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真♡生活

ーー寝れるわけが無かった。


1メートル範囲、玄武のパーソナルスペースに千佳子がいるのだ。


玄武に兄弟はおろか、姉妹さえ居ない。


竜と二人でしばらく過ごしたこともあったが、あのズボラな竜の雰囲気(おんなのくうき)さえも最後まで玄武は慣れることが出来なかった。


千佳子の寝返りの音さえ敏感になってしまう。


床が硬くて痛いのかな。


見ず知らずの男と二人っきりで辛いかな。


そんな事を考えているうちに、もしかしたら、竜も自分のいびきで嫌な思いをさせてしまっていたかも知れない。


竜は何ひとつ言っては来なかったのだが。



千佳子は熟睡していた。心地よい夢の中。


『千佳子。起きろ』


野太い聞き慣れた声が、ちょうど高層ビルの狭間のカフェで千佳子の憧れの航空自衛隊、救難隊の凛とした男性とお茶してた千佳子に青天の霹靂のごとくやって来た。


(ああ、もうーー今良いところだったのに。なぁーーにぃ、狼くんーー)


『千佳子しゃん、千佳子しゃん』


可愛い微かな声が聞こえて来た。声だけではない、圧倒的な存在感。


(誰よ。ーーうん、わかった。起きるーーから)


千佳子は意外とどこでも熟睡出来る。その代わり、こうやっていつでも起こされてしまう。


声の先を見ると、大柄な玄武が横たわっている。


どうやら、眠っている様だ。


『千佳子しゃん、千佳子しゃん!』


どうやら、玄武の横たわった体の向こうから声が聞こえてくる。


声と言うには微かだが。


千佳子は「それ」が逃げないようにそっと起き上がると音もなく玄武に近寄った。


玄武は、気配を出来るだけ消して近づこうとする千佳子の気配にむず痒い。


僕は起きていますよと、声をかけた方がいいのか。知らないふりをして、目を瞑っていれば良いのか。


千佳子は玄武の体の上にちょこんと顔を出した白蛇を見た。


(おっ、これは可愛いーーじゃなくて、あなたは……)


『千佳子しゃん、僕はかわいい蛇しゃんなの』


「ーー本当に可愛い。ーー越後の龍」


千佳子はため息混じりに言い、寝たふりをする玄武に視線を向けた。


何やらひたすら、無言で呟いているようだ。


手作りの温もりを感じる格子窓から月明かりが差し込んで、ぼんやり浮かび上がる妖艶な千佳子。


ニコリともしない。


千佳子は髪をかき揚げ、無言で立ち上がろうとした。


「千佳子さん、越後の龍って、それは竜ちゃんの青龍の事ですか?」


玄武はいても立っていられず、手首を掴んでしまった。


「どこへ行くんですか?」


「……車。竜ちゃんーー?」


車と言われ、竜の事は何を聞かれているのか分からないそぶりをされ、ツリーハウスを降り、森の中へと消えて行ってしまった。


玄武はそれ以上引き留められなかった。


ーー千佳子は朝になってもツリーハウスに戻っては来なかった。


その間中、玄武は眠ることが出来なかった。


明るくなるまで引き留めておけば良かったとか、あのまま引き留めておいたら自分が狂ってしまうのではなかろうかとか。


ーー来るもの拒まずあと追わず


の精神は嫌いじゃないけど、好きでもない。


玄武は、少しだけ仮眠してから、ツリーハウスを降りた。ツリーハウスの下の竈門で燃え尽きた灰の上に豆炭を置き火をつけ、手際よく朝食のパンと目玉焼きと厚手のハムを焼いた。


一応、千佳子の分も焼いて置いたが千佳子は来なかった。













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