一応事実な登場人物紹介+閑話
湊絵莉
祖父とモフが支えの社畜。
うねる癖毛は纏めてごまかす。
それでも頭頂で跳ねるアホ毛に呪いをかけたことがある。
ラーメンは塩派。贅沢にバターを乗せるのが楽しみ。
エリィ
社畜の転生体。
バイカラーのふわっとした毛がお気に入り。
ただし濡れるとくさい。
転生仲間の設定が盛りすぎで困っている。
シリカ
海のごとく心の広いエリィの母犬。
すらりとした肢体で幾匹もの男を魅力してきた。
ただし濡れるとくさい。
夫と個性的な子どもたちを大切にしている。
ディアナ
メインクーン以上の巨大猫を被ったお嬢さん。
天使な容貌を自覚しており乱用する。
イケオジとゴールインするのが目標。
転生仲間が犬で叫んだ。
*** 閑話 もふもふ家族の日常 ***
「え、えり……えりねぇ」
「うん、よしよし。お母様が帰ってくるまで一緒にいようねー」
縋るような声で名を呼び、歩いてきたのは我が妹、コーニィだ。
母シリカがご主人様に呼ばれ、部屋を出て数秒後。その腹に埋もれて落ち着いていた彼女は暫し呆然とした後、幼い顔に悲壮の色を滲ませた。
身体を縮めて周囲を見回し、発見したのは二番目の姉である私。
びびび、と前足を震わせながら、まるで罠でも避けるように慎重に進んでくる。
はじめてのおつかいを見守るような気持ちで見つめ続けていると、辿り着いた彼女は大きな瞳で姉を見つめ――私のお腹の傍に丸まった。
きゃーかわー。
これを守らずになどいられようか。私の庇護欲が爆発する。だがそんな共依存姉妹に異を唱える存在が。
「コーニィはなきむしだなぁ、いつまでエリ姉にあまえてくっついてるんだ。そんなんじゃごしゅじんさまにあいそつかされるぞ」
途端にぴっと震えた体を宥め、私はすっと顔を上げた。寄り添い合う姉妹の前に立ちはだかっていたのは、上の弟エクスである。
ふむ。
気の強そうな立ち耳に、こちらを見下ろす瞳には呆れはない。嘲りもない。あるのは騎士を夢見る彼らしく、叱咤激励する意思と――。
「あら、エクスったら。もしかして自分も頼って欲しかったのね?」
可愛い妹に頼られず、拗ねたような色である。
「そうならそうと言えばいいのに。お兄ちゃんにも甘えろよって」
「!? な……ち、ちがっ」
小さな耳が忙しなく動く。明らかに狼狽していた。
ニヤつきそうになるのを堪え、ね、コーニィ、と埋もれた頭に優しく語りかける。
すると垂れた耳がぴくりと動き、恐る恐るという風に妹が顔を覗かせた。気弱な瞳が、本当に?と問いかけるようにエクスを射抜く。
「〜〜っし、しらない!!」
途端彼は、ぴょんと仰け反るように後ろに跳ねた。そのまま背を向け、ヤケクソのように兄と姉のじゃれ合いに突入する。
ああ。
照れる弟、萌える。
しみじみと思いながら、私はその姿を見守った。
母シリカが子供、つまり私達を産んでから二ヶ月が経った。私自身、一ヶ月頃に目覚めたので、この世界ではほんの数週経っただけだ。けれども子供の成長は早いもの。私を含め兄弟たちは人間で言うと三、四歳になろうかという頃で、もちゃもちゃと動ききゅーきゅー鳴くだけだった弟妹は、しっかりとした言葉を話すようになっていた。
やばかわ。
心の中で真面目に呟き、ヴィントを招く。素直にやって来た片垂れ耳の弟と、妹を並べて隙間に挟まる。
これぞ幸。
頬の筋肉をゆるっゆるにしていると、遠くから小さな足音が近づいてくるのに気がついた。兄妹達も立ち耳あるいは垂れ耳をぴくりと動かし、一斉に扉に顔を向ける。そこには警戒はない。あるのは大きな期待だけだ。
ほぼ毎回、ご飯と共に現れればそうもなるかな。
苦笑しながら見ていると、程なくしてガタガタという音を立てて扉が開いた。
ふわりと揺れる金の髪に、宝石のように煌めく瞳。
現れた美しい少女はぐるりと室内を見渡して――呆れたような顔で溜め息をつく。
「エリィはまた埋もれてるのね」
「可愛いから仕方ないです!」
即座に正当性を主張した。だが、はいはいそうねと流されそうな空気を感じ、私はすっくと立ち上がる。
ちなみに私は面倒臭いオタクだ。一言であろうと何か好きなものに話が及べば、そこに二、三言付け加えなければ気が済まない。単に語りたいだけとも言う。
そしてそんな面倒臭い私は、二、三言どころか五か六くらいは言う勢いで弟妹の前へと躍り出た。
「ほらちゃんと見てください!」
まだ短い前脚を、たしん、と床に叩きつける。
「この! ちょっぴり長くなった足! 少しばかりツンとつき出した小さな鼻! 顔のパーツはまだまだ真ん中寄りで幼さを訴えて、底無しの庇護欲をかき立ててくる愛らしさ!」
ぎゅむ、と弟に頬を擦り寄せる。
「そしてこの時期を逃してはならないと思わせる姿に一度触れれば感じるやわやわの毛。ぴょんと跳ねると着地後二、三歩ふらつく不安定さなんて、もはやご馳走様なキュンでしかないですよ。この世にこんな生き物がいても良いのかと叫びたくなる心地です」
「相変わらずねぇ」
お母様がほわほわと言った。
「……変態だわ。食べられちゃうわよ」
お嬢様は口元を引き攣らせ、片足を半歩引いている。
「そんな、ご馳走様は比喩ですよ。食べたりなんてしません! だって食べたりなんてしたらなくなっちゃうじゃないですか。だから私はただこうしてひたすら、埋もれてスリスリして呼吸をしたいと思ってます!」
「吸われるわ。吸い取られるわ」
お嬢さまはドン引きだ。だがイケオジを語る時の彼女と大差ないので気にしない。
語ってさらに上向いた心のままに、スリスリすんすんを繰り返す。恍惚と息を漏らす私の姿に、中毒じゃないの、という呟きが落ちた気がした。もちろんそれも気にしない。
拒まれないのをいいことに、自由に振る舞う私の傍で、ふふ、と穏やかな笑い声が零された。
「ねぇ、エリィ」
「? はい?」
顔を上げる。呼ばれたら反応するのは当たり前だが、母の声は兄妹達が騒いでいても止めてしまう。穏やかな声なのに、何故か振り向かせるだけの力があった。
その母の声が言う。
「そんなにモフモフが好きならたまには私にモフモフしてはどう?」
「――、お、お母様に、ですか」
「だってあなた、目が覚めてからここに飛び込んでくれたのは最初だけでしょう? それからずっと、この子たちにしか懐かないから」
「そ、それは……」
私の精神年齢は成人式を超えて久しい。だから甘えるのは正直恥ずかしいのだ。幼い身体になろうとも、この年になって、という思いがどうしても拭えない。
でも。
「あなた達ほど柔らかくはないけれど、ご主人様が手をかけてくださっている自慢の毛よ。どうかしら」
ね、と首を傾げて微笑むシリカ。私は思わず、うー、と小さく唸って身を縮めた。
「皆いつか巣立つでしょう? 勿論、嬉しくて、誇らしいことだわ。けれど淋しさを感じない訳じゃないのよ」
そう言われると、祖父を一人置いてきた、親不幸者の私は弱い。それにと前世を思い出す。
値札のついた透明な壁の向こう側、新たな家を待つ彼らの月数。そこに至るのはもうすぐで。
「〜〜っ」
私はぼすっと、母のお腹に突っ込んだ。
「ずるいです、お母様」
「あら、知らなかったかしら。大人はとっても狡いのよ」
慈愛に満ちた、優しい声。
私は嬉しさと、少しの羞恥を誤魔化そうと、自身の頭をぐりぐりと母の体へ押し付けた。するとそこへ兄妹達が僕も私もと伸し掛かり、あっという間にもふもふの山が出来上がる。
ディアナはその幸せな光景を見下ろして、全くしょうがない子達ねと微笑んだ。
お久しぶりでございます、お読み頂き感謝です❀
もふもふがモフモフしてるだけの閑話ですみません……!




