そもそも♡モソモソ!
「なあ、竜ちゃん!」
竜と一緒にお座敷遊びをしていた虎時が竜の両手をとり顔を上げ、竜の顔を見た。
「何よ、虎時さん。他のお座敷遊びするの?」
「いいや、それよりもっとーー」
虎時が言いかけたところで、麒麟が立ち上がった。
「平安時代後期から鎌倉時代初期、いいや、それ以上ずっと以前から我らは戦乱の世に産まれる命だった。それは、話を合わせてやって来たわけなのだが」
麒麟がそこまで言うと、美しい芸者姿の朱雀がスッと立ち上がり、扇の舞を踊り、それを遮った。
「麒麟、貴方の口上が下手な日もあるものやね!」
朱雀がそうつぶやく。その艶かしい美しさに一瞬見惚れた竜が虎時を見直して、困った表情を浮かべた。
「前世……。虎時さん。そんな事を言われても、私達の前世なんて腐るほどいっぱいあるんじゃない。そう……腐れ縁のさ」
竜はまだ状況を読み取れない。
ただ、玄武のファンの為に、年に一度の打ち上げのために、海軍御用達の料亭小松までやって来た、ただ、それだけなのに。他に何が……あるというの。
「俺たちの前世がいっぱいあるという事はもはや、ーー言うまでもなく。それよりも今、俺たちが直面している戦いに赴くしかないのであります!」
まあまあ、気が早い虎時。今にも誰かに噛みつきそうだ。
虎時は、正座を崩して胡座をかくと右手を左手で包み込むように握った。
何故だ。虎時の額から汗がこぼれ落ちる。
武者震いなのか、小刻みに揺れている。
ーーこの平和な世界にどうして?
「竜ちゃん……」
「虎時さんさ……戦って……?」
虎時は瞼を軽くつむっている。そんな虎時を麒麟が優しく強い眼差しで見つめている。
それならば、
「ーーねえ、麒麟さん。ここは海軍将校さん達のよく集まって遊ぶ、海軍料亭だけどさ。私達って、私人の四神同好会とかじゃん。ーーこの平和な世の中で、私たちは何と戦うのさ。ーーあの白昼夢が虎時さんや私達の前世だとしたら、確かにあの時は戦争中だったり、大陸から赤マントの男が日本に逃げて来たりしたと思うけど。現代で、何と戦うのさ?」
「そうですねーー」
麒麟は竜から視線を逸らせた。
「現代そして未来に、再びあいまみえる為に戦うのであります!」
虎時が答えた。
「んんっ?」
竜には何を言われているのかわからなかった。
「竜ちゃん、簡単に言いますとね」
と、玄武が、胸に潜ませていた小亀を食卓の上に置いて、竜に優しい視線を向けた。
「僕らが今見ているこの子亀は、どうして僕らの前に居るように見えるのでしょうか?」
「え、どういう事?」
「どうして小亀は俺たちの前に見える?」
虎時も言った。
「そりゃ、小亀が生きているからでしょ?」
生きていなければ、見えないもんね。小亀の幽霊だったら……。もし、幽霊が見える能力があるのだとしたら見えるかも知れないけれど。
なんて、一瞬考えてみた竜だった。
「竜ちゃん、簡単に申しますと、『この世は1台の物理サーバーを仮想化技術で分割して、複数の仮想マシンとして利用している』ようなものなんですよ」
虎時が苦虫を噛んだように言うのだった。