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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第二章 東京都立魔法高等学園編
18/53

17話 魔高1年B組



「今日編入生が来るって知ってる??」


 少年がクラスに入った途端聞こえてきた第一声がそれだ。しかし当たり前だが、彼に向かって話しているのではない。女子生徒がグループになって3人で話しているのだ。


「校私も門の前に黒い高級車止まってたのみたわよ。貴族なのかしら」


「そりゃそうだよ〜、二学期から魔高に編入なんてよっぽどコネがあるか、成績良いかのどっちかじゃん」


 話題を始めた明るい雰囲気で黄色髪のポニーテールの生徒が笑う。


「ねー、千草はどう思う?」


 千草と呼ばれた少年が肩を揺らす。


「ぼ、僕は……」

「えー?? 聞こえなぁい」


「からかわないであげなよ、可哀想〜」


 3人の内、2人がにやにやと笑いながら千草を見た。


「てか、アンタなんで学校いるんだっけ。成績、最下位から2番目のくせに」


 薄い茶髪の、ツインテールの女子生徒が煽るように言う。


「ほんとそれ。編入生にもイジられそう」


 続いて、黒髪のお団子結びの生徒が言った。

 千草は眉間に皺を寄せる。が、それをよく思わなかったのか、女子2人が近づいてきた。


「何その態度、千草のくせに腹立つ」


 彼が杖を構えた時、チャイムが鳴った。

 千草に耳打ちし、



「……放課後いつものとこで待ってるから」



 わざとぶつかりながら通り過ぎた。

 一斉に席につき、担任の西乃祭理が入室。



「朝礼、始めますよー」




 東京都立魔法高等学園 、1年B組。

 このクラスにはいじめがある。





 *****





「はじめまして。霧山碧です。よろしくね」



「帰国子女で日本の学校は初めてらしいから

 皆さん仲良くしてあげてくださいね。

 じゃあ、あそこに座ってくれるかしら」


 そう言って西乃が指差したのは、頬に大きなガーゼを貼った、目立たない少年の隣の席。

 ずっと使われていないのか綺麗なまま放置されていたようだ。


 反対に、少年の席はボロボロで、教科書は破れている。



 アオはその少年を見た瞬間、目を見張る。

 魔力感知が作動し鳥肌が立った。



 ──こんな魔力量、私以外に見たことがない。



 そう、アオに匹敵するほどの魔力量。その全ては制御され、凝縮されているのが視えた。



「ねぇ、君……名前は!??」



 彼女が息を呑むように問うと───、



「……千草界(チグサ カイ)



 千草は何も期待していないような、諦めたような紺色の目で、そう呟いた。





 *****





 朝礼が終わると、1限目は魔法薬学のため、千草はそそくさと教室を出る。その後を追おうとしたアオは1人の生徒に引き止められた。



「ぜひ俺と一緒に薬学室、っい"!?」



 プロポーズのような仕草で跪いたオレンジの混じった髪の生徒は、後ろから紺色の髪の生徒に、頭にチョップを喰らわせられる。


「編入早々、幼馴染が迷惑をかけたね。僕は植田玲(ウエダ レイ)。よろしく」


「痛って、何するんだよ玲!! 俺は広夜麻遊太(ヒロヤマ ユウタ)。んん"、霧山さんみたいな美しい女性に会えてとても光栄です、どうかお見知りおき」


「遊太には気をつけた方がいいよ。

 片っ端から声をかけてるんだ」



「それ今言う!??」



 漫才のような掛け合いに、アオは微笑する。



「よろしくね、植田くんと、広夜麻くん」

「呼び捨てでいいよ、なんなら遊太でもいいからさ」

「僕も玲でいい」


「じゃあよろしく、玲、遊太」


「実は僕、学級委員だから何かあれば頼ってくれ。まずは、そうだな。薬学室への行き方、わからないよね?僕たちが案内するよ」


「そうだね。お言葉に甘えて」



 アオは軽く微笑み、2人と共に薬学室へ向かった。




 *****




 魔法薬学とは、魔法で治療薬や毒薬を作る技術を学ぶ分野である。



 今日の授業はペアになって睡眠薬を作るのが課題だ。睡眠薬の生成は細かい魔力操作が不可欠なため難易度の高い課題となっている。



 植田と広夜麻。

 気の強そうな女子生徒2人。

 千草と大人しい雰囲気の紺色の髪を長く下ろしている女子生徒。

 そして黄色の髪の生徒とアオ。



 4つの班が出来上がった。



 千草は無表情のまま黙って指定された席につく。


「編入生だぁ!! えっと確か、碧ちゃん、だっけ!? その髪きれいだね!! 私、阿流間(アルマ)あかり、これからよろしくね!」


 そこまでを流れるように大声で話す彼女。


「う、うん……」


──最初から下の名前呼び…得意ではない、こういうタイプ。



 アオは、一方的に距離を詰められると、どう反応すればいいのか分からないのだ。

 脳裏に入隊試験で出会った、諸橋の姿が浮かぶ。



『諸橋って呼んで!! よろしゅうな!!』



 数々の台詞を頭の中に甦らせる。

 彼女ほどではないか、と思い直した。



「よろしくね、あかりちゃん?」

「あかりでいいよ!! それで、いま、何作るんだっけ?」


「睡眠薬だよ……話聞いてた?」



──同世代ってこういうものなの??



 つい本音が漏れ出たアオは、混乱を極めた。阿流間が手を出す暇さえないほど素早く、魔法薬を作り上げていく。






「そこまで!!」


 教師の声が響き、皆が動きを止める。

 教師は1班ずつ魔法薬を確認していく。


「植田、広夜麻、よくやった。いい出来だな」


「えへっそれほどでも〜」

「いえ、僕らもまだまだです」



 広夜麻が得意気にしている傍らで、植田が謙遜している。


「こちらも、うむ。教科書通りの出来だな。

 素晴らしい。このまま励め」


「はぁーい」


 女子生徒2人の鍋を見て感想を言う。



「ねぇ、あの2人の名前はなんていうの?」



 アオが指差して阿流間に問う。


「ツインテールの方は江山蜜世(エヤマ ミツヨ)ちゃんで、お団子の方は黒滝真維(クロタキ マイ)ちゃん。蜜世ちゃんの親が偉い貴族と親しいらしくてさ。あんまり気に障ることは言わない方がいいよ、いじめられちゃうから」


「いじめ……?」

「ほら、あれ見て」


 阿流間の目線を辿ると、ちょうど教師が千草たちの班を確認していた。

 鍋の中は変色していて、明らかに失敗だった。江山がバカにするように笑っている。


「さっき私、真維ちゃんが“笑い茸”を入れてたの見てたんだ。千草くんと中学校が同じらしくて、ずっといじめてるんだって!!

 なんかさ、千草くんって貴族に楯突いたことがあったらしくて、それで目をつけられたっぽいよ?」


「へぇ、そうなんだ」


「でも……あちゃあ、今日はみずなちゃんも巻き添えにされてるのかぁ……」


 千草の隣で縮こまっている女子生徒がいた。


「みずなちゃん、ってあの子?」


「そう、有崎(ユウザキ)みずなちゃん!! 超人見知りで、話しかけづらいんだけど……」


 アオが千草を見ると、彼はまるで慣れきってしまったかのように無表情だった。

 阿流間と話していると教師がこちらへ来る。

 アオたちの魔法薬を見た瞬間、目を見開いた。



「これは……!? 阿流間、これは誰が作った」



「あっえーっと、碧ちゃんです!! 実は私、なんにもやってなくて、気づいたら出来上がってた!!!」



──素で言ってるのかこの子。悪びれる気配もないな。



 アオが心の中で若干引いている内にも、教師は観察を続けている。


「こんなに完璧な魔法薬、見たことがない。教科書に載っている調合方法で現れてしまうはずの欠陥も見当たらないとは……。霧山、どこで魔法薬の知識を?」


 アオは返答に困った。

 第三部隊隊長の天才科学者、漆原の元でずっと協働し続けたなんて、口が裂けても言えないからだ。


「読書をするのが好きなので、本で読んだことがあって……」


「ぜひ我が魔法薬学部に──」



 授業が終わるまで勧誘は続いた。





 *****





 魔法薬学の後は教室に戻り、座学が続いた。

 アオの頭は次第に机に近づき、やがて眠りに落ちてしまった。突っ伏したまま、ただ時間が過ぎていく。




 4限目になり、前の授業で行ったらしいテストの返却があった。



「植田くん、江山さん、黒滝さん、相変わらずの満点ですね。皆さんも良くなっていましたし、この調子で頑張りましょう!」


 西乃が嬉しそうに優しげに目を柔らげた。

 アオが隣の席を盗み見ると、20点と書かれた解答用紙を折りたたんでいるところだった。


「何?」


 唐突に千草が訊く。アオは一瞬驚いた後、笑顔を浮かべた。


「いや、別になんでもないよ」


 アオが驚いた理由。

 それは、盗み見たはずの視線を気取られたことに対して、ということもだが、他にも信じられないことがあった。

 千草の解答用紙はほとんどの問題で書き直された跡が残っていたのだ。


「千草ぁ、何点だった?」

「聞かないであげなよ、どうせ低いんだから」


──問題を解けないわけじゃない……むしろ、全部一度解いてから書き直している? 誰かに低い点数を見せるため?それとも、何か隠したいことがあるのか……?


 江山や黒滝の言葉を無視するように、彼はそっけなく解答用紙をカバンにしまった。



 昼休みとなり、千草はまたそそくさと教室を出る。


「碧ちゃん!! 一緒に食堂行かない??」

「霧山さん、俺と2人で……痛っ!!」

「遊太は黙って。僕たちと行かないかい?」


 阿流間、広夜麻、植田がアオを誘った。


「ごめんね、道は人に聞くから、先に行っててくれる?? 先生と話さなきゃいけなくて」


 いかにも編入生らしい理由で3人と別れ、アオは千草の後を追う。興味をそそられたのだ。



「千草、界くん、だよね?」


 屋上まで追いかけたところで、アオが声をかける。


「なんでついてくるの」


 睨むような表情で振り向き、千草は言った。表情が曇り、険しくなる。


「まさか江山の差し金とかじゃないよね?」


 弁当箱が入った包みを握る手の力が無意識に強くなっている。そして微かに震えていた。


「単刀直入に言おうか───」


アオは千草の様子など気にも留めずに彼に訊く。


「なんでいじめられてるの?? そんなに実力があるのに」


「霧山さんも見たよね。僕のテストの点数は20点だし、あの2人には逆らえない……」


「テストは90点以上、魔力も高い。なんで隠す必要がある?」


「ええっ?? 何を言ってるの……?」


 彼は眉を顰め、白々しく困ったように笑う。



「そんなに賢かったらなにも苦労してないよ」



 アオの目がじっと細まる。



「じゃあ君の解答用紙にあった書き直し跡はなんなの?」



 その言葉聞き、途端に表情が固まった千草は、舌打ちをした。猫を被っていたかのように。



「……あのさ」



「逆に聞くけど、それをお前に言う必要ある?? 関係ないよな、クソ貴族の天才には…。

 もう、黙ってろよ」


 吐き出すように言い放ち、アオを通り過ぎて屋上から出ていく。彼女はしばらく呆然と立っていたが、口元を手で隠した。

 抑えきれない笑いと好奇心を隠す、



「………面白いじゃん」



 低く囁くような声だった。





 *****





 昼食は阿流間、植田、広夜麻の3人と食べて、5限目となる。



 箒に乗る授業。


 魔法師にとって、空中戦では魔力消費が多かった方が負ける。風魔法の応用で空を飛ぶより、箒で飛ぶ方が魔力消費が少ないので、魔高では必須科目となっているのだ。

 まずは空中で静止し、指定された高さまで上昇する。



 アオは軽々と箒に乗り、そのまま上がった。

 他の生徒を待つため箒の上で胡座をかく。



「早いね。昔から乗っていたの?」

「ほんとすごいわね霧山さんって。尊敬する」


 次に上がってきたのは植田。

 その次が江山だった。



「江山、であってる?」



「ええ。蜜世って呼んでもらって構わないけど。そうだ、貴族って聞いたけど本当?」

「貴族というか、まあ国務関係ではあるような……」


「霧山さぁーん!! 俺と空中デー」

「うるさい遊太」

「玲!? 箒の上でチョップしないで!? 落ちるぜ俺ぇ!?」


 広夜麻と植田が騒いでいるなか、慎重に上がってくるのは千草と有崎。

 有崎がバランスを崩しそうになりながら上がってくるのに対し、千草は疲れたふりをしながら上がってくる。


「千草、遅すぎ」

「みんなもう待ちくたびれてるんだけど」


 江山と黒滝がそう言い合っているのが耳に入り、アオは顔を顰める。のろのろと上がってくる千草にため息を吐いた。



 ──こういうのは気に入らないな。



 彼が到着した瞬間、アオが千草に向かって飛行する。


 片手を離し、体を振り子のように使う。

 彼女の足が千草の頭を直撃する、誰もがそう思った。


 しかし、彼は咄嗟に箒を横に傾け、空中で回転する。



「何すんだテメェ、危ねえだろうが!!」



「千草、さん……?」

「……っ!」


 反射的に叫んだ千草は、有崎の呟きに慌てて口を閉じる。


「何?? その口の利き方……?

 あはは、昔を思い出しちゃった感じ?」


「……」


 江山に睨まれ俯く千草。


「さっきの、千草!? やばくね!?」

「さすがにまぐれだよね!?」

「いや、僕でもあんな飛び方は……」


 見ていた周囲は騒然とするが、教師のホイッスルが鳴り響いた。飛行訓練終了の合図だ。


 それにより千草の件は有耶無耶にされ、

 アオは全ての授業を終えたのだった。





 *****





 放課後。



「広すぎる……たかが学校のためにここまで敷地を使うなんて……」


 アオは校舎の中で道に迷っていた。

 魔法練習室と書かれた部屋の前で止まる。


 彼女はその音を聞き逃さなかった。



 ──何かに水がかかる音?



 人の気配を感じたアオは不審に思う。

 勢いよくドアを開け、中を見る。




「何、してるの」




 そこには知らない女子生徒と江山と黒滝、

 濡れた髪が張り付いた顔で、千草が静かに立っていた。

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