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第6話 深淵を覗く


アドリアナ歴 935年

『シュタルク・フォン・ヴァンガルドの手記』

・期日不明

________________


「我々は、ついにこの呪われた祝福の真相に辿り着く」


アドリアナ王家が秘蔵する神具

神眼の宝珠オルビス・オクリー・ディヴィニー を借り受けた。



これは 王権を象徴する至宝のひとつであり、本来であれば 王ですら一生のうちに数度しか見ることすら叶わぬ秘中の秘。


――何故ならば、

これは 「神の目」 の権能を具現化したこの世界に数える程しかない「神具」だからだ。


王家の者であれど 軽々しく視ることは許されず、触れることはもってのほか。

その意味を 王家の歴史は血の証とともに語り継いできた。


人が知るべきでないものを視れば、当然対価を払うことになる

神の目を人が使うのだ当然に不敬と言うものであろう。


この宝珠の本質は見たい全てを見通すこと。しかし、かつて王族に生まれた者が神眼の力を振るい

“何か”を見た直後、寿命を削り、血反吐を吐きながら死に至った という逸話すら残る。



だが、今回だけは例外とされた。




アドリアナ王家は、ヴァンガルド家の存在意義を、そして その絶望的な現実を誰よりも深く理解していた。



『ヴァンガルド家なくして、この王国は既に成り立たぬ。』



もしヴァンガルド家が滅びれば――

エクリプスに、アドリアナ王国はおろか人類そのものが蹂躙される。



それを言い切ってしまえるほど

ヴァンガルド家の持つ力は強大である。

王国の全軍をたったヴァンガルドのみで凌駕するほどの戦力を抱えているのだ。

たった一つの領地に抱える祝福の血族。それは “戦う事を使命付けられた一族” に他ならない。



しかし、それほどの巨大な力をもってしても、ヴァンガルド家は敵と拮抗するだけの存在でしかない。



「拮抗」

――それはもはや 敗北の別名 だ。


もし、均衡がわずかでも崩れれば

――全てが終わるのだ。


しかし、我々には 200年近くの

“呪い” が課せられてしまっている。


邪神の本拠地へ攻め入ろうにも

ヴァンガルド家の最大戦力である辺境伯家の者たちですら、ヴァンガルド領を出て10日で身体が腐り落ちる。


なんなら5日を超えた時点で、骨すら溶け出しているので。

とても戦力として維持できる状態ではないだろう。


ヴァンガルドの騎士団や兵士たちはヴァンガルド領を離れて6日ほどで邪神の本拠地には到達する事は出来る。しかし彼らの猶予は30日しかない。


もし、負けてヴァンガルドに帰還するとなった時、ヴァンガルド騎士団は一体どれだけの人数が死ぬか、予想もつかない。


ただ、その死者数によって間違いなく前線の維持が不可能になるであろう。


このように舵取りを間違えればヴァンガルド領は崩壊する。

この呪いを打破しない限り、勝機は訪れない。


________________



◆ 神エリュシュオンの祝福

〈目的〉 邪神アビス及びエクリプスを滅ぼすための力の付与


〈効果〉 身体能力・魔法適性の向上、戦闘本能の強化。


〈対象〉 ヴァンガルド家、およびヴァンガルド領の民全員。


〈制約〉 邪神アビスとエクリプスとの戦いに身を捧げることが宿命とされ、神の発言からヴァンガルドは戦いから逃げることは許されないい、制約があると考えられる。

________________



この祝福は、これまで我が家の手記を通じて幾度となく確認されてきたものだ。


だが、問題と思われるのは

もうひとつの“異常”だ。

我々にかけられた「呪い」


ヴァンガルド家、そして領民にのみ適用される奇怪な現象。

「ヴァンガルド領を離れると死ぬ」

神エリュシュオンは我等に祝福を与えたもうた。戦いから逃げる事を許さないと言う制約も与えられた。


しかし


――この、理不尽極まりない呪縛。




神エリュシュオンがこの酷い呪いの様な祝福を与えるとは到底考えにくい。


何かの介在が必ずあるはずなのだ。

何れにしても、この呪縛を解かない事にはヴァンガルドにこの先の未来は訪れる事がない。

延々と屍の山が出来るだけとなる。



我らには"希望"が必要なのだ。

私は此処で終わりでも、息子や娘

その先の孫たちの未来を.....!!

戦いだけで費やさせられて

たまるか!!!!!!!



神眼の宝珠の前に、私は静かに息を整えた。手にした 短剣をゆっくりと握る。掌を斬り裂き、流れ落ちる赤い雫を宝珠の表面へと垂らした。


「……Oculus Divinus, Lux Omnia Revela(神の眼よ、光をもって全てを照らし出せ)」


言葉が空間に溶けると同時に、

宝珠が 鈍い白金の光 を放ち始める。


「……!」


光は次第に増していく。

まるで魂の奥底まで抉るかのように、全身が 焼けつくような痛み に襲われる。


視界が反転し、時間が崩れ

世界が崩壊し「過去」が混濁して私に流れ込む――。



そして私は “それ”を視た。




________________


神々の戯れによってもたらされた戦い。

ヴァンガルド家の呪われた宿命。



……そして、その根源に潜む“真実”


神と人間では、その存在強度が違いすぎる。神々の視点から見れば、我ら人間など塵芥に過ぎず、その命に何の価値もない。神にとって、人とはただの道具であり、祝福とは道具の性能を高めるための調整に過ぎない。神の目的のために磨き、戦わせ、壊れたらそれまで。

それが”神の愛”だ。


我らが受けた祝福とはその程度のものであり、何ら特別な物ではないんだと。

この手記を読む者へ記す



「ヴァンガルドの者たちよ。」

「我々は、決して知るべきではなかった真実に辿り着いてしまった。これは、祝福などでは決してない。」


「もしも、いつの日か、この宿命を覆す手立てがあるのなら――」


「頼む____どうか、その道を見つけ出し、この運命の牢獄から

我らを解き放ってくれ。」



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