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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第二章 東京都立魔法高等学園編
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20話 世界の始まり


「さっきから無視しないでよね。てかさ、国防軍なんてハッタリ、通用すると思わないで。

もし本当だとしてもどうせ訓練生程度でしょ」


「あーあ、物分かりの悪い子供は嫌いだよ」


「はぁ?」



 黒滝が怪訝そうな表情をすると同時に、

周囲から十数人の隊員が現れる。



「なっ、!?」



(こんなに大勢……気が付かなかった…!!)



 千草が、衝撃を受ける。黒滝と江山は悔しそうな顔を浮かべ、じり、と後退りをする。


「えーと、17時ジャスト。

いじめの現行犯として江山蜜世、黒滝真維、吉川哀羅を任意同行とします。なにか異論があるなら言っていいよ? 私が認めるかは別だけど」


 腕時計を見ながらアオが言い放つ。


「い、嫌よ!! 同行なんてしない!!そ、そうだ!!! お父さんに言いつけて、貴族のおじ様に伝えてもらうわよ!!!

そしたらアンタたちなんてすぐに解雇に」


 江山は悪寒がして、言い終えることができなかった。黒滝も体が微かに震えている。

 空気の振動がアオの部下にも伝わる。

 

 アオが愉快そうに笑みを浮かべた。

 風が吹き荒れ、電線が揺れる。



 千草が魔力を解放したのだ。



「お前ら、やっぱほんとに屑なんだな。

なめやがって……てめぇらごときに、俺が屈したと思うととことん嫌になる。その貴族のおじ様とやらに伝えとけ……」



「今度俺の周りに手ぇ出してみろ、貴族狩りの千草がタダじゃおかないってな」



 そう言い終えると、彼は魔力を抑えた。

 江山は体の力が抜けたのか、地面に座り込み、せめてもの抵抗なのか、呟いた。



「ば、ばけもの……」


「ばけもの上等……いまの、正当防衛で成立するはずだ。お前は俺を信じるんだろ?? 霧山さん」



 彼は振り返ってアオを見た。



(誰かに信じてもらえるなんて思ってすらいなかった。久しぶりに誰かを信じてみようと思うことができた)



 一気に彼の視界が明るく輝いて見えた。



「はは……いいね、やっぱり面白い。碧でいいよ、千草。これからよろしくね」


「俺も界でいい。よろしく」



(俺の止まっていた世界が、今始まった)





*****





「んで、善は急げとノックもなしに入ってきたっちゅうわけか」

「忘れてました、すみません」

「いや碧ちゃんだから別にええけど……」


 3人を国防軍へほぼ強制の任意同行をさせた後、アオと千草は鬼谷の執務室へ突撃した。


「あの、もしかして、鬼谷総隊長サン、っすか…?」


「ん? 俺のこと知っとるんか、話が早いな」


「知ってるというか……、南本サンから聞いたことがあって……」



 南本とアオが目を見開く。

 笑顔だったアオの表情が消えた。



「碧ちゃん…」

「な、んで、君がその名前を…」


「碧も南本サンのこと、知ってるのか!??」

「知ってるも何も……!!」


「南本は、私の師匠だ……!! 鬼人の基地侵入事件の時に……、私が未熟だったせいで!!」



「──殺された」



アオの呼吸が荒くなり、痛む頭を抑える。

自分を責めるように息を呑み、思い出すたびに胸が締め付けられる。


「もうええ、碧ちゃん!! 無理せんでええよ。千草くん、碧ちゃんは……、南本くんが戦死した時、唯一その現場にいた生存者なんや」



「そん……な……」



「世間には公表していないが…、侵入した鬼人は3体。しかも全てが特級やったんや。……特級は特級魔法師以上やないと倒すことはできん。あの場にいた隊員、君も含めて太刀打ちできるはずがない。

そう重く考えるんやないで、碧ちゃん」


鬼谷の言葉に千草が眉を動かした。


「隊員が死んだってのに、それを受け入れるのか……?? 国防軍がそんな考えなら、俺は」


「そうは言わん。俺だって南本くんとは長い付き合いやった…、やけど、最期まで戦って死んだのなら誇るべきやと俺は思う」


「「……」」


「南本くんは、いつまでも過去に縋るのは好きやなかったしな。俺が辛気臭い顔してたら部下がやっていけないやろ?? ……そういう覚悟のあるやつに、俺ぁ国防軍に入ってもらいたい」


 暗かった千草の表情に光が差す。

 鬼谷は眩しいけれど優しい笑顔で問う。


「君はどうや?? 千草くん」


「俺は……覚悟とか、そんな大層なもんは持ってないす。でも、鬼谷総隊長のその考え方なら……、俺はついていきたいと、いま思いました」



「どうか俺を、国防軍に入れてください」



 千草がそう言うと、鬼谷は満足気に頷く。



「その意気やで!! さすが、碧ちゃんが見込んだ子やな。とはいっても……試験なしでスカウトのみとなると、相当な実力を示す必要がある。だから条件を設けたい」


「条件、すか……??」


「せや。来学期、つまり3学期に行われる、魔高オリンピア。そこで受賞することや。

そうすることで、階級制度の代わりとして、国防軍でも優遇されやすくなるからな」


「その、魔高オリンピアって、なんです?」

「えっ、知らないのかよ!? 碧!?」


「界……その、嘘だろあり得ないみたいな目で見ないで?? 悲しくなる」


「いや誰でも知ってるだろうが!?

魔高オリンピアといえば、オリンピックに次ぐ世界の大イベント!! 魔高の生徒同士が学年も合同で戦って強さを競い合うんだよ」


「へぇ」

「がちで興味ないじゃん…」


「だって私が参加したら優勝は確実でしょう?」


 純粋に本心からそう確信している様子のアオが2人に言った。 千草は冗談だろうと苦笑いするが、鬼谷の表情は引き攣っていた。


「結果が何にせよ、アオには潜入任務を続行してもらうつもりや。千草くんは…もし負けたら機密保護のために忘却魔法でもかけてもらわなあかんな…」


「何それ怖い」


「とにかく、千草くんには仮で訓練生用の隊員カードを渡したる。千草くんも潜入任務に参加という形にしておくから、2人とも、これからもよろしく頼むで」


「はい!!」

「承知しました」






*****





「おはよう、碧ちゃん!!」

「おはようございます、霧山さ…ってお前なんで霧山さんと、!?」


「おはよ、あかりちゃん、遊太」

「お、はよう……」


(周囲の視線が痛い…俺はただの一般生徒なのに…それに…)



翌日。


 しれっと挨拶をして高級車から降りるアオの後ろから、千草が降りてきたのだ。


 しかし彼の歩き方はどこかぎこちない。


「なになに、知り合いだったの、2人!?

そうなら先に言ってよ〜」


「いや、えっ、それよりなぜに一緒に登校してんの…!?」


あかりが騒ぎ、広夜麻が混乱し喚いているなか、背後から植田がやってくる。


「おはよう。それは確かに気になるけど、教室に行こう。ここはちょっと、目立ってる」


 周りを見渡すと、人だかりができていた。

 皆、美少女の編入生とその執事を見にきたのだ。


 ちなみに執事だと思われている部下、市川は毎日の送り迎えを任されている。


「アオさん、お気をつけて」


「うん、今日もありがとうね、おつかれ」





*****





「で!なんで一緒にいるの!?」


 教室についた途端、半泣きで広夜麻が叫ぶ。


「色々あって、意気投合してね。

私の家に泊まってもらったんだ」



(こいつ、すらすらと嘘を吐きやがる…)






☆☆☆☆☆






「ほら、頑張れ、力こもってないよ〜?」



 千草の拳を手をポケットに入れたまま悠々と避け、彼を煽る。



「うる、せーよ!!」



 彼は訓練場でアオと模擬戦をしていた。

 発端はアオが、いまの千草じゃ魔高オリンピアで賞は取れないと鬼谷に告げたことだった。それに反発した千草が、アオに模擬戦を挑んだのだった。



既に5時間はこの調子である。



「…体力、ありすぎだろ、、てめえ」


「私も鍛えられたからね…」



アオは楽しそうに笑う。



「さぁて、そろそろ終わろうか」


「ぅぁっ、!」



千草は、アオに腹に膝蹴りを入れられて、しゃがみこんで呻く。



(容赦ねぇ…)



「はーい、君の負け。魔力操作が雑すぎ」


自信に満ちた表情で宣言したアオに、彼は向き直った。


「……もう一回!!もう一回やらせろ!」


「いいよ!君が勝つまで朝まででも続けてあげる!!」


「えっ、いいのか!?」


予想外の返答に千草が驚くと、企むような笑顔を浮かべた。その表情に、彼は息を呑んで顔を青ざめさせる。


「もちろん、、前言撤回はなしだからね」


アオの言った通り、模擬戦は登校する直前まで続いたのだった。





☆☆☆☆☆





(そのせいでオールだわ、筋肉痛だわ、

碌なことがねぇ…)


「だよね?界?」


「あ"?」


心の中で愚痴っていた千草は、反射的に睨みを効かせて瞬時に口を噤む。


「いや、その…」


「大丈夫だよ、界、普通に話して。もう君を縛ってたやつらはいないから」


彼は少し目を見開き、解放されたように微笑んだ。


「え、なに?なんのこと!?」

「なにその意味深な会話!?」


「まさか……、いつも早くに来ている江山さんと黒滝さんが来ていないのって…」


「俺、碧のおかげで目ぇ覚めたんだ……。

言いなりになってても、あいつらの機嫌を取ってもなんも変わらないってな…」


「ちなみに、界って元不良らしいから、みんな気をつけてね」

「あっ、それは」


「不良!?」


「碧お前、何考えて……」


(そんなことバラしたら、嫌われて…)


「かっけえ!!今時不良って!!!」

「すっごいね、千草くん!!」


輝いた目で広夜麻、阿流間が騒ぎ立てる。

その様子に、千草が戸惑った。


「え、いや、お前ら嫌じゃねぇのかよ、こんな……」


「そんなことないよ。実は、いままでずっと挙動も不自然だったし何かあるなとは思ってたけどね」


植田が苦笑して千草に語った。


「不良って何するの?やっぱ他の学校とケンカ、みたいな!?」


「いや、まぁやったことあるけど……」


「まじ!?」


「嫌われると思ったのかもしれないけどさ。俺たちそもそもお前のこと知らねーし…。、ま、これからよろしくな!!千草!!」


 快活に広夜麻が笑顔を見せる。


 それは無意識だったのだろうが、いまだ緊張していた千草の心を開かせた。


 ここにいてもいいのだ、と認識させた。


「君は、そのままでいいんだよ」


 アオが静かにそう言うと同時に、

朝礼のチャイムが鳴る。



「朝礼、始めますよー」



 西乃の声が明るく千草の耳に残った。



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