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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第二章 東京都立魔法高等学園編
22/53

21話 預かりもの

 


「迷子に……なったかもしれない」



 アオは廊下で1人、ぽつりと呟いた。

 ちなみに今は授業中。魔物の気配を感じて教室から抜け出しはしたが、入り組んだ構造のこの学校を気配だけを頼りに歩くのは少々無理があった。


「全部突っ切っていいならすぐ行けるのに……。まぁなんとかなるか」


 そう割り切って少し歩くが、10分ほど彷徨い、やっと開けた場所に出た。中央には大きな木があり、存在感がある。中庭である。




「ここ、3階なのに……さすが名門校」




 アオが吸い寄せられるように中庭へ踏み入れ数歩歩くと、動きを止めた。



 空気が張り詰める。

 風が止まったような静寂。肌が少し粟立つ。



 ───威圧?? ……誰が。



 木の木陰で男子生徒が寄りかかっていた。



 しかし、アオはいままで認識できなかった。つまり彼女を凌駕するほどの魔力隠蔽。



 彼は目を細め、めんどくさそうに息を吐く。



「何の用?」



 アオはすぐに笑みを浮かべた。



「えぇと、勝手に入ってごめん。

 良い場所だなと思ったからさ」


「へぇ。良い場所、ね。それには同意するよ」


「それよりお前、クソ急いでるみたいだったけど、いいのかよ?」


「あっ」


 思い出したように彼女が声を洩らす。


「そうだ、君は知ってるだろうけど、いま魔物が発生しててさ。どうやって行けばいいか、教えてくれない?」


「あぁ?? めんどくせぇ。却下」


「即答かぁ〜」


 興味なさそうに持っていた本に視線を戻した少年に、アオは肩をすくめ、軽く苦笑した。


「どうせお前1人で行けんだろ。お前みたいな頭がおかしい魔力の持ち主が周りをウロチョロされると気が散るんだ。とっととオレの前から消えやがれ」


「流れるような毒舌だね君」


 アオがツッコむと、彼はため息をついた。


「まぁ、律儀に廊下を歩く意味はねぇと思うぜ」


 その言葉にアオは、


「……なるほどね」


 と呟き、口角をあげる。


「おかげですぐに行けそうだよ」


「……死んでもしらねぇぞ?」




「ははっ、私を心配するなんて。

 私は霧山碧、よろしく。君の名前は?」




 中庭をでながら背中越しに問う。

 彼は本から目を逸らさないまま言った。




「オレは、天原神月(アマノハラ カヅキ)。まぁ生きてたらな」






 *****






 近くの空き教室に入り、窓を開ける。

 アオは枠に足をかけ──、一瞬冷たい風の音を感じた。


 そして、宙に飛び出した。


「たしかに、この方が早く下へ行ける」


 校舎に隣接する体育館、もといコロシアムのような形の闘技場に目を向ける。


 ───いた。


「人の姿……だけど魔人のような威圧感はない……魔族か」


 闘技場では、国防軍の隊員が魔物と交戦していた。黒い霧を纏い、剣を持つ魔族が異様な速さで隊員たちを追い詰めている。


 隊員たちは懸命に魔法を放つが、攻撃はことごとく捌かれていた。



「これは……鍛え直しが必要だな」






 *****






「なんで、これ、攻撃が通らないんだよ!?」


「知らねえよ!! さっき応援は呼んだはずだから、もう少し時間を稼がねーと!!!」


 隊員たちが苦戦する中、1人、魔族の前に飛び出す者がいた。



「李口班長!?」



「やぁああああああああ!!!!!」


 李口と呼ばれた女性隊員は、自身の掛け声と共に2本の刀を構えて躍り出る。

 彼女の刀と魔族の剣が交差し、火花が散る。


「私が……、手柄を!!!!」


 幾度も衝突しては遠くへと飛ばされた。

 李口だけがその魔族に食らいついているが、

 傷一つつけられていない。


「そこ、どいて!」


 上からの聞き覚えのある声に、彼女は驚き、顔を上げる。


「あ、碧先輩!!!???」


 制服のネクタイが風に揺れる。


 李口と魔族の間に勢いよく落ちてくるが、

 着地は猫のようにしなやかで───、瞬間、空気が変わった。

 危険を察知したのか、魔族は間髪入れずに襲ってくる。それをアオは後退しながら回避して、李口から一本の刀を奪い取る。



 間合いに踏み込んで一振り。



 魔力を纏ったそれは、魔族ごと剣を真っ二つに斬り落とす。

 血に染まる魔族の体がずれて地に倒れる中、

 彼女は静かに刀を鞘へと戻した。

 魔族を一瞥し、アオは目を細める。



「はい、これ。取っちゃってごめんね?」



 アオに差し出された刀を受け取らずに、李口は拳を握りしめて唇をかんだ。


「……ぜ」


「ん?? なんか言った?」


「なぜ、倒したんです!???

 あのぐらい、私1人で十分でした!!!」


「はぁ?」


 呆れた目でアオが李口を見る。


「たしかに君1人なら接戦になるか、もしかしたら倒せたのかもね」


「もちろんです!! 私なら」



「班のみんなを見殺しにしたら、だけどね。

 さ、君たちは帰ったら鍛え直しだよ」



 興味がなさそうに手を振って去ろうとするアオにわなわなと体を震えさせ叫ぶ。


「碧先輩!! 私が、弱いって言うんですか!?

 あなたに認めてもらうために、あなたを越えるため強くなろうとしてきたというのに……!!!!」


 少し振り返り、アオの瞳が見える。



「……君が私を越える必要はないよ」



 淡々と告げるその言葉は、特級魔法師という立場の重さを物語っていた。真剣で鋭いアオの瞳に、李口の瞳が揺らぐ。


「くっ……私はあなたに認めさせますから」


「……そう、頑張って」


 控えめな作り笑いを浮かべたアオがその場を去る。その姿を悔しげに李口が睨んだ。






 *****






「待って……!!」


 走って追いかけてきた、帽子を深く被った隊員が息を切らしてアオに声をかけた。

 先程、李口の側にいた若い隊員だった。



「俺、これを渡しにきたんです!」



 彼が持つのは長い棒状の何かで、厳重に布で包まれている。


「これ、防魔布か。中は相当なものが入ってるようだね……でもその前に……」


 アオは笑みを浮かべたまま彼に訊いた。



「変装なんかして何してるの?? 那原」



「バレるの早っっや〜。僕、結構腕上げたと思ったんだけどなぁ」



 自作の変装マスクを剥がしながら軽く笑うのは、那原田貫。

 3年前、入隊試験で合格したアオの同期であり、第零部隊の隊員だ。



「でも李口にはバレてないんでしょ?

 あれでも一応、第二部隊の先鋭だよ」


「そういえばそうだね〜。とりま僕の任務は秘密裏にこれを届けることだよ」


 包みを渡され、ずしりと重みが伝わる。


 那原の手から離れた途端、その包みは自然に開封され、中身の姿を顕にした。


 その先端には透明の魔石が嵌め込まれ、神秘的に輝く。放たれたオーラは怪しげで、柄には精密に彫られた装飾が美しさに隠れた恐ろしさが滲む。



 包みの中身は、杖だった。



「これは」



 アオの指先が杖の柄に触れる。

 一瞬だけ、彼女の瞳がかすかに揺れた。



忘れていた……(O_O)

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