るんるん♡ホッカイロ
事件が動き出したのは、麒麟がダイダルウェーブを、玄武のファンサービスの恒例会を終えて、玄武が家路に帰った時だった。
玄武の住んでいるマンションの壁は薄いと思われるが、今はとても静かな狭いワンルームだ。
玄武は実家がかたいので、各都道府県に親が玄武に与えた戸建があったりするのだが、玄武は麒麟の別荘のひとつを借りている。狭い方がアナグラに戻るようで、寂しさを感じない。
ーーこれが、竜ちゃんだったら気が触れてしまうだろうな。あいつには広い空間が必要さ。
新潟の広い広い空の下水平線まで続く緑の水田、イキイキと成長していた竜の(白いワンピースに麦わら帽子、ケラケラ笑う)姿を思い出し、胸がむずむずする。
このワンルームマンションは麒麟が昔、小説の原稿を書き上げる為に籠る為に買ったマンションだったらしい。
狭いクローゼット上の戸袋にカンカン帽を、そっとしまうと、白い背広のジャケットをベットにそっと置いて、海の深い青色と似たネクタイを左右に少し振ってスルリと解き、パソコン台に無造作に置いた。
ーーその瞬間だった。
「なぜ、今まで僕は気が付かなかったんだ。……どうしよう、これじゃあさ」
僕に、どうしようも出来ない事。
玄武にもどうにもならない事がある。
最近、竜に近ずき過ぎた。
玄武の「玄武の蛇が……お散歩に出てしまった」なのだ。
すぐさま、メールで私人の四神に助けを求めたのだった。
「それは、大変だ。ーーだが、今俺は竜ちゃんの事で手一杯だ」
虎時が1番初めに反応した。
それは、玄武が虎時の立場でもそうするだろう。いちいちとは思うが、グッと気持ちを抑える。
他二人は沈黙。
いつもは冷静でいられる玄武もソワソワし始め、朱雀に綺麗な状態で返却しなきゃいけない白い背広の上に座ってしまった。
いつもなんとなく、「そこ」に「いた」存在が半分になってしまった空虚感。
ベランダで飼っている、亀さんの姿を慌てて見に行った。
ーー玄武の蛇ちゃんがいなくなる時、亀ちゃんも脱走しちゃうんだ。
「ああ、よ、ーよかった!」
まだ、そう時間が経っていない為か、亀ちゃんは緑のプラ舟から賢く石などインテリアを組み合わせて足場を作り、プラ舟の縁であたふたしていた。
玄武は、そっと亀ちゃんを抱き上げると、頬ずりした。
「良かった亀ちゃん、君は僕のこと想いなのはわかるけど、君にまで脱走されたらーー僕はどうしたら」
ああ、なぜだか分からない。
涙が頬をつたう。
アメノミワザの玄武だ。
微かな。
いいや、存在が微かであろうとも、気がついたその時からずっと一緒だったのだ。
玄武の蛇が、お散歩に行ってしまうのは今までにもあった。
玄武はプラ舟に亀ちゃんを戻すと、パソコンへ向かった。
「今は四神に頼るより、千佳子さんに……」
玄武は、大学生時代の級友千葉から、何かあったら頼れるぜと過去に紹介された(紙に書いた電話番号だけ)狼千佳子に、ショートメールをして、その後すぐに電話した。
千佳子は開口一番、
「玄武くんの玄武だよねーーなんなん、でっかい亀さん『だけ』いるのーー。おかしーーw」
ゲラゲラ笑い出した。
笑える話ではないのだけれども。
だが、千佳子の笑いは止まらない。




