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♡女の夜更けに♡

 先程まで眠たそうにしていた虎時が、るんるん気分で鼻歌交じりに車を運転している。


八切の車に先導され、虎時の車は越後湯沢あたりでUターンして40分ほど車走り水上駅前までやって来た。


わざわざ水上駅前まで来たのは虎時の要望だった。


虎時は温泉地の駅前商店街を見るのが大好きなのだ。


前を走っていた八切の車が路肩に止まり、八切が出て来た。


「虎時さん、駅前ですが歩きますか?」


「八切さん、わざわざありがとう。でも俺、車窓を眺めるだけで良いのです。明日の朝、店が開いた辺りにブラブラしようかなぁと」


「そうですか。その方がお土産を買うにも良いですね。それではスーパーに寄って家に行きましょう」


「ははは、はい」


 すまなそうに頭を掻く虎時。八切と虎時はもう既に旧知の中のように竜には見えた。


虎時さんたら、会ってすぐにお友達になれる才能があるなんて、すっごく羨ましいよ。


  水上駅から車で5分のサ⚪︎モール水上に着いた。各自酒やら何やら買い込んで、出ると利根川沿いを少し走り、八切の別荘(べったく)に到着した。


 竜は感嘆の声をひっそりあげた。


それもそのはず、虎時の実家も趣のある古民家だが、八切の別宅も、水上温泉郷の周囲の山や利根川の風情の良さ(マイナスイオン)もさることながら、相乗効果で「温泉」に来たと胸踊る風情と趣である。


 ーーと言うか、のれんこそかかっていないが長い時間(とき)をこの郷と過ごしてきたであろうネンキが感じられる。


「さあ、入って」


八切が鍵を開け、廊下のガラス細工がエモいランプシェードの白熱電球のほんわかする光をつけ、奥へと入って行く。光は虎時と影に隠れる竜に手招いた。買って来た買い物袋を虎時が床に置くと光が全て持ってしまった。すぐに虎時が持ち直そうとしたが、良いのよと拒まれてしまった。


外観も旅館だが、中も旅館だった。しかし、別宅と言うからホコリっぽいかと思ったが、とても綺麗で空気が澄んでいる。


二人がそうしたように、虎時と竜は下足箱に靴を揃えて置いた。下足箱の上には黒電話まである。


「ねえ、虎時さん、黒電話あるよ!」


「あはは竜ちゃん、そんなに黒電話が珍しいですか、俺の実家も昔は黒電話使っていたよ」


「そうなんだ、うちのばあちゃん家にも昔あったの」


そんな二人を見ていた光はニンマリ笑って言った。


「竜ちゃん、黒電話珍しいの、使ってみる?」


「あ、あの、いえ、そんな……」


光のまとわりつくような陽気さにどうしても陰気な竜は圧倒されてしまう。


虎時の知り合い? でなければ、絶対、お近づきにならないタイプの人間である。

 

「光、俺は先に布団を敷いてくるから二人にお茶を出してくれないか?」


空気を読んだのだろうか、先を歩いていた八切がちょうど3人が厨房の前まで来た時に振り返り言った。


「はいよっ!」


光は、頷くと厨房の戸口にある電球のスイッチを押した。光は買い物袋を調理台の上に全部置いた。


 虎時と竜の目の前に普段は見ることのない厨房の銀色に輝く大きな冷蔵庫やら、銀の調理台がキラリと目に飛び込んで来た。


旅館の外観とは異なる、近代的な設備である。


「わぁ、光さんすごいです!」


「そう、でもね、ここはただの私達の別宅だから」


光は、棚から茶葉と急須など取り出すと湯を沸かし始めた。


虎時も竜以上に、好奇心旺盛に料理道具を見つめている。


寸胴、ザル、お玉は家庭用ではない大きさである。


ーーさすが、旅館、だったのか?


「虎ちゃん達は先に八切が行った方に客間が、座れるところあるからそっちに行ってて」


光は腕組みして二人にそう促した。


虎時は頷くと、まだキョロキョロしている竜の手を引き厨房から出て行った。


「すごいね虎時さん、私旅館の厨房の中に入ったの初めてだよ、ホテルの厨房には嫌って程入ってたけど、ーー私の前に勤めてたホテルの厨房と負けず劣らず、良い設備!」


竜がそう呟くと、虎時は首を少し傾け言った。


「ーーただの別宅と言うには、設備がよろしすぎる別宅ではありますね。でも、これだと温泉は期待できますね!」


虎時は頷き頷きご満悦のようだ。


「でもさーーなんだか少し、暗い旅館はなんだかドキドキするよ」


「竜ちゃん、ドキドキ動悸ですか?」


そうだ、竜の言う通りーー廊下の電気は玄関しか灯っていない。行く先はぼんやり暗い。


 きっと、もっと電球をつければ、艶びかりした重厚な木造家屋である事を目視する事が出来るだろう。


 隙間風に、風によって幾何学模様が施された薄い窓ガラスがカタカタと音を立てている。


趣もあって情緒も感じるが、とても寒い。


竜はブルっと震えた。


「さあ、行きましょう!」


意気揚々と先導する虎時。強がってもおててはポッケの中だ。


「ふふふ、虎時さんも寒いのね、そのおててw」


「手はポケットに入れておくものです。俺、基本的に寒いのは苦手だから!」


「私も、寒いのは苦手だけど、そこまではしないかなぁ」


「ああ、さびい。こたつで丸くにゃりたいわw」


「ふふふ、虎時さんたら、猫丸出しだしじゃんw」


「いいの、俺は猫好きだものw」


虎時と竜がわちゃわちゃしていたら、長い廊下の奥から八切の二人を呼ぶ声がした。






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