求め♡られている♡モノ⭐︎
ひとり虎時の腕の中、幸福の中で目を覚ました時、よぎる事がある。
今日も、竜は夜中に目が覚めた。
ーーそう、「仕事」についてである。
虎時にとっての戦いは、日々家計のために働くである。
竜が思うに虎時が戦っていると言っていたのは、竜を含めた家族を養うために働くであると思う。
ーーなんで、私人の四神が集まると、どうも訳の分からない方向へ場の雰囲気が向かうけれど。
それで、竜は虎時と結婚してから、仕事をしていなかったのだ。
今の生活スタイルに合わせるためと、虎時から諭されアルバイトにも就いていなかったのだ。
その件について、私人の四神が集まって相談してくれていたのか。
虎時が額に汗を流ほど悩ますとは、竜はすごく問題児であるに違いない。
竜は自分の事とはいえ、恥ずかしくなってしまう。
私も、虎時さんと肩を並べて働ければ、私人の四神仲間としてデビュー出来ると思う。
このままでは、ずっと虎時さんの腰巾着、もしくは金魚のフンだ。
私、専業主婦だもの。
優しくかなりがっしりホールドされている竜だが、虎時の腕を退け起き上がった。
まだ夜が明けてはいない。
ーーこんな、どうにもなっていない、切ない気持ちを感じるのは何年ぶりだろう。
虎時に出会う前も正社員ではなく、パートで働いていたわけだが、それでも世間と薄い繋がりがあったし、仕事をしていたので、こんな気持ちだけは吹っ飛んでいた。
布団から出ると、はだけた着物の襟を正し、虎時含め私人の四神の寝顔を見つつ襖をそっと開け部屋を出た。
玄関まで来ると、なぜだが玄関の扉が開いていた。
ホテルなどは夜間閉まっている事が多いからだ。
竜は、そのままあてどなく深夜の散歩をしようと意気揚々と飛び出した。
「竜ちゃん、どこへ行くの」
聞き慣れた声にハッとして、後ろを振り返ると、外玄関の壁に寄りかかり、タバコを吸っていた玄武に呼び止められた。
「あっ、玄武。……玄武はタバコ吸っていたの?」
私人の四神は、皆優しい男だが影がある。タバコをこんなところで吸ってる感じも、他人に配慮しての事だろう。
「竜ちゃんは、こんな時間に散歩かい?」
「うん」
「どこへ?」
「そこら」
竜は外へ飛び出すのも、全ては勢いである。
もしかしたら、もしかするかも、虎時との結婚も、ノリと勢いである。
別に虎時の求婚も断る判断材料も無し。
今も、旅先の夜間の散歩をしない選択肢はない。
「竜ちゃんが一人出歩くのは、虎時が心配しますよ」
「別に大丈夫だよ。虎時さん寝ているしさ」
虎時は竜を寝かしつける天才だが、一度寝たら深い眠りである。
浅い眠りの竜は一晩で時々起きる。
「私が夜、時々起きるのは、あなただったら知ってるよね。ーーそうだ、玄武さん、私と少し散歩しない?」
「でも、僕と散歩したら、竜ちゃん、虎時に怒られない?」
無邪気に冗談を言う玄武は、過去も今も変わらない。
竜も玄武も前世でも現代でも、隠密行動する仲間だ。よく言えば、夜が得意。
悪く言えば、昼は弱い。昼の付き合いの全て、ド下手とも言える。
あえて、棲み分けしていると言えば聞こえが良いが。
だからこそ、虎時よりももしかしたら、竜との相性が良いのかもしれないが、数ある前世でも結ばれて添い遂げたのは、ほんの数回くらいだと竜的に最近感じていた。
ーー事実はどうなんだか、玄武に聞いた事がないので、確証は持てないが。
「玄武も、眠れなかったの?」
「ううん、僕は小亀さん達とお話しをしていたんだ」
「ああ……、玄武ったら、私たちのご飯を逃したのね?」
「竜ちゃん、冗談ですよね?」
「本気にしないでよ。亀汁と、蛇の蒲焼きをみすみす逃したとか、思ってないから」
ゲラゲラ腹を抱えて笑う竜だが、全く笑えない玄武。
「良かった。竜ちゃんが来る前にさよならしたから、食べられませんよ」
「本気にしないでよ、玄武」
「竜ちゃんの嘘は大体本気ですから」
玄武は胸元のポケットから、携帯灰皿を取り出すとタバコの火を消してしまった。
「玄武、ありがとう」
「いえ」
竜がタバコの煙が苦手なのを理解してくれる、優しい玄武。
ーーこんなに女性に気を使える玄武であれば、すぐにでも彼女が出来るのに、なぜ結婚出来ないのか本気で分からない竜だった。
秩父の雪山で見た、寂しがりの玄武。
虎時と出会う前の自分と同じ、心を満たしあえる相手を希う様は、どうしたって切ない。
竜が口出す事でもない。
竜と過ごした前世から現代まで、ほとんどの時をこのように過ごして来たわけだから。
同意がなければ、玄武も竜も手を出さない。
だから、夜間に歩く相手としては、信用のおける男と言っても過言ではない。
竜はそう思っていた。
現に、女よりも動物が友達だ。(虎時を含めw)