♡虎時♡
虎時はとろんとした眼差しで竜を見た。
「水上ここは、水が豊か。谷川連峰直下の地下水が豊富ですし、飲める温泉は竜ちゃんが悩まされている便秘にも効くらしいですよーー⭐︎」
「べ、便秘に効く!」
温泉水にそんな効用があるなんて。
「竜ちゃんなら、みなかみのお山の中にいるだけでお肌ツヤツヤになると……おもう」
虎時は相当疲れているようだ。
「確かにそうかも。ただこの場にいるだけで、シットリしてる感じがするよ」
肌が、しっとり。それだけじゃない。心が弾む。なんて表現して良いのやら……。
あえて言うのなら「天」。「天に昇るような気持ち」アレって、山に登るって感じなのかーー。
「竜ちゃん、古の人々(センパイ)は山を他界と思っていましたし、神は山から『天』から降りて来る」
虎時は竜の気持ちに感応したのか、竜がつぶやいてしまったのか。
「竜ちゃん〜〜先程まで、山の風は寂しくなるなんて言ってた女には見えないねぇ⭐︎」
きっと今、竜は星空を見上げれば星が大きく近く見えるだろう。
竜の五感が激しく高ぶっている。
そんな竜を見てかすかに微笑む虎時。
「竜ちゃん……それではまずは温泉でも入って、すやーーしましょ⭐︎」
「お、温泉w」
まったくもう、ここまで聞いてやっと虎時さんの考えている事が分かったよ。
あぁ、怖がって損したよぉ。
「それってもしかして、みなかみ温泉のこと?」
近いもんね。
「そうそう」
「予約は?」
「竜ちゃんらしくない〜〜もちろん当日予約⭐︎」
虎時はとても嬉しそうに言うもんだし、相当疲れてそうだから、どうにか泊まれる宿をとってあげたいと思う竜。
「そ、そうだよね。私たち宿泊予約してなかった。でもさ、あのさ……虎時さん。もう、晩御飯の時間じゃん。泊まれるところあるかなぁ……」
竜がポケットから携帯を取り出そうとゴソゴソしていると、八切が心配そうに話しかけて来た。
「虎時さん、今夜泊まるホテルがないのですか?」
「はい、行き当たりばったりの旅でして⭐︎」
もう、虎時の瞼は半分以上つむっている。
「あっ、でも、八切さん。お気になさらず」
「そうは言われても、聞き耳を立てていたわけでは無いのですが」
八切はどうも困っている人を見ると助けずにはいれない性分のようだ。
「虎ちゃんと、竜ちゃんさ、あんまりお構いできないけど。こんな時は助け合いの精神よ。今日はウチのおばあちゃん家に泊めたげるわ」
煮え切らなそうな八切を見て押しの強い光が虎時に詰め寄った。
「ええ、でもぉ」
小声で竜が言ったが、虎時は唸った。
さて、どうしようか。とでも言いたそうだ。
「ねえ、竜ちゃんももう疲れたでしょう。ウチのばあちゃん家に泊まって行きなって」
「そんな、私達……虎時さん」
虎時は、みなかみ、みなかみとつぶやいている。
「……みなかみの温泉に俺たち入りたいんで」
ボソッと言った。
「ああ、それならーー、ウチのおばあちゃん家温泉ひいてて。蛇口ひねれば温泉水出るよ。入りたいだけ入って行って良いよ」
光は胸を叩いた。
ーー竜は、なんかこう、胸がザワザワする。
変な予感。
虎時の上着の袖を引っ張って、この場を去ろうとした。
虎時は顔を上げて、竜の頭を撫でた。
「よろしくお願いします!」
「そう来なくっちゃ!」
光はとても嬉しそうである。隣でひとりソワソワしている八切。
「そうと決まれば、酒とか明日の朝ごはんを途中で買いに行きましょう」
八切は言った。
「そうね、おばあちゃん家には何も無いものね!」
「何も無い?」
虎時が光に聞いた。
「ええ、そうなの。って言うか、おばあちゃんはおばあちゃんでも、私たちとは血のつながりが無くて。古民家を買って少しリメイクしてーー三峰を走る時に、休憩小屋にしてるのよ」
「へぇ、なるほど⭐︎」
虎時の目の先は古民家温泉が見えているようだ。
「もう……虎時さんたら」
知り合ったばかりの人とホイホイついて行って本当に大丈夫なの?
出逢ったばかりの虎時にホイホイついて行った竜だったが。
「大丈夫ですよ。麒麟のアプリの利用者ですから」
竜の不安な気持ちを察したのか虎時が耳に手を当てヒソヒソ話して来た。
「ほんと……?」
八切と虎時の車は、まずはUターンして水上駅、みなかみ温泉郷まで行くことにした。




