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最強少女の魔法奇譚  作者: 浪崎ユウ
第一章 国防軍入隊編
10/49

9話 魔獣との戦い

※残酷な描写あり

 


「とりあえずまずは、情報共有といこっか〜」



 軽々とした口調で那原が話し始める。



「「はーい」」



 アオと佐々木が口を揃えて返事をした。



「なんでこの人たち、こんなに楽しそうなんですか…?」



 兼得が半ば呆れながら疑問を呟く。



「僕に聞くな」

「そうですよね。ごめんなさい」


「そうですよね、とは何だ」


「兼得〜、周囲の警戒〜。

 で、天陵は兼得の邪魔するなよ?」



 アオから少し圧がかかる。


 同盟を組んだ後、すぐに情報共有をすることとなった。交渉事や会議に向いていないと判断された兼得、天陵はアオに見張りを任されたのだった。



「じゃがいもはないが?」


「邪魔、って言ったんだけど…なんでそう聞こえるの。ほんとにバカだよね、君たちの班員は……」



「「めんぼくないです」」



 佐々木と那原の声が被る。



「ん"ん"っ、遊びはこんくらいにしてー、本題に入ろうと思いまーす。僕たちはダンジョンの入り口に浮いていた鍵を発見して手に取ったところ、ここに閉じ込められましたー。機械音声が聞こえたから試験のシステムだろうね」


「その声が言うには、最下層にある鍵の試練を受けて見事突破したら脱出できるらしい。

その鍵の試練の部屋には大きい魔獣がいて、もし歯が立たなくてもまた挑戦できるように出入り自由になっていたんだ。俺たちの班には攻撃型がいないから攻撃が効かなくて」


「なるほどねぇ……。弱点とかあるの?」


「たぶん、額が弱点かなー。攻撃がたまたま額に当たった時、今まで認識もされなかった僕たちがようやく狙われ始めたから」


「防御したけど、あれ以上いたらヤバかったよな」



 佐々木が補足し、他の2人も思い出すように頷いた。



「認識もされないってどんだけ弱いの。

 ま、それで解決するなら簡単かもね。こっちは君たちと真逆で、2人共、攻撃特化だから」


「おおっ、それは頼りになる」


「どのぐらい戦えるのかは試練の部屋までの魔物で確認すればよさそうだねー。碧は見たところ心配なさそうだし、あの魔獣とも正々堂々、勝負に引き込むことができるはずさ」



 それから、アオたちはすぐに行動を開始した。



 試練の部屋につくまでに多くの魔物に襲いかかられたが、その全てを兼得が討伐した。


 それも毎度一瞬でこなしてみせる。



「いや……強っ」



「その歳で俺たちと同じ準二級魔法師ってのはほんと伊達じゃないな……」

「あ、ありがとうございます!!!」


 年上2人に褒められて嬉しそうな兼得。だが、



「えらかったね。よく頑張った」



 アオが肩を軽く叩いてそう言うと、兼得は顔を赤く染め頭から湯気を出して俯く。



「い、いえ、それほどでも……」


「やっぱ熱あるんじゃないの?休む?」



 何かを察した佐々木が兼得を強引に自分に引き寄せ、にやにやと笑う。



「この子なら大丈夫だろ。熱はなさそうだし、ま、色々あるよな」

「そうです!! だ、大丈夫です!!」


「はぁ? まあそう言うなら、いいけど……」



 アオは、はぐらかされたと感じて、少し不機嫌になる。知らない所で話が進んでいるのは、何か癪だ。



「それで、本当のとこ、どうなんだ?」



 小さな声で佐々木が兼得に聞く。



「なな、なにが、ですか」

「碧のこと、好きなんだろ」



 佐々木が彼の顔を覆っている手を剥がすと、目を逸らしている。



「べべ別に、そんなことは……」


「そういうことなら、試練でも良いところ見せなきゃな。俺たちも協力してやるよ。そうだろ?」



 兼得が後ろを振り向けば、ノリノリらしい那原と、強引に参加させられたような天陵が、

 小さく親指を立てていた。



「何バカなことしてるのかわかんないけど、

 ここが試練の部屋であってるよね?」



 アオが目の前の扉を見て言った。



 見たことがないほど重厚感があり、いかにもダンジョンのボス部屋といったところだ。

 怪しい魔力がその部屋から溢れ出ている。


 その奥からは不気味な低音のうなり声が微かに聞こえ、全員の体に重圧がのしかかる。



「今度こそ、だな」


「そうだねー。作戦に穴はないし、助っ人もいる。大丈夫でしょ」


「絶対負けねー」



 3人それぞれが、決意する。



「入るよ」



 アオが足を踏み出すと、大きな音を立てながら扉がゆっくりと開く。



 ──「まずは散開して魔物を混乱させ、動きを鈍らせる。その後は碧、凪。2人は自由に魔物を攻撃してほしい。僕たちがそれを援護するから。魔獣は大型だけど、2人なら額に直接攻撃できる程度だよ。とにかくそこに攻撃を叩き込もうと思ってる。それから──」



 那原の作戦が頭を巡る。



 ──良い策士だ。階級の平均はよくわかんないけど、さすが準一級だな。



 アオがのんびりと考えていると、中にいる、大型の狼のような魔獣が威嚇をした。黒く深い体毛に覆われている。魔獣は軽く見積もっても、20メートルはゆうに越しているだろうと予想できた。



「全員散開!!」



 彼女の合図と共に、4人は魔物の周囲に回り込んだ。アオが魔獣を引きつけるため周りを走っていると、


 時間が止まった。



「グオオオオオオオオ!!!!」



 そう感じた次には、魔獣が叫び声をあげていた。

 兼得が足を切り裂いたのだ。



「す、すみません、浅いです!!!」



「いや上出来。次は私やるから下がって!」


「はい!!」



 戻ってきた兼得に、すげーよお前、と佐々木が声をかけ、シールドを施す。



 佐々木は防御特化の《空間固定》の個人魔法を持つ珍しいタイプで、名の通り空間をその場に固定できる。通常のシールドの10倍の硬度、そして広範囲に展開することができる。



「ああ。良く働きだった」



 そう話すのは天陵。回復特化の《超回復》の個人魔法で、攻撃はポンコツだ。今回彼は兼得の体力を回復させる役割である。



「良い働き、だぞ」



 直後、轟音が響く。


 何事かと魔獣に目を戻すと、大きい魔力の塊が直撃し、魔獣の片足の膝から下が吹き飛んでいた。



「えっ」



「一回じゃ両足削れない、か……風魔法!!」



 びゅん、とアオの腕が空をきると、もう片方の足が爆風と共に吹き飛ばされる。



「結構やるとは思ったけど、こんなの、あの子1人で事足りるんじゃないの……?」



 那原は唖然とした表情で固まる。



「みみみ、見ましたか皆さん!!

 霧山さんはすっっっごいんです!!!」



「いや凪もやべーからな?」


「兼得!! 突っ立ってないで額に攻撃!!!」


「すみません、霧山さん!! いま行きます!」



 壁を使って跳躍し、魔獣の真上に跳んだ。

 また時が止まる。勢いよく魔獣の額から血が噴き出した。雨のように降る返り血を浴びながらアオは思考に入る。



 ──やっぱりこれは……兼得の個人魔法…。



「時を止める魔法……ってとこか」


「凪!! 危ない!!」


 天陵が叫ぶ声でアオは現実に引き戻される。

 兼得が着地した背後に、魔獣がいた。

 魔獣が手を振りかざし、そのまま兼得に向かって振り下ろそうと──。



「ひっ……」



 終わった。


 そう感じたのに何秒待っても衝撃は来ない。



 兼得が恐る恐る目を開くと、彼に背中を向けるようにして兼得を庇う天陵の姿があった。

 天陵の前には佐々木のシールドが張られている。



「天陵、さん……!?」


「………すまないが、僕ではない」



 彼は視線を魔獣、いやその前に立つ彼女に向ける。彼女は痛みを耐えながら大きく咳き込んだ。



「この駄犬…が…」



 アオが魔獣と天陵、兼得の間に滑り込み、守ったのだ。魔獣の大きく太い爪はアオの肩を貫通している。



「霧山さん!!!? その…肩……!!!」



 魔獣が爪を抜くと、赤黒い血が噴き出して、アオがよろめく。



「これぐらい、大丈夫だから……」


「撤退して、体勢を立て直そう!!

 もう一度やり直せばっ」



「それはできない」



 那原が声を張り上げるが、天陵に回復魔法をかけられているアオが遮る。



「落ち着いて考えなよ、那原……。

 君、頭脳戦の方が得意なんでしょ?」


「……試験の制限時間か…!!! 残り、15分もない……!!!」


「そう……私が合図をしたら兼得と、30秒稼いで。一撃で決めてあげる」



「よし、そうしよう」

「「だから決めるの早いんだよ」」



「少しは人の意見も聞けよ、春人」


「まぁ、時間が迫ってるし、やるしかなさそうだね。碧なら出来そうだ。凪、僕たちは全然戦力にならないから、それ以外なら思いっきり頼ってよ」


「はい!!」


「準備はいい?………攻撃、開始!!」



 佐々木が《空間固定》を応用し空中に階段を作った。兼得は魔獣の額まで跳躍し、ナイフを構える。



「だあ"ぁぁあああ!!」



 そのまま額を突き刺した。ナイフが骨を砕き、血しぶきが宙に舞う。

 魔獣の空気が揺れるような絶叫。



「こっちだノロマ!!」



 天陵が魔法を撃ちながら魔獣に叫び、兼得から気を逸らさせ、時間を稼ぐ。

 アオに視線を送ると、彼女の手元に、空気中の魔力が勢いよく集まっているのが感じられた。



「さすがの魔力操作だな……」


「あれは時間を稼ぐ意味があるねぇー。

 さ、あと5秒、気を引き締めるよ!!」


「もう一回……!!」



 兼得が駆け出す。


 魔獣の攻撃はシールドで防ぎながら、彼は、ナイフを額に目がけて投げた。


 直撃し、魔獣が呻く。



「3」



 天陵と佐々木が勝利を確信して。



「2」



 那原はアオの力に苦笑して。



「いちっ!!!!」



 兼得が叫ぶ。



「雷魔法《天槍(ライトスピア)》」



 アオが呟いたと同時に、手のひらを魔獣に向けた。禍々しく凝縮された魔力は激しい光を放ち、大きな槍の形へと変化する。


 光が辺りを青白く染め上げた。槍の形を取った魔法は、細かい電流を四方に放ちながら空気を焦がしていく。それが放たれる瞬間、地面が大きく揺れ、視界は眩い閃光に包まれた。


 まさしく神速で魔獣の額に接触し、爆発音とともに魔獣を内部から塵さえ残さず破壊する。




 [鍵の試練にて魔獣:ケルベロスの死滅を確認。

 32班、0844那原、0860天陵、0861佐々木

 加えて、44班、1001霧山、0976兼得。

 以上に、鍵の使用権を認証]




 消滅したと同時にそのアナウンスが流れた。


 兼得はアオの魔法の威力に、呆然とする。

 そしてこの人のようになりたいと感動し憧れ、自然と涙が流れた。爆発の余韻が収まり、静寂が訪れる中、その光景が脳裏に焼き付いて離れない。



 真っ先に状況を理解した那原が、

 満面の笑みを浮かべる。



「やったあああ…!! やったよ、みんな!!

 試練を突破した!! 魔獣に勝ったのさ!!」


「名前、ケルベロスなんだ……頭は1つしかないのに………紛らわし……」


「僕は、出来ると信じていた」


「泣いてんじゃねーか天陵!!

 まだ一次試験だ!!」


 そう言う佐々木も勝利を喜んでいる。

 兼得も笑顔になる。


「ま、まだ、鍵を手に入れた、だけですが、

 ……良かった…!! ひとまず安心ですね…!!!」



「「「……………」」」



 いくら待っても何も起こらず棒立ちする一同。しばらく経ち、アオがため息混じりに呟いた。



「………で、ダンジョンからは自力で出ろと」


「時間も残り少ないのに……」


「うわぁ……性格悪っ」


「……うん、仕方ない、地上に急ごう!!

 出口はダンジョンを出て北側にまっすぐだ。

 もちろん、碧も凪も一緒に行くよな?」


 佐々木が明るく問うと、アオも気を取り直すように頷く。


「2人じゃ出られないからね。もう少し同行させてもらう。その代わり身の安全は保証するよ」




 *****




 出口と書かれた標識のあるその扉の前に到着し、鍵穴に鍵を差し込む。




 [鍵の挿入を確認。

 32班、0844那原、0860天陵、0861佐々木

 44班、1001霧山、0976兼得。

 実技一次試験、突破]





ようやく実技の第一試験を突破しました。

あれっ、第一試験があるということは……?


次の話は本日の夕方頃投稿する予定です。

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