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呉♡虎時

 美味しそうに団子を食べる竜。

虎時も残りのコーヒーを飲もうとしたら。


 不意に目の前に白い布を深々と被った女性が現れた。虎時の身長より2倍はあろうか。

神か仏か、そもそも魔物か。


ーー今まで竜にのびのび成長して欲しかったから出来るだけ見えたものを否定はしたくなかったが。


「もにゅもにゅ……」

竜は美味しそうに団子を咀嚼している。

団子とはいえ、一粒ずつの大きさが大きい。竜の目の前でもあるのだから、見えているかもしくは何らかの気配に気がついていて当然だと思う虎時だ。


この場合、土が露出している地面を軽く足踏みし土の波動を舞わせて水気を吸わせる。

丁度、地面が土であった。軽く足踏みしてみた。

思った通り女は霧散した。

「なんだぁ」

虎時は気が抜けた。

この程度で煙に巻く事が出来たとするのならば。


「もにゅ、もにゅ……」

独り言っている虎時を驚くべもなく、団子を食べながら見ている竜。

どうやら竜も虎時の独り言には慣れているみたいだ。

と、竜は虎時越しに見目麗しい白い布が荒川の土手向こうをスルスルはためいて行くのを見つけた。


「いったんもめんじゃね?」

団子を飲み込んで、土手の方へ駆けていく竜。

「へっ、竜ちゃん。いったんもめんってあの?」

「そうだよ、きっとそうだよーー!」

ーー好奇心は猫をも殺すなんて事にならないといいが、いや、待てよ、さっきの白い女を竜ちゃんも見たと言うことなのか!!

虎時は、軽快に土手を駆け上がる竜の後を遅れて駆け上がる。


「虎時さん、アレ、見て!」


竜は大きなジェスチャーでそれを指差した。


 どうやってそれがそこに設置されたのかーー

川幅広く、前日に雨が降ったのか緩やかな流れであっても今は水底が見えない、清らかな流れーー荒川の中央に孤立して設置された京都の川床の様な2畳ほどのモノの上に、白を基調とし襟元などが金箔の様なフロックコート(結婚式の新郎が着るモーニングに似たものだが前裾が水平にカットされた男らしいもの)をビシッと着付けた麒麟が襟を正して佇んでいる。


 竜も虎時も想像していたものとは違いすぎて、ついその場に佇んでしまった。

「虎時さん、アレってもしかして『人身御供』かな!」

虎時は身震いして言った。

「ひと聞き悪い事、言わないでくれ……。いや、竜ちゃん、君の言う通りかも知れない」

いつも冗談を言う虎時が、冗談を言わないなんて。竜は面白くなって身震いした。

「ですが、俺、先程白い被り物をした巨体の女を見たんだ。ーーだから、いったんもめんでないにしろ、『アレ』では無いだろうwww」

良いや、もしかしたらこの地に眠る女大蛇に麒麟は嫁ぐのだろうか。

平成の世だ。

ーー婿養子もあり得るだろう。

童貞では無いし、若いわけでも無いが、文武両道、歳の割に美男子な麒麟ならではの婚姻だとも言える。


そんな虎時のシャツの袖を引っ張って竜が心配そうに叫ぶ。

「虎時さん、麒麟さん、あんな所にいたら危険だよ!」

「いや、その前にあの麒麟が人身御供だってーー南無!」

「南無ってどういう事よ、虎時さん?」

「良いから見てろって、竜ちゃんもそろそろわかるだろ?」

「何が?」


虎時は、一息呼吸を整え竜に向き直り肩を叩いて言った。

「竜ちゃんよぅ……犠牲は必要最低限に。麒麟(オッサン)1人で済むのならば、これほど良いことは無かろう」

「いや、あんた、何言ってんのさ。助けなくっちゃ。私人の四神仲間でしょう!」

「でも、竜ちゃん。どうやって麒麟の所まで行くのですか?」

「川に入って……」

「ノンノン、竜ちゃんそれはナンセンス。足を水流に取られてしまったら竜ちゃんが川流れ〜〜」

水流はたとえ10センチでも、足を取られてしまうほど水流が強い場合もある。

「河童の川流れ……って、その時はその時だよ!」

すでに何の自信があるのか土手を駆け降りようとする竜。

「もちつけってば。いや、まずはその手に持った団子食べてからにしよう。ーーオタクな麒麟だって、大人の男だ。何かあっても自分で対処出来るだろう?」

「そうだろうけどさ……」


虎時が余裕で見つめられるのも麒麟は若い頃、屋根から飛び降りたりと。忍者を地で行く男だ。

それに、これは1人で手発を整えたわけではないだろう。

川の中央に孤立し佇む麒麟も、涼しい顔をしている。

「そんじゃ、竜ちゃん。俺たちはしばらくここで座って様子を見ていようよ」

虎時はその場に座り込み、竜にも座る様に促した。竜は虎時の隣に座ってみたが落ち着かない。

「それじゃあ、せめて声かけようよ?」

「竜ちゃん、こういう時は男は黙って……観察しよう。いや、傍観しよう」

「虎時さん、それって友達のする事じゃないでしょう?」

「いやぁ、男の友情なんてもんはそんなものさぁ」

「虎時さん、それじゃあーー薄情じゃない?」

「何言ってんだ。薄情なのは麒麟(あいつ)だ」

「どうしてさ?」

「どうしてもだ」

口が裂けてもどうしてかなんて言えない、言えない。

「それにだ、もし、たとえ人身御供だとしても相手方を愛しているのであれば、他人の恋路を邪魔しちゃあ……ね」


「そう……、じゃあ、ゆ〜むでぽっぽ焼き買って来る」

竜は、虎時が頷くのを見て走って行ってしまった。








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