ようこそ♡千佳子ォ!!
千佳子は、風呂上がりの玄武をリビングにひとり残して、麒麟に連れられてリビングからダイニングへ抜けてキッチンに行き着いた。
キッチンは対面式になっており、リビング、ダイニングを見渡せる。
冷蔵庫は食物が入っているものと、ワイン用のものがあると思った。ガラス張りのワインセラーが見える。
「千佳子。お腹は空いたかな?」
「私は、お腹空いていないです」
「美味しそうな、浜焼きを食べていたね」
麒麟はニコリとも笑わない。
千佳子は、この仏頂面のおじさんに麒麟が「つく」のかと思うと。
気迫なのか、鬼気迫る「何か」なのかと、思ってしまう。
ーーそれくらい。麒麟の憑いた人間なんて見た事が無い。
もう、それしか千佳子が麒麟に興味を抱く事柄は何も無い。
麒麟はワインセラーからワインをひと瓶取り出し、グラスも二つ取り出すと、ワインのコルク栓を抜こうとした。
「あの、私、ワイン飲めないんで」
「うむ」
麒麟は、小さく頷くとワインをワインセラーに再び呟いた。
なぜ、しまうのーー玄武だっているのに。
麒麟は私の為に、良いワインを選んで飲ませてくれようとしていたの?
「ーーその子は『見た事が無い』と言ったのかね?」
いきなり、話を振られて焦る千佳子。
麒麟は千佳子の目をジッと見つめ、軽く瞬きをした。
「幻獣とも、神獣とも言われている『麒麟』の事だ。わしが少し、君を見て見ればーー見た事が無いと千佳子、君にそう言った女の子がいたように思うぞ。だから千佳子、君がそう思っているだけなのかもしれん。君はーーそう感じた事はないかね?」
「ーーそれって、私が見ようと思えばその姿が見えるって事?」
千佳子はニヤついて腕組みしながら言った。
新手の宗教の勧誘とかですか?
ーーそもそも、私は狼くん「宇佐野」を異次元から現世に連れ戻す為に、玄武と交流を持ち、その流れで麒麟の作ったアプリで友達になっただけなのだが。
麒麟の話はとても怪しい。
「もし、千佳子。君がわしの伴侶に……」
「いや、何を言ってるんですか?」
千佳子は息もつかずに言い放った。
千佳子が伴侶にしたいのは狼君だけなのだから。
「コホン、『伴侶』になる。もしくは……」
「私、宗教とかって興味無いんですよねーー!」
麒麟はどうも、この美しめで賢いはずな女性と接するのが難しい。
「我らが道を共に歩むものであればーー見る事が出来るだろう」
「道?」
「茶道、花道、邪道……」
「邪道、ぷっw」
「千佳子。全ての道は、ーー人生を彩る趣味の道」
「あはは。じゃあ、私は麒麟さん達の趣味仲間になれば、貴方の『麒麟』を見る事が出来るようになるって事でオッケー?」
「軽いぞ、千佳子。わしの伴侶になるくらいの、って言うのは冗談であるが、わしへの深い洞察力と共感力、共鳴力、想像力、その場のさまざまな精霊や原子などの囁き。その全てが揃った瞬間に見ることが出来るであろう」
何をごちゃごちゃ言っているのだろう。なぜか麒麟のしわがれた声が聞き取りづらい。
「……」
腕組みをする麒麟の頭上に、こちらにグイッと龍に似た髭をなびかせたなんとも言えない光り輝く、馬のような龍のような……、瞳は麒麟の深い洞察力に似て非なる若々しい輝きを持ったものが、千佳子を覗き見ている。
「えーー」
小高い丘の上にあるマンションに千佳子は居た。
狭く、ごちゃごちゃと荷物が所狭しと置かれたワンルーム。
千佳子は、物を整理しようと思った。
もう、「2日」ここに居てしまっている。まるでチェックアウト時間を気にしているようなそんな感じである。そう思った。
ーーそろそろ出なくちゃ。
家に帰らなくっちゃ。
待っている人がいる。
ワンルームにごちゃごちゃ置かれた物の中から、持って行きたい小物をなんとなく持って行こう。
水槽に入れる、イミテーションの水草のような、いかにも古めかしい何かを手に取って見入ってしまった。
どうにも気になるこの置物。
千佳子はそれをリュックサックに詰めると、外に出た。
外に出ると雪山の坂道だった。
綺麗すぎる雪山。
お土産に写真を撮っておかないと。。
『千佳子、君は寒いところの古墳から出て来たのですね』
場面が変わったのか、キッチンに戻っていた。
麒麟の頭上に居る、麒麟が抑揚のない声で、歌声で言った。
「えっ?」
千佳子は、一体何を言われているのか分からず、戸惑う。
白昼夢と言うものだろうか。
『千佳子、君のリュックサックに入れた『お土産』をもう一度見てごらん』
麒麟の頭上に居る麒麟に言われ、まぶたを軽くつむった。
「えっ、マジで、私、何コレ、イミテーションの水草かと思ったら、陶器か土器か、それっぽい!」
戸惑う千佳子を、麒麟も、頭上に居る麒麟も微かに微笑んで見ているようだ。
『外へ出てごらん、外へ出てごらん……』
幻獣麒麟の声が、千佳子の背後から聞こえ、消えた。
「!」
そこで、千佳子はソファーの上で目を覚ました。
そうだ、玄武と麒麟二人がお風呂に行った後に、あまりのソファーの心地よさと眠気に負けていつの間にか眠ってしまっていたのだ。
「外へ出てごらんって、『私』がって事かな。今まで私は狼くんを異次元から救い出したいとばかり思っていたけれどーー」
ふと、千佳子は思った。
もしかしたら、狼くんと同じような運命を私は辿っていたのかも知れない。
ーー過去に私が狼くんに、夢だと、寒いところの古墳の中から?
ーー今度は私が狼くんを助けられるのかな。
でもでも、「外へ出てごらん』って声は背後から聞こえてた。
と言うことは、その声の主も『古墳』の中にいるんじゃないの?
じゃあ、それって。
「俺は良いから、先に行け!」
ってやつ?
「……って事は、背後にいる狼君が『千佳子、俺は良いから。君の幸せを願っているよ』って意味合いの夢じゃない?」
「……そんな」
完全に目が覚めてしまった千佳子は、絶望から視線を逸らしたかった。
「ううん、これって逆さ夢の場合もありそうじゃん。私が玄武さんを幸せに導けたら……」
千佳子が俯き小声で呟いていると、執事服をキリッと着こなした玄武が麒麟のようにオールバックのヘアスタイルでティーパーティのケーキスタンドを持ち、如何にも神妙な面持ちで、千佳子の前に現れた。
「千佳子さん、ようこそ『私人の四神』パーティへ!」




