重なものを私に?? 私、今のままでも別に特級魔法師だよ? 神級って国宝レベルだし、下手したら世界の財産にもなり得るんじゃ………」


「それがねぇ? もともと碧の物で、使い方を間違えると真面目に大変なことになるから碧に内緒で管理してたって漆原隊長が言ってたんだけど……って、見覚えないの?」



 那原は同期であり、同じ第零部隊に所属はしているが、アオの事を詳しく知っているわけではない。


 彼女が記憶喪失だと知っているのは、鬼谷、市川、部隊の隊長、そして坂のみなのだ。



──懐かしい感覚。つまりこの杖は私が記憶を失う前に持っていたということ。神級魔導具なんて、世界にも片手で数えるほどしかないし、扱える魔法師は、特級か、神級魔法師しかいない……。



 神級魔導具は、その魔導具ひとつひとつが世界の均衡を左右するほどの力を持つ。勇者でさえもその力を存分に振るうことはできなかったらしい。



 アオは軽く首を振った。



──隊長になって機密情報を見れるようになったけど記憶は一向に戻らない。



「考えるだけ無駄、か……。なぜこのタイミングで返してくれたの?」



「漆原隊長は『試しに今日の魔法実技の授業で使ってみてねぇ、危険を感じたらぁやめるんだよぉ』って言ってた」



 那原はそう言いつつ、視線をほんの一瞬だけ杖から逸らした。



「でもアオ、さすがにソレ、使わないよね……?」



 確認するように問いかける。

 アオのような魔力の持ち主が神級魔導具の杖を使って惨事にならないわけがないのだ。



「霧山碧!!!」



 息を切らして叫ぶ少年。

 声の方を見ると、天原が立っていた。



「あれ?? 君、来たんだ。

てっきり面倒事には関わらないタイプかと」


「おまえ、!!!!」


「そんな杖を手に持っておいてよく言えるな?? はぁ……えげつない魔力駄々漏らしといて……自覚あんのか!? クソが……」


「誰、この口悪い子」


「スカウト候補の一年生だよ」

「あー、理解」


 那原とアオが小声で話すと、天原はため息をついた。



「聞こえてんだよアホ。つーか、そのおっさん明らかに魔高関係ねぇだろ、不法侵入でチクるぞ?」



 アオは少し間を開けて、笑顔に戻る。


「この人は私の叔父なんだよ。学校が見たいっていうから連れてきたの。だよね?」


 綺麗な笑顔で那原に目配せをする。

 しかしその目からは圧がかかっていた。


「は、はは……実はそうなんだよね〜!! だから、おっさんでも不法侵入でもないよー」


「……胡散くさ」

「えっ」


 思わず声を出す那原に、再度ジト目をする天原。絶対呆れている。


「まぁどうでもいいけど。

さっさとその防魔布に入れてこの場を離れたほうがいいぜ。ここには勘のいい教師がいるからな」



「へぇ……でも君、なんでそんなに教えてくれるの?」



「そりゃぁ、面倒事に巻き込まれんのはごめんだし。お前、そろそろ魔力抑えろよな、ろくに昼寝もできねぇんだよ………」


「ハイハイ」



──これでも抑えてるつもりなんだけど。


「……特に危険はないみてぇだから見逃してやる。じゃあまた、後でな」


 天原がほんの少しだけ口角を上げた気がした。



──また、後で??




 突如、天原の周囲の空間が歪み────、彼の姿が、消えた。




「「えっ……!?」」



 アオと那原の声が重なる。

 すぐに彼女は天原が消えた付近に駆け寄り、手を口元に当てた。



──魔法式の痕跡がない……つまり個人魔法。これは空間魔法か?? いやもっと別の……。



「これはまた、稀有だね〜」



「天原、か……何がなんでも入れるしかないな。……国防軍に」





*****





「一体どこで何してたんだよ、碧。昼休みまであと3分しかないけど?」



 誰にも気づかれずに教室に入ったと思ったが千草には勘付かれたらしく、教科書の裏でこそこそと話す。


「ちょっと野暮用……仕事だよ。初回の授業を受けられなかったのは惜しいけど、人命優先だからね」


「それはそうだろうけどさ……」


 それに気づいた教師がこちらを睨んだ。


「聞いているのか、千草!! 今説明した内容を貴様が説明するか!?」


(こいつの成績は最下位から2番目……おまけにヘタレときた。二度と俺の歴史の授業で生意気な口がきけないようにしてやる……)


 そう、教師は千草を舐めていた。

 彼が実力を隠していたことを、知らない。



 千草はニヤリと笑みを浮かべ、立ち上がる。



「いいですよ。ま、"俺"が戻ってきた証拠をしっかり残さないといけないし、な」


「っっへ??」


「2245年のあの戦争の説明、であってる??」


 いつの間にか教卓へ立ち、カツ、と黒板にチョークを当てた千草が語り出す。



「2240年に世界防衛共同戦線が設立され、急速に魔法の研究が進んだ日本で、勇者と呼ばれる者が現れた。まぁゲームみたいなネーミングだけど、実際、満を持して人間界に渡航してきた魔王と戦ったってとこだな」


「え、その、千草?」


 教師の困惑したような表情が、生徒達の感情を物語っていた。実際、驚く程に正確で、細かい。


「センセイの言う2245年は、当時18歳になったばかりの若き勇者、西園寺輝央(サイオンジ テオ)と魔王カストルが戦い、人間が勝利した年だ。

西園寺は魔王を討ち滅ぼし他の魔物達も撃退した。それは世界の英雄、まさしく勇者だった、とかはニュースで有名な文だよな。彼は日本初の神級魔法師に認定された後、義弟を日本国王に推薦して、現在は国防軍上層部として任務を下しているらしい……」


 ここまでをスラスラと言い切った。黒板も綺麗にまとめられており、生徒達は慌ててメモを取る。

 だが、そこでアオは1つ引っかかり、疑問に感じていた。


──勇者の義弟?? 軍の図書館の本には弟としか書かれてなかったはずだけど……。


「俺がぱっと思いつくのはこのぐらいだけど、なんか異論ある?」


「はい、千草せんせー!!」


 阿流間がまっすぐ上に手を挙げた。



「質問? 阿流間か。なんでもいいぜ」


「じゃあじゃあ!! ずっと気になってたんだけど、なんで魔王を倒して、魔王軍も壊滅したのにのに魔物が沸いてるの??」


「正確にいやぁ、半壊滅程度だな。今メインで暴れてんのはその頃の残党ばっかで、幹部クラスはほぼ人間界に残ってないらしい。それ以外だと──」


「わかった、わかったから、もういい!! 席に座れ!!! 今日はこれで終わりとする!」


 慌てて教師が遮る。自分の仕事を殆ど取られ恥をかかされていた。千草は物足りなさそうな表情をするが、ちょうどチャイムがなったので大人しく席に着くことにした。

 気になったのでアオが千草に口を寄せる。



「へぇ。君、歴史に詳しいの?」



「別に? これくらい誰でもわかる」

「ふーん、そぅ。昼ごはん、一緒に食べない?」


「急だな……てか食堂の場所、わかるの?」



「え? 案内してよ」



 さも当たり前かのような表情で目を丸くするアオ。そんな彼女に呆れたような目を向けるが、気にしていないのか、にこりと笑っている。


 千草は深く息を吐いた。




「……わかったよ」






*****





「おいしい……値段が高いだけあるね……」



 きらきらした目でソフトクリームを頬張るアオ。



「それ、ここの食堂でも最高級だし……。 貴族の僕でもソフトクリームにそんな大金を払ったことはないなぁ……というか、ソフトクリームの味ってそんなに変わるの?」


 彼女を見ながら、植田が言う。

 千草に案内をしてもらっていたら、途中で植田、広夜麻、阿流間と合流してしまったのだ。陽キャグループのような雰囲気に、千草は少し萎縮している。



「高級パフェを食す霧山さん……美しい」


「味が落ちる。静かにして」

「甘味に厳しいな!?」


 わいわいと盛り上がるなか、千草は口を開く。


「それはそうと、次の授業って、魔法実技だよな? もう少し急いだ方がいいと思うよ」


「はひょむひうひ!?」


「まず食べ終わってから喋れ、まじで何言ってんのかわからんから」


 冷静に千草がツッコんだ。アオは食べていたのを一気に飲み込むと、千草に身を乗り出す。


「次、魔法実技? 魔導具は使用できる? 模擬戦やる???」


「う、うんやるよ!! みんな杖も持ってる!!」

「そういえば、今日はあの特課A組と合同だったよな!!」

「そうそう、すごい強くてさ!!!」

「あ、阿流間、広夜麻このバカ!!」


 千草は慌てて言葉をつなぐ。



「こいつの模擬戦、やばいんだよ……」



 不思議そうな顔をしていた3人だが、アオの表情を見て千草の言いたいことを正確に理解し、顔を引き攣らせる。


 アオは、滅多に見せない満面の笑みで、体に強い魔力を漂わせていた。




*****




 校舎とは少し離れた場所にあり、その敷地は更に広い。


「体育館か。広いね、まるで訓練場みたいだ」

「訓練場?」


 不思議に思った阿流間が、杖を肩に担ぐアオに訊いた。訓練場は国防軍基地内にある施設。バレてはいけないので、彼女は言葉を濁した。


「いや、こっちの話」


 アオ、千草、植田、広夜麻、阿流間が5人で雑談していると、体育館の入り口で話し声が聞こえてきた。


「あの子たちは?」


 アオが静かに植田に聞いた。


「一年A組。特別課外クラスって呼ばれてて、成績が高い上級貴族が集まってるんだ。まぁマイペースな人たちばかりだから、あまり好まれてはいないんだけどね……」



「うっわボロくさいなぁ……B組」


「底辺貴族と合同なんて意味ないよ。特に目立ったやつもいないんだし」


「それなぁー、イキらないでほしいよね」



「ちょっと!! 入ってきて早々にそれはないんじゃないの!?」



 阿流間が叫ぶと、先頭に立っていた生徒が鼻で笑う。


「仕方ないだろ。お前らが弱いんだし」


「あ、あのねぇ!!!」


「やめなよ、あかり」



 反論しかけた阿流間をアオが制止する。


──驚くほどではないけど。特別視される程度の実力はありそう、か。



「お前誰だ?? 見ない顔だな」

「あっ、あの子、校門でみたよ!! イケメン執事に黒塗りの車で送り迎えされてる、転校生!!」


 隣にいた女子生徒が声を上げた。


「イケ……んんっ……たしかに……」


 執事の市川を想像してツボる。

 冷静になったアオは人当たりの良い笑みを浮かべ、前に立った。



「うん、昨日転校してきたんだ。……でも、私が誰か聞く前に君が先に名乗るべきじゃないかな?」



 黒塗りの車、と執事という単語から、なにやら察したその生徒は静かにアオに頭を下げる。胸に手を当てて静かに瞼を閉じた。



「これは失礼した。まさかあなたも貴族だったとは。俺は寒河江日祀(サムガエ ヒマツ)という。この美少女は菅沢桜(カンザワ サクラ)ちゃんだ。以後よろしく」


 隣の女子生徒を美少女と絶賛しながら、寒河江が名乗った。



「寒河江、か。珍しい名前だね。まぁ私、正確には貴族じゃないけど……私は霧山碧、よろしく?」



 アオが名乗った途端、ぴくり、と彼の眉が動く。

 国防軍の地位は国内で貴族と同等ではあるが、貴族としての階級は持っていないのだった。



「霧山……か。とにかく、お前らの実力は模擬戦で証明してもらえるかな」


「なによ!! 今回ばかりは負けないんだから!! ね、碧ちゃん!」



 寒河江の発言に阿流間が対抗する。アオは完全に無視して思考に走った。


──私の名前で、明らかに反応した……上級貴族だから国防軍内の情報も知っているのか? それとも……。



「碧ちゃん?」


 阿流間が考え事をしていたアオを覗き込む。


「あぁ、そうだね。負けないよ」


「ちょっと、にい……ひまくん、あんまり強く言わないでよ。嫌われちゃうでしょ」


 菅沢が寒河江の袖を軽く引きながら小声で言う。すると、寒河江は優しく微笑み、


「桜ちゃんは優しいね。でも模擬戦に遠慮はいらないよ。特に今回は、油断してたらこっちがやられるかもしれないしね」

「ひまくんは負けないよ!! 私信じてるから!!!」

「桜ちゃん……なんて良い子なんだ…」



「うわぁ、また始まったよ……」



 A組の生徒が見飽きたように目を逸らした。この光景はいつもの事らしい。



「えぇ、なにあの2人。距離近すぎない?」



 眉を少し上げ、少し嫌悪を表したような表情で、千草が呟いた。

 タイミングが良いのか悪いのか、授業開始のチャイムが鳴る。2人の教師が体育館へ入室した。



「ははは、すでに模擬戦が始まっているような雰囲気ですね…」

「元気がいいのは良いことだが…」



「全員、整列!!」



大きくはっきりとした声が響いた。




「「A組B組合同、魔法実技を始める!!」」




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