13話 僕の切り札
街に出て、インカムで支持を受ける。
街の人々に聞き込みをして魔物を探し出し、速やかに討伐する。それが今回の目標だ。
アオは近くにいた2人の子供に話しかける。
「魔物が出たって通報があったんだけど何か知らない?」
「ま、魔物!?」
「ぅ、ああああああああ!!!」
子供が突然泣き出し混乱するアオ。
彼女を押し退け那原が屈んで聞いた。
「ご、ごめんね〜。冗談だよ〜。
お兄さん達は国防軍の隊員なんだけど、この辺りで何か変わったことはなかったかな?」
那原が笑顔で聞くとその子供が泣き止む。
「ちょっと。何で押すの」
「魔物がいるなんて言ったら怖がらせちゃうでしょ。子供には目を合わせて優しく──」
「うあああああああん!!!!」
「「なんで!?」」
「あんたが胡散臭いからだよ、じじい!!
魔物がいるなんて脅かせやがって。弟が怖がっちゃったじゃねーか!!」
那原は逃げていく子供達を遠目で見ながら、口角をひくつかせる。
「じじいって……」
「次、行こっか」
「む」
「そうしよう」
「おばあちゃん、この辺りで変わったことはなかった?」
「知らん!!わしに聞くな!!」
「この辺りで魔物っぽいのを……」
「は!?魔物!?」
「失礼するが、この辺りで変わったことはあったか?」
「ひぃっ……」
「南本は見た目が大きいから無理だと思う」
「……そうか」
「すみませ」
「ヴゥゥゥ、、ワンッ、ワンッ!!!」
近くのカフェに座り、ドリンクを一口飲んでから那原が口を開く。
「アオ。もしかしなくてもさ…このメンツ、死ぬほど聞き込みに向いてない……?」
「うん、私も思った」
「そうなのか?」
その後も聞き込みは困難を極めた。
*****
「ここを左」
結局、昼過ぎになっても聞き込みが進まなかったので、魔法の使用許可が降りた。
現在はアオが魔力探知で案内をしている。
「こんなに聞き回ったのに近くにいるなんて、ほんとに勘弁してほしい……」
「右」
「基礎体力を増やす訓練になったな」
「つぎ左」
「いや僕は戦闘員じゃないです〜……」
南本と那原がそんな話をしていると、アオが立ち止まり前を見据えた。行き止まりだ。
そこには魔獣の巣があるのか、30体以上の魔獣がこちらに気づいて睨む。
「碧。報告を」
「はいはい……ええっと……あった」
肩にかけたショルダーバッグ小さいバッグからゴソゴソと通信機を探す。
「第零部隊、戦闘班の霧山碧。神奈川県A2地区の路地裏で約三十体の魔獣を発見したから、
えー、討伐します?」
「普通は援護を求めるんじゃない……?」
「碧。階級を伝え忘れているぞ」
「あぁ、そうだった。たぶん二級ぐらいです。
あ、うん。援軍はいらない。うん。おっけ。
じゃあ切るね」
「電話かっ」
アオが通信を切ると同時に那原がツッコむ。
「俺は引率だからな。できるだけ手出しはしないぞ」
「わかってる。で、どうする?那原」
「えーっ、僕?うーん……ぱぱっと倒した方がいいかもね。碧は適当に討伐して。僕は残ったのを倒しておくから」
「りょーかい」
アオは流れるように魔法を繰り出し、着々と討伐していく。その時、轟音がした。
視界の端で那原が大きい魔獣に飛ばされていくのが見える。
「那原!!??」
那原を助けようとアオが踏み出すと、
「碧!!そっちは任せたよ〜」
本当に心配はないようで、彼は笑顔で叫んだ。
「………わかった。死なないでね」
「はいは〜い」
彼の軽さに苛つきながらも、目の前の敵に集中する。一向に数が減らない。
そう気がついて周囲を見渡すと──、
「うっわ、面倒くさそう……」
倒したはずの魔獣がゆらりと蘇ったのだ。
「分身魔法……か」
屋根の上に待機している南本が眉間に皺を寄せて呟いた。
*****
「やあ、こんなところまで飛ばしてくれて感謝するよ」
那原は少し開けた公園で、魔獣に囲まれていた。
「さぁて、鬼ごっこ開始だね〜」
彼は後ろにあった遊具の柵に跳躍すると、そのままブランコに飛び移る。
「鬼さん、こーちらっ」
追いかけてきたところを那原の乗ったブランコがスイングして魔獣の頭に直撃する。
「僕からの攻撃が無いとは言ってないよ?」
彼はカラカラと楽しそうに笑う。
魔獣が蘇る瞬間に蹴込みを入れ、襲いかかった魔獣を背負い投げる。滑り台に登ると、階段側から登ってくる魔獣を払い落とし、滑り台から駆け上がる魔獣をぶん投げた。
蘇った魔獣の攻撃を流し、木に登って躱しながら、最も大きい魔獣へと走る。
「やっと補充完了っと……」
その手のひらには凝縮された魔力が見える。
大きい魔獣と相対するが、正面からは突破せずに攻撃を避け──、ぽん、と魔獣に手を当てた。
「汝の全てを無に還せ……《無効化》」
那原が静かに詠唱すると、魔獣は眠りに落ちるように地に伏せる。同時に全ての分身が消滅した。
那原田貫の個人魔法、無効化。
触れた対象の魔法や存在を無効化できる万能性の高く、とても希少な魔法。
しかし、効果は使用者の魔力量に比例する。
「狙い通り遠くまで飛ばしてくれてよかった。
この魔法はあまり人に知られたくないし……」
「個人魔法のことか?」
「そう、僕の個人魔法、って、うわっ!??」
驚いて後ろを振り返る那原。
「…南本さん、いたなら気配隠さないで……?」
「すまん。しかし、那原も相当強いな。試験で碧と協力したというのも頷ける」
「そのことなんですけど、これ、秘密にしてくれませんかね?一応切り札みたいなもので、魔力量が少ないせいで十分に使いこなせないんですよ」
「しかし無効化なんて強すぎる魔法、軍の役にも立つんじゃないか?」
「期待してもらっちゃ困りますよ〜。
僕はさっきの魔獣を倒すのが精一杯ですから」
「そうか……なら秘密にしよう」
「感謝しま」
「那原っ!!!!………って、何この状況」
走ってきたらしいアオが、魔獣の本体が討伐されているのを見て混乱する。
「気づいたら魔獣が消えちゃったんだけど、
なぜか知ってる?もしかして、那原が本体を倒したの?」
「ははっ、やっぱり碧も気づいてたかぁ。もちろん僕じゃないよ。南本さんが助けてくれたのさ」
那原はしれっと嘘を吐く。
「いや、俺は何もしていないが、田貫は個人魔法を隠しておきたいそうでな」
「………え」
「……南本……」
何かしらを察したアオが呆れたような視線を南本に向けてから、軽く空気を入れ替えた。
「とにかく、2人とも無事で何より」
「ああ。普段はあんな高度な魔法を使う魔獣は現れないんだが…。初任務、ご苦労だったな。
今日はよく休め」
残った魔獣は回収班に任せ、報告を終えてからアオは部屋に戻ったのだった。
*****
「国防軍に入ったぁ!? そんなことある!?」
薄暗いレストランの中で1人の少年が怪訝な表情で聞き返す。
「事実らしいよ、フォラウスが掴んだ情報らしい。あと焔、叫ばないでくれる? 耳が痛くなるんだけど」
そう言った女性は、チキンにナイフを乱暴に刺した。その様子にため息をつく、もう1人の別の男。
「やめなよ、燈蘭。行儀が悪い……。
しっかし、フォラウスか。あいつ直接会って勧誘してきたんだろ?? あんな酔狂野郎に先越されるなんて俺たちはほんとに運が悪いよな」
「全くだよ。修羅のいう通りだ!!
そうだ、新魔王軍なんてぶっ潰そう!! 旧魔王様の望みは1つだけなんだしさ。あんなのなくても俺たちで足りるよ!」
満面の笑みで立ち上がり手を広げた、少年、焔。
その瞬間、店内は黒い炎に包まれた。
店内にいたその3人以外が鏖殺される。
ある者は内臓を抉られ、ある者は皮膚が爛れ肉が溶けて、骨が見える。
窓ガラスが割れて、壁にヒビが入る。
一瞬で廃墟となったそのレストランには、大勢の凄惨な焼死体が残った。
「やりすぎ……足がつくでしょ。
まあ、確かに邪魔な芽は摘んでおかないとね」
女性──、燈蘭は微笑を浮かべる。
「とりま方針は決まったな。
まず最初に殺すのは──」
「「「霧山碧」」」
割れた窓から月灯が3人を照らす。
燃えさかる陽炎が怪しげに揺れ彼らの顔が顕になる。
彼らはいずれも、
赤黒い瞳と、頭に鋭い角を持っていた。
次は夕方に更新……の予定です。