虚⭐︎船
玄武は福浦橋を渡りきり、福浦島に上陸すると広場の隅まで歩いて行った。
東北の冬の空は曇天のようなそうで無いような。
男ひとり、海風にあたるのは久しぶりだ。
玄武の整えられた短い髪でも風にそよぐ。
戦ぐとも、書くが。
この、今でもいささかいつの時代だかの海戦に臨む……そんな過去を思い出させてくれる。
塩の匂いが、悶々とした気持ちを振り払って、戦さに挑む男の肩を撫でるよう。
ーーそう、竜に似た天女に撫でられた気がした。
弁天様が祀られているからだろうか。
この広場から見える松島の絶景。
竜にも見せてあげたい。
ーー僕はまだ竜の事が好きなのか?
フフフ。
背後で笑われた気がしたので振り返ってはみたが誰もいない。
平日なので観光客も少ない。
ーー海へ向かうは死出の旅。
ーー海へ向かうは戦いの。
ーー海へ向かうは……。
ーーー海の向こうには常世の世界。
ーーなんだか。
冬だが海を泳ぎたくなってしまった。
竜に似た女性と高波の中上になったり、下になったり波と戯れ遊ぶそんなイメージが脳内に来た。
なんだろう。
男女の着てる服装も見たことがない。
この海原の先に……。
ーーなんだか、ムー大陸があったとしたら。そこで、何かがあって……。
何をそんなに強烈なまでに、引きずっているんだ。
もっと。
もっと、自由でそれで良いはずだ。
杜の都仙台。
松島は坊主の修行の地。
自由とはなんだ?
なぜ、僕は手にしていた竜を手放した?
なぜ、虎時は素直であれた。
どうして麒麟は、独身なんだ?
僕はなぜ、頭が硬いんだ。
ーー竜の純粋さは、虎時の胸の中でもそうなのか?
外海はもっと波が高い。
僕は……海へ帰ってしまおうか。
城ヶ島で竜と二人きりになったあの時、今の気持ちを伝えていれば。
波は穏やかに打ち寄せている。何度も何度も何度も打ち寄せる。
狼千佳子も良い人だった。
でも、なんというか。
また、麒麟と海に出たい。
どうせ、僕と竜がまた再びーーなんて事は無いのだから。




