♡秘密♡
虎時と竜は八切の別宅にある大浴場にて、のんびり水上温泉に浸っていた。
虎時はこんな時はあまり喋らない。
いつの時もそうだが、竜が喋りかけなければ静かにその場の空気に身を委ね楽しむ。
竜はその逆で、その場その場の楽しみを最大限に伝えたい。
武士と村民出の違いなのかも知れない。
本当、そうしみじみ思う。
「大将が小さな事をいちいち人に話したりはしないよね。思慮深くって言うか、頭の中で戦略を練り、時には味方まで欺き勝鬨を上げる。私は根っからの徒軍ーー歩兵だよね」
隣でマッタリ湯に浸かっていた虎時が湯から半身を出すと優しい眼差しを竜に向け言った。
「竜ちゃんは根っからの勝ち戦なのですか?」
虎時は濡れた髪をかきあげにっこり微笑んだ。
「虎時さん、それ、意味ちがーーうぅw」
虎時の世界はいつも明るく平和だ。
「もう、虎時さんたら。……でも、虎時さんがそうだからこそ私、虎時さんと結婚してから暗い気持ちになった事ないもんねーー」
「そう、気のせいじゃ?」
再び瞼を閉じて、ゆっくり湯にしみじみ浸る虎時。とても気持ちよさそう。
そんな虎時の姿は見ているこっちもとても幸せになる。
二人が湯から出て薄暗いを通り越し、暗い廊下を歩いていると、着物を着たお婆さんとすれ違った。
お婆さんは二人に軽くお辞儀をすると湯のある方向へ歩いて行ってしまった。
竜は、直ぐに気がついた「おかしい」と。
この旅館は八切さんたちの別宅で旅館では無い。
管理人を雇っているとも聞いていない。
虎時はすれ違ったお婆さんを無視しているのか、何も意に返さない。
「虎時さん!」
竜が好奇心を持って虎時の半袖の裾を引っ張って、目配せしたが虎時は「うん」と言うだけで、竜が示す方向を見ようとはしなかった。
「虎時さんたら、不思議に思わないのかなぁ」
それでも歩いて行くそのうちに、小さな光が大きな光りに変わりーーいちごちゃんにお茶を頂いた、庭にそこだけ突き出た休憩所まで戻って来れた。
八切といちごちゃんが、みんなで買い出しした、飲み物やらつまみやらの為に丁寧に皿や器を用意していてくれた。
休憩所の明るさと二人の笑顔で竜はフゥッとため息をついた。
「あら、竜ちゃん。大きなため息。どうかしたの?」
「さすが、いちごちゃん。ーー私達、さっき『おばあちゃん』とすれ違ったの。……おかしいよね、ここ八切さん達の別宅でしょ。管理人さんが常駐しているなんて聞いてないしさ」
「そうね、この別宅では管理人さんを雇っていないわ。その証拠にと言うのも恥ずかしいけれど、庭は雑草だらけよ」
いちごちゃんが指差す窓越しの庭は確かに冬とはいえ枯れた雑草が寂しげな荒野を演出している。
ーーそう言えば、大浴場の窓越しに見た庭も枯れ草の原野の様だった。
あの場では、地面近くではなく、木々そして夜空を見上げていた竜は気がついていたようでいなかった。
もし、管理人さんが常駐していたとしたら、庭もここまで荒れ果てることはないだろう。
「竜ちゃん、御名答。『ここは、そのお婆さんが生前経営していた旅館』なのよ♡」
いちごちゃんが嬉しそうに飛び上って喜んだ。
「ゆ、幽霊……」
竜も飛び上がって喜んだ。
「見た、見た!」
「見たのね、見たのね!」
竜といちごちゃんが二人で盛り上がっている側で、八切と虎時は視線を合わせて、頷いた。




