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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第二章 東京都立魔法高等学園編
20/53

19話 信用の果て

 

「うわぁ!! りーだーが帰ってきた!!!」


「誠治郎リーダーおかえり!!」


「おかえりなさい、リーダー!!」



 南本についていき、"家"と呼ばれる場所につくと大人数の子供たちが一斉に歓喜の声をあげる。幼い子供から、千草と同年代ぐらいの子供まで様々だった。


「ここが、"家"」


「そうだ。ここでは俺は不良グループのリーダーってことで通してる。ここにいる子供たちのほとんどは、政府や貴族に貶められた孤児ばかりだからな」


 子供たちに肩によじ登られながらも、淡々とした口調で南本は話す。



「てめー、新入りかよ?」



 遠くで様子を伺っていた茶髪の少年が千草を睨みながら言った。千草と同年代か、少し年上に見えた。


「新入りだ。10歳で、千草界という。仲良くしてやってくれ」


「まだ俺の意見言ってないんだけど!?」


 既に"家"の仲間になることが決定されていたことに千草は驚くが、そんな千草を興味ありげに少年が見る。


「へぇ、俺はアキ。ここの最年長で11歳。

 つまり、てめーより年上な?? 俺は新入りにイキられんのが嫌いなんだよ!! 言いたいことわかるよな?」


「……何が言いたいんだ?」


「俺の言うことは絶対だ!! そんでもってリーダーの言うことはもっともっと絶対だ!! いいな!?」

「心配しないでいいよ。アキは理不尽なことは言わないから。つーか誠治郎リーダー絶対マンなだけだよ」


「ちょ、言うんじゃねーよ哀羅アイラ!!」


 哀羅と呼ばれた少女は千草にそう耳打ちしてきた。その平和なやりとりに、千草は思わず笑みを浮かべる。


「な、なに笑ってんだよ気持ちわりーな」


 そう文句を言いながらも、心から嫌がってはいない様子のアキ。


(信用し合ってて、それを疑わない。

 微笑ましいぐらい良い友達。俺も、その輪に)



「ごめんごめん。これからよろしくな。アキ、哀羅」



 数日ぶりに心から笑った彼の笑顔は、

 晴れ空のように明るかった。





 それから彼は"家"で日を過ごした。





 壁には落書きがあるが、子供たちはそれを楽しそうに描き加え遊んでいる。食事は質素で味気ないが、みんなで分け合って食べていた。



 そして子供たちが暖かく迎えてくれた。



 特にアキ、哀羅とはすぐに仲が良くなり、"家" の不良グループ"ゾンビ"と共に、町の悪童たちを絞めていった。




 いつしか"貴族狩り"という異名が広がり、

 町で知らない者はいない程の、不良となる。







 事が起こったのは、千草が"家"に住んでから2年後のことだった。








「りーだーが、行方不明になった」



 "家"に帰ると、少年が開口一番に告げた。



「どういうことだよ?」



 アキが、少年に訊いた。

 千草とアキは、千草の母の見舞いに行っていて、5日間“家”を空けていたのだ。


「一昨日の朝、仕事に行くって言ったきり、帰ってきてないんだ。雨の中、傘も差さないで。それに……」


 言葉を濁す少年の代わりに隣に立つ少女が告ぐ。


「わたし、いってらっしゃいって言ったの。そしたら……『明日、俺が帰らなかったら、アキと哀羅、界にみんなを頼むって伝えてくれ』って…」


 まるで遺言のようなその言葉を聞き、部屋の隅で哀羅は、歯を食いしばる。



「きっと、何かあったんだよ!!! 昨日、誠治郎リーダーがいそうなとこ、みんなで探したけど見つからなかった!! 2人は心当たりないの!? あるなら教えてよ!!!」



「……知らねぇ……。何年も一緒にいるのに、リーダーのこと俺、なにも……」



 アキが膝から崩れ落ち、沈黙が部屋を支配する。

 “家”の子供たちの恩人であり、心の拠り所である南本が行方不明となった。

 その子供たちを混乱と絶望に貶めるには十分すぎる情報だった。


「最近、国防軍が基地の周りを巡回してるって話を聞いたんだよな……それに巻き込まれてたり……しないよな?」



「んなわけ……」



 そう言いかけて千草が目を見開く。



(心当たり……まさか……)



 千草は口元を抑え、体がよろける。

 それを少年が支えた。



「お前達もりーだーがいなくなって混乱してるんだろ……ちょっと、休め」











 その日の夜、土砂降りの雨の中。




 千草は“家”から飛び出し、走る。




(ニュースで、基地が襲撃されたって聞いた。

 もし南本サンがそこにいたとしたら)



 着いたのは、惨状となった国防軍基地だった。そこは魔族や魔獣が倒れていて、血が雨と混ざって赤い海と化している。



「おい!! そこで何やってる!?」



 千草を見つけ注意した、門番として立っている隊員に、掴みかかる勢いで叫ぶ。



「南本サンは!! 南本誠治郎は無事なのか!?」



「南本っ!? 第零部隊を、副隊長を知ってるのか…?」

「この子、まさか副隊長が保護してるっていう“家”の……?」


 明らかに何か知っている門番に大声を出す。



「そうだよ!! っだから早く吐け!!

 南本誠治郎は、どこにいるんだ!!!!??」









 もう、わかっていた。








 南本という名前を出した時の、隊員の表情。

 千草は、否定したかった。







 それでも、現実は変わらない。








 隊員は帽子を深く被り、小さく丁寧な礼。




「南本副隊長は、侵入した鬼人と果敢に戦い──、」



「戦死された」



 激しいはずの雨の音がおさまり、

 その言葉だけが俯いた彼の耳に響いた。



「教えてくれて……感謝します……」



 やっとのことで絞り出した声は掠れ、

 来た道を戻る足は鉛のように重い。


 何度も転びかけながら、静かに歩く。




 基地から出ていく姿を2つの影が見ていた事に、千草は全く気づいていなかった。





*****






 千草が“家”に戻ると、“家”の前には子供たちが彼を待っていた。子供達の表情は、いつもの温かい笑顔ではなく、



「みんな……っ」


「お前」



 声をかけようとしたのをアキに遮られる。



「今まで俺たちを騙してたのかよ」


「ぇ?? なんの、こと……」


「シラを切っても無駄だぜ。俺はお前が国防軍の基地から出てくるのを見た。りーだーが死んだってことも……聞いた」




「なら、なんで」




「国防軍の関係者なんだろ? お前も、りーだーも。孤児の俺らを見て、優越感に浸ってたのか!? 楽しかったか!?? いままで何を思って俺たちといたんだ!? あ"ぁ!?」


「騙してなんか、ない、俺を信じて……え?? みんな、なんで何も言わないんだよ!?」


 アキは必死に訴える千草に詰め寄り、呟いた。


「ここに来て2年かそこらのお前なんか……誰も信用できねぇよ。裏切り者は、出ていけ」



 脳が揺れる。

 彼らからの信用はなくなったのだと、悟る。



「あっ、あ、ぁ、あぁぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」




 現実を振り払うような慟哭。自分の口から発せられたとは思えないほどに激しいものだった。

 逃げるように、また、走る。



(なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!?

 なんで誰も俺を信じない?? 俺の居場所、俺たちの家、あいつらの家、もう戻れない、帰れない。なら、もういっそ……)



 足がもつれ、コンクリートの地面に倒れる。



(ああ、水たまりで、滑ったのか……)



 重たい体を手で持ち上げ、起きると、そこは自分の本当の家。気づかない内にここまで走ってきていたのだ。



 視界が、霞んでいる。



(明かりがついてる……?? でも、人の気配がない)



 目を擦ると、信じられない光景が広がる。

 赤、オレンジ、黄色、様々な色が混じり合う。ゆらゆらと揺れるソレが界を強引に現実へ引き戻す。



 家は燃え盛り、庭には血の跡が残っていた。




「あいつらの仕業か……!? なんで……!? 綾!!! 杏!!!」


 2人の妹の名を叫び、その跡を辿った。


「しっかりしろよ、なんの冗談だよこれ!!!」


 裏道に踏み込んだ瞬間、地面にうずくまる小さな影が目に入る。息をのむ。


 血に濡れた細い腕──妹の、綾だった。


「杏、が、向こうに……早く行って、あげて」


「杏も……!?」


「すぐに杏と一緒に病院に連れて行ってやるから、ちょっと待ってろ!」


 綾が視線を向けた方向に進むと、廃倉庫のような場所に入る。杏は、2人の女子生徒に暴力を振るわれていた。


「正義のヒーロー、遅っ」

「何道草食ってんの?? ……千草」



「なんでお前らがいる……江山、黒滝」



 名を呼んだ2人は彼のクラスメイト。

 千草は愕然とした表情で彼らを見つめる。


「そんなの決まってるわよ。アンタが殴った貴族の息子、天原 輝夜(アマノハラ カグヤ)様っているじゃん?? あの子の父親に、薬屋である私の家系は贔屓にしてもらってるんだよね。で、仕返しを頼まれたってわけ。まぁ……直接話したわけじゃないから、実際のところはわからないけど」


「はぁ……?? じゃあ妹は関係ないだろ!?」


「いや、だってアンタ全然学校来ないし、私、不良のアンタに真っ向勝負で勝てるなんて思ってないからさ。貴族狩りの千草、だっけ?? ダッサい異名もあるわけだし」


「家族を使った方が効率がいいでしょ?」



 そこからの話は耳に入らなかった。



(全部全部全部、俺のせいだ)


 自責の念が渦巻く。


(俺が貴族に反抗しなければ!! 俺が、南本サンに会わなければ!! 俺が、家族を巻き込まなければ!! もう取り返しが……)


「1つ、良い提案があるんだけど。高校を卒業するまで、私たちのオモチャになってよ。そしたら、今後一切、家族には手を出さないって約束する」



 普段の千草なら即座に断り、妹を取り返しただろう。しかし、絶望で脳が正確な判断を下せなくなった今、彼は悩んでしまった。



 それどころか、魅力的な提案に思えた。

 ほんの少しの屈辱で、妹たちが助かるのなら──。



「なんちゃって〜、アンタがそんな条件呑むわけ……」


「お……、い、し……ます……」


 掠れた声で、何かを呟く。

 ゆっくりと跪き、地面に手をつく。


「まじ?」

「あの千草が、土下座、なんて」


「お兄ちゃん……?」


 地面に蹲る杏も千草を見上げた。


「お願いします、どうか、家族は助けてください」


(何やってるんだ、俺は……?)




(でも、本当に、俺が少し我慢をするだけで済むのなら……それで)




「はは、」

「み、蜜世!?」


 腹が捩れるように笑う、江山。黒滝が驚いた様子を見せる。


「あは、はははは!!!! まじ笑える、!!

 じゃあ、明日からよろしくね?千草くん。

 学校来なかったらどうなるか、わかるよね?」





「あぁ、わかった」





 江山、黒滝が去った後、妹2人を抱えて病院へ走る。

 足が悲鳴を上げている。もう限界のはずなのに、止まることだけは許されなかった。



 病院の受付へと駆け込む。



(誰にも信じてもらえない。

 もう、誰も俺を信用しない。なら…)



「っ!!?? その子たち、血が……!!?

 緊急ですね!! すぐに手当て致します。

 あなた、お名前は……」



 そう名前を訊いた受付の看護師が千草の目を見た瞬間、ゾッ、と鳥肌が立った。

 何も映さない紺色の瞳が、数千の針のように静かに看護師を目を突き刺したのだ。



「妹は杏と綾。僕は千草界といいます。

 2人をよろしく、お願いします」




(僕も、もう誰も信じない)





 ☆☆☆☆☆




「なるほどね、事情は大体わかる。大方、そこの3人に妹を傷つけられて、君自身が身代わりになれば助けてあげるとでも言われたんでしょ。

ありきたりだなぁ……はぁぁ」


 アオは千草に向かってため息をつくと、首を振った。冷静でいて淡々とした口調に千草の表情が歪む。


「な……んだと……!?」


「図星? まぁその程度で揺らぐほど君は馬鹿じゃないだろうし、他にも色々あったんだろうね……頼れる人もきっといなかったんだろう」



 アオがはは、と軽く笑った。

 それは同情ではない。



「でもさ、これじゃただのペットだ」


「あははは!! アンタ、どっちの味方なわけ?

 キッツイこと言うじゃん」


 蜜世が可笑しそうに笑う。


「そうやって壊れるほど辛いことがあったなら、わかるはずだよ……この世は弱肉強食。

勘違いと嫉妬、戦いの世界だ」


 千草は、瞳が揺らぎ叫んだ。


「だから………!! お前に何がわかる!?

 金持ちで恵まれてて上からものを言って!! お前もどうせ!!」



「私に、君の気持ちなんかわからないよ………」


 だから、と続ける。


「抗え。信じなくていい。理不尽が君の前に立ち塞がるなら突き破ってぶっ壊せばいい。

君にはそれをする力がある」


「そんなことしたら、僕の家族が……」



 葛藤する千草の前で、アオは────


 吉川をノールックで思い切り蹴り飛ばした。



「哀羅!????」


「え」



 ──人材確保のためではあるけど、苦しんでいるこいつを、放っておくわけにはいかない。


「これからは私が君の味方だ。君が私を信じなくても、私が信じてあげる」


 信じる。その言葉に千草の胸がチクリと痛む。



(こんな僕を信じる?? 冗談じゃない。

 何度、僕が裏切られたと思ってる…)



 葛藤する千草を見たアオは軽く口元を緩めた。



「あぁ、あと私は国防軍の隊員なんだよ。

 理不尽を見逃すわけにはいかないからね」


「えっ、国防軍……!?」



(南本サンと、同じ)



 唐突に暴露したアオは、静かに千草に手を差し伸べる。



「私も手伝うからさ。世界に、一緒に抗おうよ」



 彼女は優しく微笑んでいた。

 その手を取れば、何かが変わる気がした。



(どうせまた裏切られる。僕が信用なんかされるわけがない。また、何もかも失ってしまう)



 千草は顔を上げて拳を強く握る。



(だけど僕……いや、俺にはもう、何もない)


(それなら……)




 彼はゆっくりと覚悟を決めたようにアオの手を握った。それに彼女は、満足気に頷くと、怯える江山と黒滝に目を向けた。



「よし。まずはこいつら、片付けちゃおうか」




風邪で寝てました。更新時間がズレてすみません。

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― 新着の感想 ―
誠治郎さん、ちゃんといい人だったのに…(泣 そしていじめっ子はやっぱり粛清されてしまうのですね! どんな目に遭うのか。 ここで読むのをやめる人は存在しないことでしょう! ナイスフック!
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