簡単に♡言おう
松島の地のとばりが落ちた。
波が細かに月明かりを乱反射するので意外にも明るい。
玄武石田は、呼吸を整えて向かい風に身を委ねまぶたを閉じ、福浦島の広場の隅の隅、断崖から一歩蹴り落ちた。
冬の海は内海でも少しだけ波が高い。
波の中は透明度が高く、澄んでいるなと思った瞬間には服に冷たい水がまとわりつき、重い。
思ってた以上に動けない。
流石に少し、玄武であっても体力が落ちていたみたいだ。
麒麟をはじめ、虎時、朱雀……竜と歩んだ日々。長かったようで短かった。
上陸地を考えず、飛び降りたから。
もう、いいやとさえ思う。
波間に頭を出したり、波にのまれたり。
離岸流さえ無ければ、福浦島沿いを泳いで福島橋沿いに泳いで浜まで泳いで上陸できる。
多分、今の玄武にもそれは出来そうだが。
このまま、波に飲まれてしまえば良いのかもしれない。
生きていても、竜のことばかりが頭によぎってしまう。
いや、竜のことばかりでは無い。
埼玉ーー関東を遊び尽くした四神達との思い出が心を引く。
頭の中で、弦のつま弾く音が響いた。
……乙姫なのか……
波間の中を天女の様な女性が意識を失いかけた玄武を悲しそうな眼差しで手を伸ばして来た。
いや、よく分からないあの、よくわからない服を着たあの女だ。
いやーー巨大な龍が大きな口を開けて玄武を飲み込んでしまった。
双眼鏡を覗き込んでいた麒麟は狼千佳子と連れ立って松島海岸駅近く、福浦橋のたもとで係留していたタグボードに乗り込んだ。
「よしよし、いいぞ、その調子だ」
麒麟はブリッジに乗り込むと、いかにも武者震いして楽しそうである。
そんな麒麟の危機迫る変態ぶりに恐怖した狼千佳子はブリッジに乗り込まず、タグボートの甲板部にとどまる事にしたがその顔は引き攣っていた。
「麒麟、あなたという人は。きっと血の滲むような長年の努力の末に見つけたキーパーの一人をむやみやたらに……」
千佳子は息をのんだ。
タグボードが大きく揺れて一瞬月明かりにぼんやり虹色の水晶色に輝く龍が躍り出た。
「千佳子、受け取れ!」
麒麟が叫んだ。
「嫌よ!」
千佳子は肩幅に足を開きファイト体勢で構えた。
次の大波と共に、気を失っている玄武が甲板めがけて飛んで来た!




