深海より深い校内ミステリー②
「それで、ありもしない部活をどうやって探すんだ?」
問題のポスターを観察しても連絡先の記載はないし、他にこれといった手がかりもない。完全に手詰まりだ。
「真、諦めるのが早すぎるわ。これだけ写実的な絵を描けるなら、まずは美術室を訪ねるべきよ。美術部員がイタズラで書いたかもしれないから」
「なるほどね。でも、こんな手が込んだイタズラするかなぁ」
イタズラをする暇があれば、腕を磨くべく色々な絵を描くべきだろう。チョウチンアンコウにこだわる必要はない。深海生物なら何を描いてもいいのだ。たとえ、シーラカンスだろうと。
「『なぜ、手の込んだイタズラをするのか』という謎を解くのが、ホームズとワトソンの腕の見せ所でしょ」
どうやら、僕はワトソンになったらしい。まあ、探偵の活躍を書くのが夢なのだから、あながち間違いではない。
「さっそく、美術室に行きましょう。私は観察に徹するから、質問役をお願い」
大役を任されたわけだが、まさか「探偵は顔がばれると、今後の活動に支障がでるから」なんて考えてないよな……?
その時、彼女がほほ笑んだ。まるで「その通り」と言うかのように。
「それで、うちの部に何の用? 入部希望者が多くて忙しいの。手短にね」
美術部の部長は「忙しい」の部分をやたらと強調してくる。嫌味ではなく、うれしい悲鳴のようだ。
「ええ、もちろん。最近、深海生物ばかり描いている部員はいませんか」
「どういうことかしら」
事情を説明すると「面白い話ね」と興味を持ったが、該当する部員はいないとの返事だった。
「彼らは何をしてるのかしら」
東雲さんが後ろからひょっこり姿を現すと、同じ絵を描いている部員たちを指さす。
「ああ、あれね。うちは美術部でしょ? だから、レベルアップも兼ねてポスターは全部手書きなの」
「へえ。だから、美術部のポスターは同じ絵でも画風が違うんですね」
ポスターは写実的なものもあれば、ピカソのように抽象的なものもある。
「あのポスター見てもいいかしら」
東雲さんは、写実的なポスターを描いてる部員のもとへ行くと何やら観察しだす。
「なるほどね……」
「ちょっと、一人で納得しないでよ。何か意図があるんでしょ?」
「ああ、ごめん。真、このポスターはとても素敵よ。深海生物のポスターもよく描かれているわ。でもね、決定的な違いがあるの」
スマホで撮った「深海生物観察部」のポスターを見せてくる。
「違い? 僕には分からないな……」
「深海生物の方は、輪郭がブレてるわ。もう少し正確に言えば、『迷いを感じられる』。絵がうまいのに、迷いを感じる。不思議じゃない?」
よく見てみると、自信がないのか線がひょろひょろとしている。
「これ以上、美術部にいても手がかりは得られそうにないわ。もう一度、例のポスターのところに行きましょう」