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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第一章 国防軍入隊編
15/49

14話 素晴らしき雨の日

※残酷な描写あり、多少のグロ描写あり

 


「市川ぁ〜」


「はい」


「暇ぁ〜」


「はい」


「なんとかして〜」

「……ガキは黙っていてもらえますか」



 入隊し、初任務をこなしたことで、市川の監視付きで部屋と訓練場以外の場所へ出歩くことを許可されたアオ。外は大雨が降っていて散歩もできなかったので、頼みに頼んで市川の執務室に入れてもらっているのだ。



「俺は仕事をしているのです。ここにいるなら静かにして頂けないでしょうか」

「だって暇だし」

「本とゲームは渡しました」

「読み終わったしクリアしたから」



「ハイスペックが……わかりました。

 あと10分我慢してください。この時間なら南本隊員がいるはずです。訓練場に行きますよ」


「やったぁ!!」



 市川は既に光のような早さだった書類の処理スピードをさらに上げ、



「行きましょうか」



 ちょうど5分後、パタンとパソコンを閉じた。



「最初からそうやればいいのに」





 *****





 市川と軽く話をしながら廊下を歩く。



 その時。



 侵入者を感知したベルの音が鳴り響いた。

 蛍光灯が赤く変化する。


 廊下を歩いていた隊員が一瞬硬直した。

 覚悟を決めるような表情をする者もいる。



 市川の目が少し見開かれ、呟く。



「この警報は……魔人……!?」

「まさか!? また強化された基地の防衛結界を突破したの……!?」



(アオさんなら魔物と遭遇しても逃げることぐらいはできるはず…)



 冷や汗を浮かべながら市川が簡潔に指示する。



「とにかくアオさんは訓練場へ避難を。

 俺は連絡室に、出張中の坂隊長に状況を報告しに行きます」

「一緒に行くよ。市川が1人になるのは」

「俺は隊長補佐です。心配ございません。

 では、お互い死ぬことだけはないように」


 市川のまっすぐな目を見て、アオが口を閉ざす。彼はこういう時に嘘はつかない。



 そして背を向け、訓練場へ走り出した。




「……南本、いる!?」




 到着するなり扉を殴るように開いて叫ぶ。

 訓練場内のほぼ全員が武器を構え、アオを見ていた。



「降ろせ。隊員だ」



 奥にいた南本がそう命じると隊員たちは安堵するように武器を降ろした。



「大方、市川隊員がここに来いと言ったんだろう。この部屋は安全だからな」

「なんで? ……あっ、防御結界!!!」



 初めて訓練場に入った時、防御結界の魔法陣が描かれていた事を思い出す。

 その時は訓練で壁が壊れないように張られているのだと思っていたが、こういう緊急時のためだったのかと改めて気がつく。



「でも隠れてるだけで何か状況が変わるわけじゃない。どうするつもりなの?」



「そうだな。報告によると、主な敵は魔人3体。

 大量の魔族引き連れているらしい。問題なのは、3体の推定階級が……特級ということだ」

「えっと、その特級って?」

「そういえば碧は階級制度をよく知らなかったか……。勇者や魔王を意味する神級の、その次に強いのが特級。魔法師に換算すると日本にはたった2人しかいないけどな。一級以上で時間稼ぎをして彼らを待つしか手はないだろう」


「その2人って、誰?」



「伊津隊長と、坂隊長だ」



 そう言った彼の表情は尊敬と誇りに満ちていた。



 *****



「報告ありがとう。僕の不在を狙った可能性がある。市川は内通者を洗い出しておいて」



 坂は通話を切ると、目を細める。

彼の魔力が周囲に満ち、表情に怒りが滲んでいた。



「《(シャドウ)》」



 それは個人魔法。彼は、影を操る。


 魔法を応用して基地の前まで転移した。



「これは……」



 坂はその光景に絶句する。



 空は暗い雲で覆われ激しい雨が叩きつける。


 禍々しく巨大な転移門が開かれ、そこから魔獣や魔族、魔人が転移してきていた。

 魔法の行使者本人を倒さない限り、永遠に湧き出てくるだろう。



 坂に気がついた魔物が一斉襲いかかる。

 その数、100体は軽く超える。



「……まずい」




 *****




 訓練場にて。



 誰1人、反応できなかった。

 精々認識できたのは結界が破られたこと。



 アオの視界は一瞬にして赤に染まった。



「……え」



 訓練場内は血で染まり、大半の隊員は原型を留めないような姿で地に転がっている。目の前で、咄嗟にアオを護った南本の土魔法が崩れ落ちるのが見えた。



 その3体が訓練場へ入った時、空気が歪む。

 まともに息もできないほどの重圧。



 以前、敵意なく侵入してきた悪魔フォラウスと違った。彼らが確実に──、



 自分達を殺そうとしているのがわかる。



「あれあれあれー!? 弱すぎない!??

 人間ってこんなに弱かったっけ!?」



 少年の姿をした無邪気な魔人。



「もう、言わないでよ。萎えるでしょ」



 女性の姿をした魔人。



「あーあ、生き残ったの2人だけかよ」



 態とらしくため息をつく、男の姿の魔人。



 3体とも角が生えていることから、魔人の中でも、鬼人族と推測できる。



「……何の用だ」



 南本は低い声でそう言い、睨みつける。



「君、薄情だなぁ!! 部下が殺されたのに冷静すぎるでしょー!! いいよいいよそういうの!!」



 素晴らしい劇を見て歓声を上げるように。

 自分の好きなものを見て、ただ興奮し声を上げるように。



「僕は、そういうのだぁ〜いすき!!!」



「…………何の用だと聞いてるんだ」



 南本の目つきが更に鋭くなった。



「そんなに睨まないでくれる?

 そうだね、目的は、そこの霧山碧を殺すこと」



 女性の魔人はアオを指差す。



「だからおじさんは必要ないの。わかる?」


「それならなぜ俺の部下を殺した」



 当然の疑問。

 少年の魔人は、明るく、笑った。



「邪魔だったからだよ。それ以外ある?」



 その言葉で押し殺した怒りが爆発した。南本は国防軍の中でも古株。失った仲間の数も少なくない。

 そして、新しくできた大切な仲間の数も。



「そうか……邪魔だったか……!!」



 彼は歯を食いしばり目を見開いて涙を流す。



「魔物、ごときが!!!」


「挑発に乗るな、南本!!!」



 アオが叫ぶが、南本には聞こえていない。


 アオが動き出そうとすると金縛りに遭ったかのように体が固まる。男性の鬼人と目が合った。


──やられた…!! 動きを制限する魔法…!?



「俺の部下を……侮辱するな!! 土魔法《地槍(ストンスピア)》、風魔法《気砲(アエロバロス)》!!!」



「……個人魔法、《加速》!!」



──速い。さすが南本だ……だけど。



 南本は自身の足に魔法をかけ、一気に加速。それを楽しそうに眺める、少年の魔人。



「いい、すごくいいよ!!!」


「魔法生成速度だけなら僕たちと並ぶんじゃない!? こんなの久しぶりだなぁー!!!」

「く、そ!!」



 彼は再度その鬼人に向かうが、軽くあしらわれる。南本の両腕が弾け飛んだ。



「ぐあああっ、、!」



「怒りで動きが鈍ってるよ、勿体無い!! そうだ!! 君の名前、何? 殺す前に覚えておきたくてさ!!! 僕は焔っていうんだ!!」


「また始まった……」

「ちょっと、時間を取らせないでくれる?」



 毎度なのか、もう2体の魔人が不平を言う。



「誰が魔人に、教えるか……!」



 南本が踏み出そうとすると、突然前方に倒れた。



「ほらほら死んじゃうよ〜? 早く名前言ってよ」



 無邪気な声が聞こえる。

 足の感覚がない。いや、そうじゃない。



 恐怖が彼を襲う。ゆっくりと視線を向けると、




 彼の片足はなくなっていた。




「南本!!!」



 アオが声を張り上げる。南本が霞んだ目で上を見上げると、真上に焔の足があった。


 焔は、切り離された南本の片足を手に持ち、

 勝利を確信して口角を上げた。




「南本って言うんだぁ……!! よろしくね!!」



「南本……!!! 早く、逃げ、ろ!!」



 アオの絶叫に等しい叫びも虚しく。



「じゃ、ばいばい!!!」



 足が振り下ろされた。

 速度が遅くなり、南本の脳内に走馬灯が走る。



(俺は、まだ……)


次回で第一章、完結。

明日の7時頃と夕方に投稿予定です。

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