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刻暦

tense.1=<Adventure>




01


/*聞くべきか聞かざるべきか。物語には知らなくてもいい嘘があり、また真実もある。ややこしいけれどそれが物語。そして、ものがたりは急劇に加速する。


「空白の歴史は繰り返す。繰り返す時こそが――運命に抗う者の誕生を意味する」


 彼は時の支配者のように言った。他人を巻き込んでも繰り返した無限のセカイ、セカイは世界の一部分だと言っていた。


「…………少しだけ世界(真理)へ近寄ろう」


 彼はまた語る。無限セカイへ閉じ込められているわたしと、その他の生命に語りかける。


 語りを騙り、欺く黙示。彼は語り部の紡いできたものがたりを知っている。


「何が目的なの……」そしてわたしもものがたりを思い出した。



 この物語は時の支配者を演じる者と道化師を演じる者の下らない物語。そして嘘ばかりの時代を生きる者の、無限セカイのものがたりだ。*/



 時計というものに刻まれた数字は何を表しているのか……赤子のわたしには何も分からなかった。


 懐中時計という物を握らされて育ったわたしは<時>を知っていた。


「時は有限なのよ。だから自分の時間を他人に預けちゃダメなの」


 わたしはお母さんにそう言われて育った。


 都会から離れた小さな町の、小さな時計屋の、歴史書ばかりが置かれた部屋で、わたしという意識が芽生えた。


「時は有限だ。だから自分の時を自由に使うんだ。他人に委ねる時もある、だから、誰にも歪めることのできない自分だけの大切な時間にするんだよ」


 お父さんはお母さんと違うことを言ったのか――今では確認することもできないけれど、たぶん、時というのは自分以外のヒトを巻き込むものだと伝えたかったのだろう。


 嬉しい時もある。泣き叫んだ時もある。そう、時は有限だった。


 その時を過ごすわたしはと言うと、階段を勢いよく駆け上がり、


「お母さん、お客さん来たよ」


 と扉の前に到着したわたしは、今日も今日とて自室で歴史書を読み漁っているだろう母を呼んだ。一度呼んでも返事をしないことは分かっている、分かっているからこそもう一度、今度は大きな声で呼んでやろう。


「お母さん! お母さんにお客さんだよ!」


<分かっているから、そんな大きな声で呼ばないで>


 と言う声は扉の向こうから微かに聞こえた。聞こえているなら扉を開けて出てきてほしいのに……まったく、この歴史家にも困ったものだ。前の時は一度呼んでも来なかったし、呼びに行ったら行ったで『今行く』とか言って三分経っても来ないし、 わたしの時間は母に無駄遣いされてしまっているのだろう。

なので今回も母の部屋へ強行突破するとしよう。なにも難しいことはない、ドアブリーチなどこれまでもやってきたことだ――ドアノブを掴んでから捻って押すだけ。


と、扉を押すまでは良かった。ドタドタと何かが崩れてゆく音が響く前までは、わたしは作戦成功を確信していた。


「やってくれたわね、カレン」


「やってくれたね、お母さん」


 扉に爆弾が仕掛けられていればわたしはあの世行きだが、それはなかった。しかし扉には爆弾という名の積み重なった歴史書が仕掛けられていたので、わたしは母の仕掛けたトラップに引っ掛かったようなものだ。


 こうなってしまったからには、わたしが踏み場のない母の部屋を片付けする羽目になる。尤も、部屋にいた母が怪我をしなくてよかったわけだけど、分厚い歴史書を積み重ねたりしないでよね……歴史書が怪我しちゃっているよ。


「片付けは後でわたしがやるから、お母さんにマルガレーテさんっていう名前のお客さんが来ているよ。歴史について聞きたいんだってさ」


 いつも通り本しかないつまらなそうな母の部屋だが、とても面白い部屋だ。本と一緒に寝て、本と一緒に起きて……少しは外に出てほしいものだ。


「マルガレーテ……(サークル)(ピクチャー)レーテ(評議会)。きな臭そうなパシリ一族が頭に浮かんじゃった」


 突然ですが何のことですかお母さん、歴史書の読み過ぎで頭がおかしくなってしまいましたか。少しはお外に出て太陽の光を浴びてそのキノコが生えてそうな脳内を綺麗にしてみてはいかがでしょうか。そう、あなたの娘は提案しているのです、夕食はキノコシチューにしようと。


 そんな感じで、わたしは一向に動こうとしない母のカラダを抱き起した。


「ちょっとカレン、いま面白いところなの! 空白が繋がりそうなの! お願い待って」


「はいはい、後で読めますよ。お客さんが下で待っているんだからそっち優先」


「待ってカレン! 時間は有限なのよ! 空白は一瞬でも切り離されたら無限になってしまうの」


「はいそうですか、時間は有限ですね。空白は無限でいいんですよ」


 待っていられないのでわたしは母を一階(時計工房)まで連れて行く。これは強制連行ではない、抵抗もしないのだから強制にはならない。


 一階に着けば、


「ロゼッタさん、お久しぶりです」とお客さん(マルガレーテ)は母の手を握る。


なんと、我が母に異国の知り合いがいたとな! どれどれ、遠くで聞き耳を立ててやろう。


「悪いけど、あんたの探し物はこの工房に無いよ」


「いえ、もう頂いたので」


「頂いた……まさか、使ったとでも?」


「そんなまさか。今のわたしでは使えませんよ」


「そのうち使うんでしょ。まぁわたしにはもう関係ない話だけど」


「歴史は繰り返しますよ」


「……神殺し、でしょ?」


 かみごろし? もしかして噛んで殺すって事? それとも神を殺すっていう空想時代の妄言?


「<pendulum>。そのセカイは有限も無限も含んでおりますよ」


「あっそ、年寄りのわたしには関係ないね」


「関係ありますでしょう。あなたの次の世代は……」


 その中途半端な会話が終われば、マルガレーテさんはお店を出ていき、お母さんは階段を駆け上がって自室へ閉じこもる。


 わたしは先ほどの言葉を考えている。かみごろし? ペンデュラム? なんだろ、なんかぼやーっと思い出せるような気がするんだけど……ダメだ、分からない。


と、わたしは今日も今日とて直らない時計を直そうとする。



 弥町(あまねちょう)にある小さな時計屋、そこから始まるわたしの物語は真理とかけ離れたものとなるのだろう。しかしここから始まる大冒険は、誰もが想像するような大冒険だ。


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