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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第一章 国防軍入隊編
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12話 クリスマスぱーりー

 


 市川は朝から目が死んでいた。その足取りは罪人のように重い。そして決して後ろを振り向かないと決めていた。


 なぜなら──、


「ねぇ、市川。歓迎パーティーって何するの?サンタクロースって本当にいるの?? 神の使い?? 結局神ってどんな存在?」


 アオの好奇心の嵐はまだ治っていなかった。

 彼は坂に彼女を丸投げされて今に至る。


「そのままの意味です。新入隊員を紹介して、隊長格や上司との交流の機会を作るのが今回の目的、なのですがそれは騒ぐための口実のようなものですね。

実際はただの宴会ですから、アオさんは単純に楽しんでいれば良いかと」


「なるほど、神の宴会か」


「もうその認識で構いませんよ……。

そういえば、アオさんは表向きには第一部隊ということになるそうですね。よほど伊津隊長に気に入られたのでしょう」


「それ聞いてないけど」


「今回はアオさんのせいでは」


 後から聞いた話にだが、市川の言う通り、質問をし続けるアオに疲弊した坂が彼女を市川に丸投げしていたので、伝え忘れていたらしいとのだった。




 *****




「改めて!! 新しく入隊した10名のスターを歓迎しよう!!」


 司会役を任されたらしい伊津が声を張る。


「まず第一部隊が2名!! 仲居友久、霧山碧!!」


 アオは、伊津のいる壇上に上がる。隊員の視線が彼女の髪に集中する。その白髪は黒髪が多い日本人の中で特に目立つからだ。

 だがそれを気にする風もなく、面倒くさそうに欠伸をした。第四部隊が呼ばれた際に、那原がアオに向かって笑いかけ、壇上に上がる。



 ──あの男には緊張感はないのか……ないな。



 欠伸をした自分の事を棚に上げてそう考えると軽く視線を送り返し、再び正面へ向き直った。

 新入隊員全員の紹介が終わるとすぐに宴会が始まる。活気盛んな人物が集まる国防軍だからなのか、パーティーでの喧騒も凄まじい。


「合格すると思ってたぞー、少女。いや、碧だっけ??」


 アオに話しかけたのは伊津だ。司会を行なっている間も、彼女の方をチラチラと見ていたので、早く声をかけたいのは一目瞭然だったのだが。

 会話をしなければならないのを察したアオが軽く笑いかける。


「伊津隊ちょー、だっけ。私、表向きには第一部隊になったらしいし。まぁ色々、よろしくね??」


「よろしく。せっかくの宴会だ。他の部隊長にも挨拶に行くといい」


「わかった。行ってくる」


「それと……!!! あ、あのさ」


 その場を去ろうとすると、伊津が引き留めた。彼女は遠慮がちに切り出してくる。


「メリークリスマスと、合格祝い……」


 伊津が渡したのはネックレス。銀色に輝き、アオの白髪とよく似合っている。


「第一部隊では、隊長が一人前と認めた隊員にアクセサリーを渡す習わしがあるんだ。これを着けていれば、国防軍の隊員全員、文句は言わないだろうから……良かったら、もらってくれないか」



「わかった……大事にするよ」



 アオは控えめに、しかし嬉しそうにそれを受け取り、首に身につけた。

 隊長達に挨拶に行くとは言ったが、彼女は宴会に興味がない。わざわざ参加する必要性を感じない。部屋に帰ろう、と体を返すと、肩を掴んだ者がいた。


「おいてめえ、隊長格に挨拶もなしに帰るたァ、良い度胸じゃねえか」


 アオは怠さを隠しもせずに振り返ると、2人の見覚えのある男達がいた。話しかけたのは刺々しい髪の小柄な目付きの悪い方で、アオを睨みつけている。


「何?? そんなルールでもあるの?」


「は?? てめえが坂と伊津に気に入られて調子に乗ってるのかもしれねえけどな、俺は仲良くするつもりはないぜ」


「じゃあ放っておいてくれない?? わざわざ引き留めたりしてさ」


「この、クソガキャ……!!?」


 威嚇をして噛み付く子犬のようだ。吠えるその男を抑えたもう1人の男が諭すように話しかける。


「暴れるな。ただ挨拶に来たんだ、喧嘩しに来たんじゃない」


 眼鏡の男が宥めると、不機嫌そうにしながらも怒気が和らいでいた


「僕は第四部隊隊長の、時薪和制(トキマキ アイセイ)。よろしく」


「俺は第二部隊隊長の森壁大我(モリカベ タイガ)だ。覚えとけよガキ」


「……あっ、第四部隊って那原が入隊したところじゃん。那原が世話になるよ、よろしくね、時薪」


「てめえ隊長を付けろ、隊長を」


「那原か。そういえば知り合いだったな。

 ……壊れない程度にこき使ってやるか」


 くくく、と暗い笑みを浮かべる時薪。

 見た目に反してなかなか腹黒そうな男である。


「鬼畜か」


 アオがツッコむと同時に、時薪は元の無表情に戻ると、彼女に言う。


「一応、漆原にも挨拶しておかなければな。案外、霧山と気が合うかもしれない。森壁、漆原がどこにいるか知ってるか?」


「知るかよ。また研究室じゃねえの?? ……行くなら扉の前には立つなよ、たまに吹っ飛んでくる」


 ──なにが?


「まあ意味のわからん研究ばかりしているが、研究の邪魔だけはするな……忠告したぞ」


「わかった、気をつけるよ」




 *****




 市川に案内を頼み、研究室へ辿り着く。


「お邪魔しまーす」


「碧さん、今はちょっ」


 市川の静止も聞かずにドアを開けようとすると、爆発音とともにアオは吹き飛ばされた。

 空気が振動し、視界が一瞬揺れる。


「大丈夫で……いえ、大丈夫ですよね。ここから離れましょう。いま漆原隊長に見つかると面倒……」


 市川がアオに手を差し伸べてそう言って、途中で言葉を切る。背後に気配を感じたのだ。


「誰に見つかると、めんどーだって?」


 白衣を着た男。ポケットに両手をつっこみ、首を傾げて可笑しそうに口角を上げる。

 背は市川よりは低いが、それでも高身長。

 薄紫の短髪で前髪は少し目にかかっている。



 ──こいつ、カフェテリアの会議で会った。



「第三部隊の隊長さんで、合ってる?」


 静かに問いかけたアオ。


「ぁー、今日、歓迎会かぁ。どーぉりで騒がしいと思った。挨拶しにきたの?? わざわざありがとねぇー……そのネックレスもらぇたんだ、相当気に入られたのかなぁ?? ……俺は漆原尤司。君の名前はー?」


「霧山碧。え、一回会ったよね?」


「きょーみがないことは覚えてないの。あー、久しぶり、市川ぁ」


 いま気が付いたように漆原が市川を見た。


「おっ、ひさしぶりでございます……。お元気そうで何より」


 一見普通に接しているようにみえるが、よくみると市川が目を逸らしているのがわかる。

 彼は漆原がそこまで得意ではなかった。というより苦手としているタイプである。



「ねぇ碧ってさあ、めっちゃ魔力量多いねぇ」



 唐突に話題を変える漆原。

 傍若無人で思考の読めない天才科学者。


 漆原尤司はそういう男として知られていた。


「まあ、人より多いらしいけど。それが?」


「俺の実験邪魔した代わりにさぁ、実験台になってくれるよね?? ちょこっと魔力借りるぐらいだし、その程度の価値はぁるでしょ?」


 彼はアオの瞳をじっと見つながら言う。彼女の背筋に走る悪寒。



 ──危険だ、この男……目が笑っていない。



 アオの目が細くなり、警戒を映す。漆原の灰色の瞳は霧がかかったように渦を巻いていた。



「ヤダ」



「へ……?」


 即答した彼女の言葉に呆然とする漆原。


「え?? ヤダ?? 天才の俺の実験を手伝うのが?? 本当に?」


「嫌って言ったでしょ、ウザい」


「碧さん……この方はこれでも第三部隊の隊長なのでその言い方は…」


「お、俺は、国防軍の武器全般も開発してんだよ??

訓練所の魔法陣も医務室の治療薬も………そぅだ、研究を知れば気が変わるよぉ!! いまは魔力エネルギーが物体に影響する割合を調べて、それを動力として応用することでどんな活用ができるかを調べてるんな。国防軍の未来を安定させるために作ってるんだぁ。あと、1週間鼻水が出続けるようにする薬の改良と、世界一リアルで気持ち悪ぃゴキブリの模型作りと、麦茶を飲むと麺つゆの味に感じさせる薬と、魔物も眠らせるぐらぃの超強力麻酔薬と、飲んだら1ヶ月後に嘔吐頭痛をもたらす薬と、それとそれと──」


「最初の以外、全部嫌がらせ用じゃないの」


 コロコロと表情を変えて早口で語る漆原を、厄介そうに手で払うアオ。


「──んでアゴラフォビアを人工的に発症させるために」


「一旦待とっか??」


 えげつない嫌がらせ薬を紹介し続けていた彼を止めて、アオはため息を吐く。


「よーするに、私の魔力を借りたいって言ってるだけだよね?条件付きならやってあげなくもないよ」


 その言葉に、漆原が反応した。


「……この俺に条件付きぃ?? 生意気だけど、聞くだけ聞こうか。何してほしぃの?」


 アオがコソコソと漆原に耳打ちする。彼が笑顔を浮かべる様子を見て不穏な空気を感じた市川が話しかけた。この何かが原因で坂に叱られるなど溜まったもんではない。


「お話の途中申し訳ありませんが、俺は碧さんの監視役です。俺に話を通してもらえませんか」


「じゃぁ、碧は俺の実験の手伝いをしてるって伝えとぃてー」


「良い感じの時に迎えに来てよ、それまでここにいるから」


「これで万年クリぼっち回避だぁ」


「くりぼ……?? 何それ」


 なぜか意気投合した様子のアオと漆原がキラキラとした表情で実験室に入っていくのを見て、市川は深いため息をついた。

 アオが提示した条件は漆原以外に知るものはいない。数日後、国防軍基地で、犠牲となった坂と那原の悲鳴が響き渡った。




 *****




 クリスマスから5日が経った。

 今日は新入隊員の初任務である。



「それぞれの部隊には役割がある。

 それを今から説明しよう」



「第一部隊!!

入隊試験の運営と、魔物討伐の最前線。隊長は伊津明鏡(イヅ メイキョウ)!!」



「第二部隊!!

 第一部隊と同様に最前線を任され、信頼関係が厚い。隊長は森壁大我(モリカベ タイガ)!!」



「第三部隊!!

 後衛。科学技術を駆使して他部隊を援護、サポートする。隊長は漆原尤司(ウルシバラ ユウジ)!!」



「第四部隊!!

 国防軍基地の経営、会計などデスクワークを基本とするが、時には前線に出て指揮を取る。隊長は時薪和制(トキマキ アイセイ)!!」



「……そして、我らが第零部隊!!

 国防軍唯一の先鋭部隊で公には公表されていないが、主に準一級以上の魔物を相手取り、悪人をも裁く。隊長、坂秀成(サカ ヒデナリ)!!

 我らの正義のため、人類のため、そして坂隊長への恩義のため!!! 悪を滅せよ!!」



「「「おおおおおおおぉぉお!!!!」」」



「うるさっ」


 雄叫びを上げるガラの悪い隊員たちの中で、

 1人耳を塞ぐアオ。


「なんで坂も市川も仕事あるんだよ……。

 てかなんでこんな暑苦しいの……」




 ☆☆☆☆☆



「ごめん、明日は出張で……。

 夕方には帰ってくるから」


 頭からキノコを生やした坂が、今までになく沈んだテンションで謝る。

 それを見て引いている市川も、


「申し訳ありません、碧さん。

 俺も流石にマフィアの方の仕事をしないと……」


 そう言って2人は出かけてしまったのだった。



 ☆☆☆☆☆




「坂隊長に感謝を!!」


「隊長のためなら命も捧げる!!」

「隊長は俺たちの誇り!!」

「隊長万歳!!」


「「「隊長万歳!!!」」」



「いつまでやるんだろうね、これ」



 静かにアオの隣に立った那原が呆れる。

 その後ろにはもう1人、男が立っている。



「元気そうだな」



「うわぁ、びっくりした……。えっ、碧、この人誰?」


南本誠治郎(ナンモト セイジロウ)。私の師匠みたいな」


 唐突に背後から聞こえた声に驚く那原に、アオが男を紹介する。那原はアオがとてつもない実力を持っていることを知っているので、その師匠と聞いて顔を引き攣らせている。


「あ…、碧の師匠……?」


「なんか君失礼なこと考えてない?」


「そうなのか?」


 南本はキョトンとした表情で首を傾げ、頭上に「?」を浮かべた。図星で相当なバケモノなのだろうかと考えていた那原はすぐに笑みを取り繕っている。


「いや別にそんなことないですよ、ははは。

 僕は那原田貫。よろしくお願いします。

 それより、南本、さんが師匠というのは?」


「入隊試験前に少しな。碧は元から筋がいいから俺が教えることはほぼなかったが」


「私、魔法の応用じゃ南本に勝てないよ」


「そうか?? 魔法を纏うのはお前の特技じゃないか」


「んんー、それはそうなんだけど」


「あと隊服、似合ってるぞ」


「あ、うん、ありがとう?」


(あまり話が噛み合ってないような……?)


 那原はその様子に苦笑する。



 部隊の中では複数の班で分かれている。

 戦闘班、医療班、諜報班、回収班の4つだ。



 初任務の任務内容は基礎として街で暴れていると通報のあった魔物の討伐。新入隊員は自動的に戦闘班に配属されるため、今回は引率の南本、新人の那原、アオの3人で組むことになった。



「これ、2人がいれば僕の出番なくね……?」



 那原が呆れたような声で呟いていた。



本日の昼と夕方にまた更新します。

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