人気のない料理店
腹が減った。客が来ないせいだ。
おしゃれなジャズに、木造の木漏れ日の入る立地。少し人里から離れていながらも、路線バスにより駅からアクセスがしやすい。料理も、レストランでは大分通用した。
しかし、客が来ない。それどころか、バイトの募集さえ音沙汰ない。食材はここで準備する地産地消で、新鮮なのに。人が来ない。
私一人の料理店。夏だからと折角の暖炉も炭を払って、整えている。偶に人が来ても、その人の関係の方は来ず、その人がもう一回くることがないのが問題なのか。
清潔を保ちすぎていて、人気が無いのが問題なのか。いや、この『人気』は『ひとけ』の方だ。決して『にんき』がないわけではない。
風鈴がなり、慌ただしい心を落ち着けながら淹れたてのコーヒーを飲む。暑いときにでも、ホットコーヒーでないと香りが立たない。ホットコーヒーの本質とは香りである。
そうして、のんびり呆けていると、カランと、ドアの音がなった。久しぶりの客だ。大きな口をぐっとこらえて声を出す。
「いらっさいませ。」
噛んだ。向こうから見れば、入ったら急に気の抜けたあいさつをされたという意味の分からない状況だろう。
「いらっ…さい?ませ?」
相手は戸惑いながらも、返してくれた。すごく優しさにあふれた御方だ。また、久しぶりに人が来たせいであまり見てなかったが、どうやら若い女の子らしい。ここいら辺は学校もないので珍しい客人の中でも珍しい。
「ご注文はいかがいいたしますが?」
ハチャメチャに噛んだ。やっぱり日頃から滑舌のトレーニングしたほうがいいかもしれない。
「ご注文は…?」
頭を抱えてしまった。それはそうだ。初対面の店主がこんな調子だったらみんな頭を抱えるだろう。それにしても、今の時期着物だなんて暑くないのだろうか。
「!」
閃いた顔をする少女。
「こぉひい…?ください。」
両手を掲げて実に分かりやすい。
「ホットとアイス。どちらにいたしますか?」
自分の中でハードルが下がってしまったせいでただ言えただけでも心でガッツポーズをしてしまった。
「ほっと?あいす?」
悩んでいるようだ。
「おすすめは、ホットです。」
「!。それで…おねがい……します!」
彼女は嬉しそうに尻尾をはためかせ、そういった。いやぁお客様なんて久しぶりだぁ!
まずはコーヒー豆を取り出し、ミルで挽く。その後にお湯を少し高めの場所から注ぎ温度の調節やら何やらをする。正直頭を使ってコーヒーを淹れてないのでほぼ感覚である。意外と味は良いと評判だ。
「どうぞ。」
「いただきます!………ソフトクリームみたい!?」
飲むとパァと笑顔になり、脚も耳もパタパタとさせる。実に子供らしくも、かわいらしい。ウィンナーコーヒーどころかウィンナーカフェオレだったがそれが良かったみたいだ。自分の作ったもので喜んでもらえるのは素直に喜ばしい。
「ごちそうさまでした!また来ます!」
「おう、またな。」
お代を置きながら、少女は去っていく。
「そうだ。ちょっとまちな。」
ビクゥ!「なんでしょうか?」
カチカチに固まりながらこっちを向く。不思議な子だ。
「これ、さつまいも。もってきな。」
「さつまいも!ありがとーございます」
深々と礼をして大分、狐な少女は戻っていった。
今日もまた、人は来なかった。来ればよく眠れるあま~いコーヒーをお出ししたのに。
お腹減ったぁ。
『人気のない料理店』