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麗しい♡玄武

 玄武と千佳子はリビングを掃除すると言い出した麒麟に促され広い海側のテラスに出た。昼間であれば、松島の海原の良い景色を展望できるのだが。今は黒い海の上を漁火がポツポツと光っている。


「僕、ふと気がついたのですが千佳子さん、松島の漁師は冬の夜はアナゴ漁をするらしいです。ーー千佳子さんもそのおつもりですか?」


 千佳子はバツが悪そうに苦笑いした。


「……玄武さんさ、どうしてそれが分かったの。今夜中にでも、貴方の後ろの者達を一網打尽にして一匹残らず調べ上げるつもりでいたのに」


「そんな事をするの。でも、僕はそれがそう上手くはいかないと思います」


玄武は暗闇の中でもその美しさが輝く千佳子の顔をじっと見つめた。


  玄武は頭の隅で密かに淡い直感的な考えがよぎった。


竜が海辺に近づけば竜宮城の乙姫だろうが、千佳子が夜の闇に近づけば、切り立つ山の上、満月を背景に佇む黒狼ーーいや違う。僕に簡単な問題を問うスフィンクスのようでいて。ゴスロリの姫ーー月姫だろう。


ーー月の姫と言えば香具夜姫(かぐやひめ)


いや、確かかぐや姫は実在の人物で漢字が違う、正しくは※迦具夜比売命(かぐやひめのみこと)だ大筒木郷に古墳がある。


 かぐや姫の育て親のお爺さんが住んでいた郷が大筒木郷だと虎時の『竜ちゃんと結婚しちゃう大作戦(仮)』の企画会議の時に簡単に調べた気がする。


虎時は竹を取りに行くって言ってたけどな。僕はどうだろう。


 キトラ古墳のように、その古墳に玄武が描かれていたとしても時代を経て消えていたりしてね。


 死んだ直後には、石室の壁紙程度に思われて、時代が経れば劣化と共に『(げんぶ)という存在自体』を忘れ去られてしまうという。


ーー僕は今までもこれからも、数多の女性にとってーー僕はそんな存在なのだろう。


「なぜ、どうしてそう思うの玄武さん?」


千佳子にカラッとした視線を向けられ、我に返った玄武。


(千佳子さん?)


ああ、そうですねーー。


すぐさま現実に引き戻されてしまう。そんな事は承知の上だ。


咳払いをして玄武は千佳子から視線を外し、遠くの漁り火を眺めてみる。


「……あのもの蛇ちゃん達は、『竜』の神気に集まる眷属さん達ですから。竜がそばにいれば湧き水が湧くが如く止めどなく出てきますよ」


彼らはその他、竜脈やら藪やら田んぼの(うね)やら塀の隙間やら側溝やら屋根の雨樋(あまどい)やら、岩燕の巣やら床下やら……わらわら、やらやら。めんどくさいほど、そこらじゅうに彼らは居る。


「ええ……。止めどなくですか。さすがにそれは気持ち悪い!」


千佳子は顔を歪めた。


「あっ、そう言えば、千佳子さんは蛇ちゃん触れていましたね?」


「あーー、私ね、1匹程度であれば普通に掴む程度なら」


こうやってとでも言いたそうに千佳子は蛇を掴む動作をした。


「僕は爬虫類全般が好きで」


玄武は今までにない笑顔を千佳子に向け楽しそう。


「は、爬虫類……そのまんま蛇?」


「蛇も爬虫類ですが、亀を飼っています」


「亀かぁ……」


千佳子は思った。


このまま、ペットの話題を盛り上げてしまったら、玄武に気があるように見えてしまう。


千佳子も玄武から視線を漁り火が輝く海へと向けた。


「そう……、仙台の松島と言えば、『塩竈神社』あるよね。玄武さんさ、あの竈って、亀みたーーいに思わない?」


「千佳子さんてば、それ冗談でしょう。竈は竈ですよ。確かに亀には似ていますが。※塩竈神社は国府や多賀城の鬼門を護る方位に建てられたとか……言われているらしいですよ」


クスクス笑う玄武。


そんな砕けた玄武を遠巻きに見て、長い髪の毛を耳にかけて千佳子が呟いた。


「玄武さんって、恋人いなさる?」


「へ?」


突然の質問に、ドギマギしてしまう玄武。お前は魔法少女ま○か⭐︎マギ○か!?


ーーこちらを振り向きもせずに、何を言う。


玄武は全く、千佳子が魔法少女とは関係無いし何も引っかからないのだが。どうしても。


そのくらい、千佳子の急な質問にびっくりした。


これまで腐るほど、女性から聞かれた質問で飽き飽きしている言葉だが。


「仕事とかぁ、何をやっていても気になりすぎる程気になってしまう相手」


言葉に抑揚は無いが、千佳子のその言葉は重いように感じる。


先程手に取った雫玉が玄武の手の中でゆるっと熱くなる。


ーー玄武は唾を飲んだ。


千佳子はこちらを振り返った。


ーー!!


ニヤついてゲラゲラ笑った。大笑いだ。お腹まで抱えて笑ってる。


「……?」


「いやぁ、こんなムーディーな夜景をいい年こいた私達が見ていてさ、恋人とか居るって聞いたりするなんて、マジ笑えちゃうーー両人共に居るのにねーー!」


玄武も中年。


千佳子も竜よりかは見た目歳上のように見える。


どちらも立派な大人だ。大人同士で恋人だのなんだの、ついこの間知り合ったばかりの知り合い同士でムーディーな場所で話す内容では無い。


その事を千佳子はよく分かっていたし、半ば千佳子自体も混乱して言ってしまった。


ーー千佳子の術をことごとく見抜く、目の前の(げんぶ)の『蛇ちゃん』を果たして見つけ出してあげる事が千佳子にはできる気がしなかったから。


出来れば素早く蛇ちゃんを見つけ出し、玄武を助けてあげたかったけれども。


服はびしょ濡れ、宿は麒麟の別宅。


これほど居心地の悪いことこの上ない。


直ぐに海に視線を向けて風に身を委ねた。










参考ホームページ


『竹取物語』”かぐや姫の里”京田辺 (京田辺市郷土史会)

http://sekaiisan.koiyk.com/taketori-tanabe.htm


塩竈市ホームページ

https://www.city.shiogama.miyagi.jp/soshiki/6/1082.html

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