タンドラム♡
車の屋根に雨粒がぶちあたる。
ポタポタを通り越してボタボタ。
赤信号でゆっくりブレーキを踏む虎時。フロントガラスも雨で、ウインカーが忙しなく動いている。
助手席に座る竜が、窓に途切れなく滴る雨の流れを、その先の雨の街並みや山々の風景を飽きずに見つめている。
埼玉とも少し違う植生に、好奇心がそそられる。
「雨……、雨水……ししおどし、霧隠れ、三峰の霧。霧の日は狼が出るって言うけどさ、ねえ、虎時さん」
虎時は安全運転。。それでも、もう、たぶん2時間ほど走っているので正直疲れて来た。
「おいらのご先祖さまが願い文を納めた三峰は霧に覆われると狼が現れると言いますね。ヤマトタケルが三峰で遭遇した火事から助けられたのが狼だったからだと聞き及んでいますが……。※狼信仰は月。ーー竜ちゃんの故郷、新潟は月と海。俺のご先祖さまは海……。日本人の多くは山海、天に太陽、ーー舟。饒速日は舟や剣。……海に霧。夜空の星……妙見信仰。新潟にも妙高(※間違い。妙高山は善光寺信仰w)がありますね。ーーあとは地底。森羅万象にそれを司る神がいる。それは森羅万象を司っていた祖先がいるという事。祈りの中にさまざまな叡智がある」
「おーい、虎時さぁん!」
やばい、やばい。虎時さんの話が長くなる時は虎時さんはそうとう疲れてる。
虎時の目がとろんとしている。とても運転が辛そうだ。
竜は虎時の口に辛いガムを放り込んだが、意味がなさないようで。虎時はすぐに吐き出してしまった。仕方ない。
「竜ちゃん、すみません。どこかで休憩しましょう」
「私もその方がいいと思う」
虎時は谷川岳パーキングエリアに車を停めた。竜はリクライニングを倒す虎時の頬に軽くキスをすると、アイマスクをサッとかけ、空になったペットボトルを持って車から出て行ってしまった。
ーー竜にとって谷川岳パーキングエリアは、家族旅行で訪れたことのある。思い出の地。
谷川水系の美味しい水がーーそう、水だけではない。山全体の青々しい気配。その全て。竜が深呼吸すると全身が森の気配に満たされる。
出来ればここにずっといたいが、ヒルもいそうで怖い。山にいる奴らは木の上から降ってくるw。
竜はジメジメした所がこの上なく好きだが、ジメジメした場所にいる生物とは仲良く出来そうにない。「ちょっと、寄って来ないで下さいね」と心の中で念じるしか出来ない。
だが、奴らはこっちに人がいると分かっていても、わざと堂々と前を通ったりするから、出来るだけ遭遇したくない。
ふと、背後を振り返り、出て来た車、アイマスクを着けて寝ている虎時を確認した。
虎時は寝ている。
良かった。目を覚ますまで今少し、谷川岳パーキングエリアをうろつく事ができる。ウロウロは大好きだ。ペットボトルに水も汲んで……。
「……あ」
竜は水の流れを見る事も大好きなので、水汲み場の蛇口を捻って水を汲む前に少しちょぼちょぼと流していた。水の豊富なここでしか出来ない事なのだが。
細い流れをぼうっと流れを見ていたら、視線の先に見てはいけないものを見てしまい、つい視線を逸らした。
「玄武……、まさかね?」
えへへ。
見てはいけないモノを見てしまった気がした。見た事あるような車と人影があった。
そう、短い期間ではあったが、確かにあの鍛え抜かれた背中ーー広背筋、三角筋。
うなじから剃り上げられた後ろ頭。後ろ耳。
ーー真剣な、でも優しい横顔。
瞬時に視線を逸らしたが。
ありありと何かを思い出してしまうでないか。
いやいや、竜、別人かも知れないじゃないか。
そう、竜は自分に言い聞かせ、後ろを振り返り見てはいけないと思いつつ、振り返りしっかり見てみた。
「あはは。んなわけないよなーー」
竜の完全な見間違いだった。




