アイテール♡アヌ
黒装束の男は麒麟の答えにならない応えにゲラゲラ笑い言った。
「貴方はどこへ向かうのだ?」
問われた麒麟は黒装束の男を見上げても軽く笑った。
「これからわしはこの國に秘された者どもを呼びお越しに。おっといけない。黒い人……がいますよ?」
麒麟が言うが早いか黒装束の男の目の前を氷のように透明で光り輝く珠を咥えた白い犬の様な姿の獣が走り抜けた。
「おい、ちょっと五郎どこへ行く!」
黒装束の男に五郎と呼ばれた白いものは黒装束の男をチラリと見たが急いでいるのかそのまま通り過ぎるとゆ〜むの方へ行ってしまった。
麒麟のダラリとおろした左手親指の根元から血の筋が滴り落ちる。
落ちた血が川床の板の隙間から荒川に落ちて流れていく。
「滄浪の水清まば以て我が纓を濯う可し(そうろうのみずすまばもってわがえいをあらうべし)」
麒麟が呟いた。ことわざの意味は「時勢のなりゆきに任せて何事も行うべきである」
「……だが、それについて竜ちゃん君はどう思うか。重い荷はわしが持とうか。それとも今しばし、……わしは持って待つぞ。虎時……」
麒麟は血濡れの十束の剣の柄を強く握ったが、胸元のナプキンを取り出して一拭きすると荒川の清流で洗った。
「!!」
ミソドミソド……。
地鳴りの様な妙な低周波音と高いなんとも言えない音色がなんのへんてつもない空から聞こえてきた。
「これは……アポカリプティックサウンドか……わしの次やる事は」
麒麟は水面から十束の剣を取り上げると、冷たい水滴を払った。
剣が空を切ると、冷たい微笑みを浮かべていた透明な女は霧散した。
「水面に映る軌跡の君は……」
黒装束の男はもう、何に動じることなく十束の剣を手に持つ麒麟を見つめた。
麒麟の姿が水面に映ることはない。波立っているから当然ではある。
「貴方はーーそう思うのでしょう。だが、こんにちわしらに出来る事をわしらの手でやる」
「私はどんな仕事が出来たのか猛省している」
黒装束の男は情動のない言葉で言う。
「貴方が言いたい事は分かる」
麒麟は川床から荒川に飛び込んだ。水量は麒麟の膝下まであったが麒麟は力強く護岸へ向かい歩いた。
「私はどんな仕事が出来たのか……」
黒装束の男は麒麟に背を向け小声で呟く。
「言わずもがな」
麒麟が瞬いた瞬間、一陣の風が吹いた。
黒装束の男の目に前に擦り寄る白い生き物が再び男の前に耳を平らにして、擦り寄っている。口には稲荷の眷属が口に持つ鍵を咥えて。




