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第6話 ギルドマスター

俺たち一行がギルドの酒場へ戻る道すがら、俺はふとラプラスに問いかけた。


「あの、ラプラスさん?」


「なんだい?」と彼女は軽く振り返った。


「ギルドマスターって、何者なんすか?」


ラプラスは眉を少し持ち上げ、思案するようにして言葉を紡ぎ始めた。「ギルドマスターはね、この世界に存在するすべての冒険者ギルドを統括する、最高責任者さ。彼の伝説は数多くある。かつて若き彼は『勇者』と呼ばれ、単身で魔族五万人を打ち倒し、世界を救ったという。今や彼は英雄として讃えられているんだよ」


"五万人の魔族を単身で倒した"という話がどれほど途方もないのか、俺には正直よく分からない。だが、その言葉の響きだけで、彼がとんでもない実力者であることだけは理解できた。


やがて俺たちはクウェールギルドの酒場に到着した。そこで待ち構えていたのは、まさにそのギルドマスターと呼ばれる男だった。


「君がラプラス君かい?」男が朗らかに声をかける。


「ああ、そうだ。貴方がギルドマスターだね?ボクに一体何の用だい?」


俺が想像していたギルドマスター像とはかけ離れた姿だった。彼の背は異常に高く、少なくとも二メートルはあるだろう。そして、全身を覆うのは金色の衣装――爪先からシルクハットのつばに至るまで、きらびやかな黄金一色。ゴージャスという言葉では済まされない、圧倒的な派手さだ。金色の縁取りのサングラスに、口を開けば金歯が並ぶ。見るだけで目が痛くなるほど、彼は光り輝いていた。年齢はおそらく60代くらいか。だが、その異様なまでの派手さのせいで、実際の年齢などはどうでもよく感じる。


これが、世界を救った元勇者で、今や英雄と称されるギルドマスターなのか?目の前の姿からは、彼が戦う姿など到底想像できない。それにしても、いくらなんでも派手すぎるだろ。


「うむ、君が報告した例の異人の件だ。そこにいる彼がその人物だね?」と、ギルドマスターは俺に目を向け、そしてその巨大な金色のシルクハットを脱ぎ、深々とお辞儀をした。そこで明らかになったのは、彼の頭はまるで鏡のようにツルツルで、目が眩むほど光っていた。


「初めまして、私は全冒険者ギルドを統括しているギルドマスター、ゴルディー・ゴールドラッシュだ」


「は、はじめまして、明石未来です……」


「ほう、アカシ君というのか。なるほど、とても強い。だが、まだ荒削りだな。君は、自分の力の使い方を理解しているかね?」


驚いた。俺は一度も力を見せていない。それなのに彼は、ただ一目で俺のもつ異様な力を見抜いていた。


「君から滲み出る魔力の量は、常人の枠を遥かに超えている。魔力とは便利なものだが、制御できなければ命に関わる非常に危険な代物だ」


ふざけた外見とは裏腹に、その言葉の一つ一つには重みがあった。


「そこでだ、君をギルドの管理下に置きたい。すまないが、君には強制的に冒険者ギルドに加入してもらう。異論はないな?」


「……はい、よろしくお願いします」


「素直だな。異人は柔軟で助かるよ」


すると、ラプラスが何か言いたげな様子で口を開いた。


「ギルドマスター、すまないがボクの話を聞いてくれるかい?」


ゴルディーが興味深げに振り向く。

「うん?なんだね?」


ラプラスは少し気取ったように語り出した。


「彼の異人としての評価をどうお考えかな?ボクが発見したこの異人は、文化的、いや、存在論的に見ても非常に興味深い。彼はこの世界における既存の枠組みを超越した存在であり、その存在そのものが一つの研究テーマとして価値を持っていると言っても過言ではないだろう。この発見は単なる個人的な栄誉にとどまらず、学術的な評価に値するはずだ。故に、貴方がここに来たということは、ボクの功績を評価してくれるということかい?それとも研究資金の提供か、それとも、ランクの昇格が待っているのかな?」


その長ったらしい説明を遮るように、ゴルディーは軽く手を振り、話を戻した。


「いや、ラプラス君。君には彼の監視をお願いしたい。しばらくの間、君のパーティに彼を加えてやってくれ」


「えっ」


ラプラスは一瞬、言葉を失ったように呆然とした表情を浮かべた。


「君にはそれを頼みに来たんだ」


「そ、それはまぁいいとして……それよりもだ────」


ラプラスが何かを言おうとしたところで、ゴルディーは軽く口元をほころばせて、話を続けた。


「フェーベル島への無断立ち入り、そしてギルド未加入者に戦闘を仕向けたとして、ラプラス・レイザー、そしてクオラ・ヨウの両名に、二段階のランク降格を言い渡しま~す」


ラプラスとクオラが目を丸くした。


「えぇー!?」


「マジかよ!」


ゴルディーは金歯を見せつけて高笑いし、胸ポケットからカードを取り出すと、俺に手渡した。


「これは冒険者ギルドに所属する者が全員所有している会員カードだ。本来は自分で作成するものだが、君の分は私が既に作っておいた。すまないね」


俺は「ありがとうございます」と礼を述べ、そのカードを受け取った。


「それでは、アカシ君、くれぐれも力の使い方を誤るなよ。グッドラック!」


そう言うと、ゴルディーは颯爽とその場を去っていった。


【ステータス・オープン】


俺はゴルディーが去っていく背中を見送りながら、彼のレベルを確認した。


【ゴルディー・ゴールドラッシュ、Lv.403】


圧倒的な数字だ。やはり、ただ者ではない。


「ランク降格とか、マジかよ……あのクソハゲ……」


クオラが不満げに呟く。


「全くだ。もっとボクの偉業を評価してほしいものだね!」


ラプラスも不機嫌そうだ。


「そいやお前、ランクどのくらいだよ?貰ったんだろ?会員カード」


クオラが俺に問う。


「ん?俺のランク?」


ラプラスが説明する。「冒険者には、それぞれの活動に応じてE-からS+までのランクが与えられるんだ。ボクはさっきまでCだったが、二段階降格でD+になったよ」


「オレは元々C+だったから、C-だな。クソッ……」


セシルがやけに嬉しそうに声を上げた。


「てことは、私が今この中で一番ランク高いんですね!やった~!」


クオラが苛立ったように俺のカードを乱暴に取り上げた。


「おい、見せろよ」


「ちょ、ちょっと!」


クオラ、ラプラス、そしてセシルが俺のカードをじっと見つめる。


「ちょ、返してよ!」


3人はしばらくカードを凝視したあと、驚いたように顔を見合わせた。


「冒険者ランク、『EX+』?」







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