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第4話 パーティメンバー

ラプラスの部屋に足を踏み入れた瞬間、俺は思わず眉をひそめた。予想以上に散らかっている。ゴミ袋が無造作に積み重ねられ、窓から差し込む光が埃に反射して白く揺れていた。リビングには、異様な存在感を放つコタツらしきものが置かれている。寒くもないこの季節に、なぜコタツなのかは不明だが、その一角に漂う生活感は、この場所がどれだけ長い間、秩序を欠いた日々にさらされてきたかを物語っていた。


ラプラスは軽く肩をすくめ、俺に紹介を始めた。


「紹介しよう、ボクのパーティメンバーだ」


コタツの周りには二人の女性が無造作に座り込んでいた。だらしなく、と言うよりも、まるで戦士の休息の瞬間を見せつけられているような、不自然な静けさがその場にあった。


「まずは一人目、クオラ・ヨウ。ボクたちパーティの前衛として戦ってくれる。ちなみに元盗賊だ」


ラプラスが指差した方向には、ボーイッシュな雰囲気をまとった美少女が座っていた。スパイラルパーマのような癖毛が右目にかかり、ブルーのインナーカラーがその髪に微妙な陰影を与えている。鋭い金色の瞳が、まるで獲物を見定めるように俺を睨みつけた。彼女の右側のもみあげは長く、髪型はアシンメトリーだ。頭からは獣のような耳が突き出しており、左の獣耳には銀のピアスがきらめいている。尻からは、紺色のもふもふとした尻尾がゆらりと揺れていた。小柄な身体に忍者のような黒い装束をまとい、サメのように鋭いギザギザの歯が見える。どこか危険な香りを漂わせる彼女の姿に、思わず喉が渇いた。


クオラは手にしたミカンのような果物を無言で剥き、その視線を俺に向けると、低い声で囁いた。


「お前、今オレのことチビだと思っただろ……?」


その瞬間、冷たい刃が肌に触れたような感覚が走った。彼女の言葉には、怒りと警戒心が絡みついている。小さな体躯でありながら、その瞳にはまるで俺の内面をすべて暴こうとするような圧力があった。


「え、えぇ!?いや、そんなことは……」


口ごもる俺に、クオラはジトっとした目でさらに鋭い視線を送る。


「その顔は思ったな……。違うか?」


思わず視線を逸らそうとしたが、それが逆効果だった。彼女の言葉が重く心にのしかかり、どうしようもなく追い詰められた気分になる。正直、思った。彼女の背丈は小さく、身体も華奢だ。それがどれだけ彼女にとって大きなコンプレックスであるかは、こうして目の前に立つ彼女の殺気から感じ取れた。


クオラはゆっくりと立ち上がり、その動きはまるで猛獣が獲物に忍び寄る瞬間のようだった。体勢を変えたことで、再び彼女の小ささがはっきりと目に入る。


「おい、ラプラス、(ナタ)持ってこい……」


ラプラスは肩をすくめて、少し笑いながら言った。


「まあまあ、落ち着きたまえ。誰が見ても君の第一印象は......まあ、その、チビだからね。仕方のないことさ」


「あん?おめぇもぶった斬ってやろうか!」


クオラの尖った歯がギリギリと音を立て、緊張がピークに達する。その殺気はまるで部屋の温度を下げるかのようで、息苦しささえ感じた。だが、ラプラスはどこ吹く風という態度で続ける。


「そういえばこの前エーレからもらったプリンがキッチンにあったはずだが、君はもう食べたかい?」


その瞬間、クオラの殺気がふっと消えた。


「お前、それ早く言えよ」


彼女はそれだけ言い残すと、そそくさとキッチンに向かい、殺伐とした雰囲気が一瞬にして消え失せた。


「ふぅ、全く困った子だよ。紹介が遅れたけど、こっちはセシル・クローバー。後衛で魔法サポートをしてくれる」


ラプラスがそう言うと、もう一人の女性、エルフのセシルがゆっくりと顔を上げた。彼女の腰まで伸びた銀色の髪は、毛先がエメラルドグリーンのグラデーションで彩られている。その髪が、まるで月光を反射するかのように輝いて見えた。やや無造作に左へ流された前髪の間からは、透き通るような碧の瞳が静かにこちらを見つめている。頭頂部には、一房のアホ毛が後ろ向きに跳ねており、その奇妙さが彼女の美しさをさらに引き立てていた。彼女の肌は月の光を思わせるほど透き通り、頭に飾られた黒い薔薇の花飾りが、彼女の儚げな雰囲気をさらに強調している。


「ラプラスさん、どうして数日も姿を見せなかったんですか……?私に興味なくなったんですか……?」


彼女の声は透き通っていたが、そこには重々しい感情が絡んでいた。彼女は一息にまくし立てた。


「それに、その人は誰ですか?私が要らなくなったから、新しいメンバーを補充しようとしてるんですか?私を追放するつもりですか……?だって、クオラの方を先に紹介してましたし……」


彼女は、まるで自らを追い詰めるかのように喋り続ける。


「そう暗くなることはないよ。君のことは大事に思っている」


ラプラスは優しく言ったが、その言葉にセシルは反応しない。代わりに目をさらに細めて問い詰めるように叫んだ。


「嘘だァ!だったら数日も顔を見せないはずないですもん!何なんですか、その変な男は!」


癇癪を起こすセシルに、俺は内心でため息をついた。変な男とは失礼なことを言う。


「彼はボクが拾った異物……じゃなかったら異人だよ」


ラプラスが俺の紹介をしている最中に、クオラがプリンを食べながらキッチンから戻ってきた。


「は?異人だと……?」


クオラは俺を舐め回すような目つきで見下す。


「確かに、見たことのない装備だな。お前、強いのか?」


その問いにラプラスが答える。


「彼はとても強いよ。あのワイバーンを一撃で仕留めたんだ」


ラプラスの言葉に、クオラとセシルは驚愕の表情を見せた。


「う、嘘だ………!そんなの絶対ありえないです!ワイバーンを一撃なんて、例え魔王でも不可能ですよ!」


「ほおー、お前強いのか……。だったら俺とバトルしろ。その話が本当か見極めてやるよ」


クオラは好戦的に言い放ち、鋭い眼差しを俺に向けた。


「まあまあ、まだ彼の紹介が終わっていない……………。あ、君名前なんだっけ?」


「明石だよ!明石未来!お前が変な名前っつたの覚えてるからなー!」


「おい、 アカシ」


クオラの声が鋭く、部屋の空気を切り裂いた。俺の体が一瞬、反射的に硬直する。まるで本能が、彼女から発せられる殺気を感じ取 っていたかのようだった。


「は、はい........」


声が震えた。自分でも驚くほどに、その短い 一言が重く響いた。クオラの金色の瞳がじっと俺を捉え、まるで逃げ場を探そうとしている俺の心の奥底を見透かしているようだった。


「そのビクビクとした態度、オレはお前を強者だとは思えねぇ……」


彼女の言葉は氷の刃のように冷たく、鋭い。 俺の胸に突き刺さる。目の前の小柄な体が、圧倒的な存在感で迫ってくるのが信じられな かった。


「明日の朝、オレに会いに来い。バトルするぞ……」


その瞬間、俺は息を呑んだ。クオラの挑戦は、決してただの試合やゲームのような軽いものではないことが、 彼女の眼差しから伝わってくる。そこには、命を懸けた戦士の本能 と誇りがはっきりと刻まれていた。


「い、いや、え、えーっと………」


声を出した瞬間、自分の反応が軽すぎたこと に気付く。だが、もう遅い。クオラの目が一層鋭くなり、口元には不気味な笑みが浮かんでいる。 彼女の全身から漂う殺気が、じわじわと俺を包み込み、逃げ場を奪っていく感覚 に襲われた。


「逃げたら殺すからな……」


その言葉は、まるで刻印のように俺の脳裏に焼き付いた。彼女の目は決して冗談ではないと語っている。戦いから逃げれば、俺の命はない────それが、彼女の宣言だった。




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