護り♡護られ
玄武は思いっきり泳いだ。
着衣泳を全く無視して焦って泳ぎまくった。
玄武の体力が有れば、岸まで時間はかからないだろう。
麒麟でさえ、思った以上に早く僕らの所まで泳いで来てくれた。
「!」
キンッツ。
右足が攣った。
左足があるじゃ無いかと思ったら、連鎖反応なのか不意に動かなくなった。
思いのほか重い衣服、浮く要素があまり無い筋肉質な身体がすすいと海底に沈んで行く。
「ああ、もうっ!」
一部始終を見ていた千佳子は、自分の浮き輪を麒麟に預け千佳子は素早く潜水して、玄武の大きな身体にしがみつき、腹を天に向けた。
(狼くん!)
千佳子の捨て身の救助で玄武の体も波間に浮いた。
「二人とも、浮き輪を掴みなさい!」
麒麟が叫び、仕方ない玄武は今度は浮き輪を掴んだ。
「玄武さん。もう、無理はしない事ね」
千佳子は苦笑いではなく本気で叱った。美しさが際立つ。
ーー美女に叱られるのは満更でも無い。
「すみません……」
玄武は、攣った足は痛いが助かったと同時に虹色に輝く竜と不思議な女神のような女性の姿を思い出していた。
「全くもう、私達には『護り護る』ものが居るはずよ。ーーどうして、そんな簡単に命を捨てようとするのよ。そもそも、私達はーー強力な護りに護られ自ら死ぬ事すらままならないけど!」
女はとても小うるさいものだと感じるのはこんな時だろう。
ーー竜ちゃんも、そう言えば同じような事を言っていたな。どうして、あの時の俺は素直になれなかったのだろう。
千佳子は岸を目指し泳ぎながら話を続けた。
「玄武さん、私はね、大神の声を聞く一族の娘なの。ーーそれで、私の最強の護りであり、私の大事な人。『狼くん』がいるの、私は狼くんの声を聞くの。声を聞く事は護りにも通じるの。玄武さん、あなたにも四神の護りがいるはずでしょ。どうして、玄武さんは護りに話しかけないの、祈らないの。確か、玄武さんの護りは四神の玄武でしょ。その玄武自体もどうしてあなたに干渉して来ないのよ。おかしいわよ!?」
別におかしくは無いですが。
いちいち癇に触る女だな。
「千佳子」
麒麟は止めようと呟いたが、女の鬼気迫る迫力には弱いものだし、玄武はまだ足が攣って動けない。
多分、千佳子の叫びを止められる者などいない。
そんな玄武にお構い無しなのか、気がついていないのか二人は浮き輪をビート板を使うように使い泳ぐ。そんな背中を見つめ黙ったままの玄武。
ーー千佳子さんは、「狼くん」という護りに話しかけるのか。
ふと、玄武は「叶わぬ恋だと言うのなら、玄武よ、僕を思うのであればーーあの竜ちゃんになってくれないか」と思った。
水面を吹く風、空気が一瞬ヒヤッとした気がした。




