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♡酒を煮る♡

 千佳子は無事に玄武を脱衣所から追い出し、濡れた服と着替えを別々のカゴに入れて、浴室に入って行った。


 優しいオレンジ色の光が、六畳ほどの浴室の隅々まで行き渡っている。


掛け流しなのか、湯口から途切れなくお湯が湯船に注がれている。


湯船の反対側には3人座って身体を洗える洗い場があり、メイク落とし、洗顔料、リンス、シャンプー、ボディソープ、カミソリ、シャンプーハット、使い捨て用なのか袋に入ったボディタオルが五つほどあった。


「ムムム。ーー別宅と言うにはとても綺麗だし。まるでいつでも急な来客に対応出来るように鼻から用意されているみたい。……あの、麒麟ってオヂサン相当遊び上手なのかしら。気をつけないといけないわね!」

 

千佳子はそれでも、手を合わせ一礼してから念入りにメイクを落とすと、全身くまなく洗い、流し、慎重に湯に指先を入れてお湯の熱さを感じてから、右足からそっと湯船に入って行った。


それにしても、冷え切った身体をじんわり温めてくれる。


「ふぅーー。なんだかドタバタだったけど。今日はきっと、良いことが出来たと思うわ」


千佳子は肩に湯をかけながら、宇佐野に聞こえるように呟いた。


『千佳子、僕を呼ぶのもところ構わずではこれからは駄目だと思うよ』


「どうして……。狼くん。私がいいと思うんだからいいじゃない。ーーそもそも、別次元だか、空間だかから私があなたを連れ戻す事が出来たら……。ところ構わずにあなたに話しかけたいと思ってるし、別段不思議な事ではないわ!」


千佳子的には、このお風呂でバックハグをして欲しいと思ってる。


そんな千佳子の気持ちを知ってか知らずか、宇佐野は続ける。


『私人の四神、玄武に助力する事により僕が助かるんだーー、僕の希望を君に無理強いさせてしまって申し訳ないと思っている』


「あのさぁ、それは言わない約束だったじゃない。あの、玄武っていう大男を助けられれば……」


『千佳子』


バシャ!!


千佳子は湯船から立ち上がった。


「私、玄武さんを助けたよ、なのになんで狼くんこっちの世界に戻れてないのよ!」


『……千佳子、それはまだ、玄武が助かっていないからだと思います』

 

「えっ、そうなの。だって私、玄武さんが溺れている所を助けだしたのに!」


『でも、僕は今もまだここから出られていませんよ?』


「うう、確かに……そうだね」


千佳子はふらふらとまた湯船に浸かった。


『千佳子』


「なぁに、狼くん」


『僕は、千佳子が幸せになってくれるのを祈っているよ』


「だーーかーーら。私の幸せは……」


湯煙越しに困った表情をしている宇佐野の表情が見て取れる。


「もし、あなたが単なる幽霊だったら、簡単に成仏させてあげられそうなのに」


『それは、無理ですね。僕も千佳子に幸せになって欲しいのです』


バシャ!


千佳子は背後に気配を感じて振り向いた。


確かに今そこに、現実世界に宇佐野だろう男性の気配がしたのだ。


ほんの一瞬だけ、別次元と重なり合った気がした。


『バイバイ……。千佳子』






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