悪役令嬢の義妹に【嫌がらせをすると天罰がくだる魔法】を使ったら、天罰がどんどんエスカレートしていった
「ちょっと!なんでアンタが帰ってくるのよ!」
……さっそくエマが鬼の形相で私に詰め寄ってきた。
私の名前はマルティーナ。
隣国の王子、マヌエルとの結婚を10日後に控えていた。
ただ、このマヌエルの妹、エマが問題だった。
元々ワガママ放題で有名で、悪知恵もはたらき、両親や周りの人々を困らせていたらしい。
そんなエマだが、小さい頃からものすごく、兄であるマヌエルの事だけは慕っていたのである。
なので、マヌエルと婚約した私マルティーナは、エマからすれば言わば『泥棒猫』のような扱いだった。
エマをなんとかしないと、今後の生活も苦労する事は目に見えていた。
…そこで、私が思い立ったのが、とある『魔法』を習得する事だった。
この世界ではまだまだ魔法が残っている。
私は簡単な魔法しか使えなかったが、ひょんな事から、ある魔法の存在を知った。
それは、
【嫌がらせをすると天罰がくだる】という魔法。
これは古代に作られた魔法で、そうする事で人々の間で嫌がらせがなくなり、コミュニティに秩序をもたらすのが目的で作られたらしい。
私はその魔法の習得のために1ヶ月ほど旅に出ていた。そして無事習得し、今日、婚約者であるマヌエルの城に帰ってきたところだった。
「アンタなんかここから入れないわよ!なぜだか分かる?アンタなんかにお兄様はふさわしくないのよ!」
エマは玄関のところで足で私を通せんぼしていた。嫌がらせである。
私がマヌエルと婚約してから終始、エマはこんな様子だった。
私は、ちょうど周りに誰も居なかったので、例の魔法を使ってみた。
『天罰と神の導きを………』
すると、エマと私の周りがポワンと黒色に光った。
「ち、ちょっと!今のなんなのよ!」
すると…
『バアン!』
「痛ったあああ!」
…急に突風が吹き、玄関の扉が閉められたのである!その時、エマは膝を強打した!
(今の、魔法のチカラなのかしら…)
大きな物音を聞いて、婚約者のマヌエルが玄関に飛び出してきた!
「何の音だ!?…あ!マルティーナ!無事に帰ってきたのだな!」
私は久しぶりに会ったマヌエルの所へ駆け寄った。
「元気だった?マヌエル。しばらく留守にしててごめんなさい。」
私は結婚生活に先立ち、すでにマヌエルのお城へ越してきていた。
「1ヶ月、独身最後の一人旅に行きたいって言われた時は少し心配したよ!」
マヌエルが笑いながら言う。
「あー……そうね、ははは…」
…私は、『天罰の魔法』の事は内緒にしていた。
それはそれで、みんなを心配させてしまうのではないかと思ったのだ。
私の目的は、この魔法でエマが嫌がらせをやめ、大人しくなってくれる事、それだけだった。
「ちょっと!あなたのせいで私の御膝にアザが付いたじゃない!どうしてくれるのよ!お兄ちゃーん!マルティーナのせいで私の御膝にアザが付いちゃったぁー!」
…エマは私のせいにしていた。
マヌエルはマヌエルで、妹のエマには強く言えないタイプだった。優しさと言えば聞こえはいいが、頼りないと言えば頼りなく感じていた。
この場合、マヌエルはエマに『おーよしよし』というような事をしないと収まらないのが常だった。
そんなマヌエルがエマに言った。
「膝?それはお前が勝手に打ったんだろう。何でもかんでも人のせいにするな!それに、足は2本あるんだから1本くらいいいだろ!あっちへ行け!シッシッ!」
普段のマヌエルとは別人のような言葉だった。
ただ、そのお陰でエマはトボトボと部屋へと戻った。
(今のも、魔法が関係してるのかな?)
「わ、割と強く言うのね…」
私がマヌエルに言うと、
「そう?どうでもいい。知らん。」
マヌエルは氷の表情だった。
(なんか副作用つよそうな魔法だな…)
…ただ、その後はいつもの優しいマヌエルだった。私は、マヌエルとその両親との久々の再会を喜び、夜遅くまで旅の話をした。
いつもなら速攻しゃしゃり出てくるエマは、今日は出てこず、結果として平穏な夜を過ごす事ができた。
◇◇◇
〜 翌朝 〜
私は目を覚まして部屋の中を見渡すと、異様な光景を目にした。
「……なにこれ…」
…床にはゴミやガラクタが散乱していた。
特に、窓の下がひどく、窓に無理やりこじ開けた跡が残っていた。
私は、エマの仕業に違いないと思った。
これは明確な嫌がらせ。
私はエマの部屋へと向かった。
…すると、部屋へ向かう廊下の時点で、エマの部屋から物音や声が聞こえてきた。
『……きゃー!やめてー!なんなのよ、もう!…』
私がエマの部屋の前に立つと、部屋のドアが開いた。
……すると、中から1匹の猿が出てきた。
「え?猿?」
私はエマの部屋の中をのぞいた。
すると、
『キーキー!』
『ウッキッキッキッ』
『ウキャーーー!!』
約12畳ほどの寝室に、野猿が80匹ほどひしめいていた。エマの部屋の窓もこじ開けられていた。おそらく野猿がこじ開けたのだろう。
『ムキャーー!』
野猿が飛ぶ!
『フキャーー!』
野猿が食い散らかす!
『ハキョーー!』
野猿が糞尿を飛ばす!
エマ自身も野猿のボスザルと決闘し、おそらく敗れたのだろうか。エマはボスザルのノミを取っていた。
「えーん!助けてー!お兄ちゃーん!」
…騒ぎを聞きつけ、マヌエルがやってきた。
「あ!マヌエル!エマさんの部屋が大変なことに…!」
私がマヌエルに言うと、
「マルティーナ、おはよう。」
マヌエルはまず、私にニコッと笑ってあいさつをした。
そして、野猿だらけのエマの部屋をのぞいた。
いつもなら全力でエマの事を助けるのだろうが、マヌエルはこう言った。
「…どいつがエマだ?どいつもこいつも猿顔で分からんな。友達に静かにしろと言っとけよ!ハンッ!」
そう言うとマヌエルは私の手を取って、ダイニングルームへと向かった。
(…やっぱり副作用がつよい気がする)
ただ、結果としてはマヌエルとご両親とで爽やかなモーニングタイムを過ごす事ができた。
エマの部屋からは叫び声がこだましていた。
◇◇◇
〜 昼下がり 〜
私はその後、来客対応などの仕事を済ませ、昼食も済ませて自分の部屋へ戻った。
ドアを開けると、何かが落ちてきた!
『ゴトンッ!』
「きゃっ!」
…なんとドアの隙間から黒板消しが落ちてきた!
ただ、私には間一髪、当たらなかった。
なんとも古典的なやり口だが、これがエマの仕業なのは間違いなかった。
私はエマの事がむしろ心配になり、エマの部屋をのぞいた。
エマが居た。床に。
エマは、突如降ってきた天井に押しつぶされていた。
「た、たすけて……お兄ちゃん……。」
すると、マヌエルがやってきた。
「あ!マヌエル!エマさんが大変なことに…!」
いつものマヌエルなら、おそらく血相を変えて医者を呼ぶだろう。
だが、マヌエルはこう言った。
「へえー!やっぱり100人が一斉にジャンプしたら床って抜けるんだあ!」
エマの上の部屋で、100人が一斉にジャンプしたらしい。
「それでは皆様、母国にお帰り下さい。」
マヌエルがそう言うと、頭にちょんまげを乗せた、100キロは超えているであろう半裸の男性達が極東の国へと帰っていった。
「エマ、床、直しとけよ。」
そう言うと、マヌエルは私の手を取り、ハーブを摘みに行こうと言った。
(これ、エマの嫌がらせが終わるまで続くんだよね…)
◇◇◇
〜 夕食 〜
夜になった。
みんな、夕食の為にダイニングルームへ集まった。
そこにはエマも居た。
ただ、エマの身体はすでに包帯だらけだった。
食事の最中も、なんだか大人しい。
ただ、不気味な笑みを浮かべながらこちらをチラチラ見てくる。
(一体なんなのかしら……)
そして、私はスープを手元へ寄せた。
…すると、スープに何かが浮かんでいるのに気がついた。
(え、ほこり?それに髪の毛?…そしてこの臭い…)
…おそらく、ぞうきんのしぼりかすが入れられている。
それを見たエマはこう言った。
「あら?マルティーナさん、スープを召し上がらないのかしら?せっかくシェフが作った料理なのに、アナタって失礼な人ねえ。オホホホホ…」
予想通り、エマの嫌がらせである!
(きっと何かが起きる!)
私がそう思った瞬間、部屋のドアが開いた!
『うい〜!今帰ったぞお〜!』
頭にネクタイを巻いて、手にお寿司をぶら下げた、ヨレヨレの背広姿の中年男が泥酔した様子で入ってきた!
「だ、だれよ!あなた!」
エマは当然動揺している!
するとおじさんはエマを見つけ、
『ほ〜ら母ちゃん、お土産だあ〜』
そういうと、手に持っているお寿司をエマに渡し、そしてエマに抱きついた!
「キャー!何してるのよ!」
エマは必死に抵抗する!
しかし、おじさんも負けじとエマにしがみ付く!
『いいじゃねえかよお〜、子供も寝てるんだしよお〜』
おじさんは何かよく分からない事を言っている!
「お兄ちゃーん!助けてー!それにお父さんお母さんも!」
エマは必死に肉親に助けを乞う!
…しかし、マヌエルとその両親は、ステーキをサイコロ状態にするのに必死で、エマとおじさんの事は完全無視だった!
最後におじさんは、
『あれれー?俺、家まちがえてたかなー?』
と気づいた。そして、
『カア〜〜〜……ペッ!』
と、タンを吐いた。
タンはなんと、エマのスープの中に入った!
「ギャアーーーー!」
エマの顔が青くなる!
すると、マヌエルが口を開いた。
「おい、エマ。さっき、せっかくシェフが作ったスープを飲まないのは失礼だとかなんとか言ってたよな?お前が飲んでねーじゃねえか。さっさと飲めよ。」
…エマは、おじさんのタンが浮いているスープに目をやると、そのまま気絶した。
そしてマヌエルは、
「そちらの方、家を間違えられたようですな。私共がご自宅までお送りしましょう。馬車をご用意しております。」
ニッコリと笑いながら紳士的におじさんと接していた。
そして、気絶して倒れているエマを足でどけていた。
(うーん、この魔法はさすがに副作用がつよすぎるか…。やっぱり、エマに改心してもらわないと終わりそうにないな…)
◇◇◇
私は夜、エマの部屋へと向かった。
エマが居た。顔色は青色を通り越して群青色だった。
「エマさん、ちょっといい?」
「…なによ」
エマはベッドに横たわったまま答えた。
「私は別に、貴女からお兄さんを奪った訳じゃないのよ。」
…エマは黙っている。
「マヌエルが、貴女の大切なお兄さんである事は変わらないし、関係性もこれからも変わらないわ。」
…エマの顔色は群青色からダークグレーへと変化していた。
「そして、私にとっても大切な夫になるの。だから私にとって貴女は、大切な夫の、大切な義妹になるの。」
…エマの顔色はダークグレーからビリジアンになっていた。
「だから、これからは、仲良くまでは考えなくてもいいから、お互いに自然体で過ごしましょ。」
私は笑顔を作りながら、エマに伝えた。
「……下がって。」
エマはこう呟いた。
私は、とりあえず部屋を出ることにした。
(少しでも伝わってたらいいんだけど…)
◇◇◇
〜 翌日 〜
朝起きて廊下を歩いていると、エマが向こうから歩いてきた。
何かしてくるかな?と思ったが、特に何もなくすれ違った。
(昨日の話が効果あったのかな?)
…それから食事中や来客中、皆で集まっている時も、特に何もしてくる事は無かった。
(…良かった。分かってくれたんだ。)
私は少し安心した。
マヌエルは魔法を使う以前にも、私とエマの関係を心配していたので、もう心配いらない旨をマヌエルに伝えようと思い、マヌエルの部屋へ行った。
…部屋の前に立つと、マヌエルが誰かと話をしているのが聞こえた。
(マヌエルが話してる相手は……エマ!?)
『………って事なの。マルティーナさんったらすごいひどいの。』
…よくよく聞いてると、ある事ない事、私の悪口を言っていた。エマは少しも分かってくれていなかった。
『……ねえ、お兄ちゃん、ひどいと思わない?』
エマがマヌエルに尋ねた。
『ひどいのはお前のツラだろ』
…どうやら『魔法』の効果はまだまだ絶賛発動中のようだった。
『マルティーナさんったら、玄関で私の脚を蹴ったの!』
『脚?大根と間違えたんだろ』
『それに、私の部屋に野猿をたくさん仕向けたの!』
『お前、混じってノミ取ってたじゃねーか』
『天井が落ちてきたのもマルティーナの仕業よ!』
『あれは俺だ。わざとやった』
『変なおじさんを家の中に入れた!』
『あれ、お前の彼氏じゃなかったのか?』
…エマの言葉は、ことごとくマヌエルに跳ね返されていた。
そして、エマはマヌエルからドロップキックで部屋を追い出された。
『ガチャッ!』
「……!」
エマと私は目が合った。
エマは私を『キッ!』と睨んだ。
すると、その睨んだ拍子に両目の眼球を捻挫し、手で両目を押さえながら自分の部屋へと戻っていった。
戻っている最中も、両目を押さえている為、柱に頭をぶつけまくっていた。
魔法は絶好調だった。
(……これはもう、エマに魔法の事を伝えないと終わらないな…)
…私は再び、エマの部屋を訪れる事にした。
◇◇◇
『コンコンコンッ!』
「だあれ?」
…エマは両目をタオルで冷やしている最中だった。
「私よ。マルティーナよ。」
「……!」
…エマは起き上がって何かをしようとした!
なので私は制止した!
「エマさん待って!私の話を聞いて!」
…そして私は、コトの経緯と『嫌がらせをすると天罰がくだる魔法』をかけた話をした。
「でも、それもこれも、エマさんが私を通せんぼしたり、部屋にゴミを投げ入れたり、黒板消しをドアにはさんだり、スープにぞうきんのしぼりかすを入れたり、マヌエルに嘘の告げ口をした事が原因なの!」
…私がひと通り話し終わると、エマは静かにつぶやいた。
「そう……そうだったのね……」
「エマさん、分かってくれた!?」
「……うん、わかった……。」
…そうして、エマは両目を冷やしているタオルを取って私の方を見た。
……その顔は般若のようだった。
「許さない……」
「えっ」
私は背筋が凍る思いをした。
「許さないぞーーー!マルティーナーーー!」
エマはガバッと立ち上がった!
「アンタの性格が悪い事は分かってたけど、そこまでひん曲がってるとは思わなかったわ!」
般若となったエマが怒り狂う!
「そんな嫌がらせをしてくるなら、私にも考えがあるわ!」
エマがそう叫ぶと、私に向かって手の平を向けた!
(嫌がらせしているのはアナタよ…!)
と思ったのも束の間!エマは魔法を唱えた!
『天罰と神の導きを!!』
なんと!エマは私に【嫌がらせをすると天罰がくだる魔法】を使った!
私とエマを黒い光が包む!
「驚いた?私もその魔法、使えるのよ!」
さすがに英才教育の家庭で育ってきたエマである。
私が1ヶ月かけて習得していたこの魔法をエマはすでに習得していた。
そして!
……!
………!
…………!
……………何も起こらない!
「え!?なんで!?なんで何も起きないの!?」
…それはそうである。何も嫌がらせが起きていなければ、魔法は発動しないのである。
「じゃあ私が直接、アンタに罰を与えるわ!」
エマは右手を振りかぶり、私を叩こうとした!
その時!
エマが振りあげた右手の上に、ボウリングの球が飛んできて直撃した!
「ぎゃああああああ!!」
骨が砕けるような鈍い音が鳴り響いた!
「な、なんでボウリングの球が…」
私が呆然としていると、向こうからお義父様がやってきた。
「いや〜すまんすまん、ボウリングでハッスルして、投げそこなってしまったよ。ははは。」
「アナタったら、いやぁねぇ。おほほほ。」
お義母様もやってきた。
ただ、右手を粉砕された娘には目もくれず、ボウリングの球だけ拾って、部屋を出ていこうとした。
すると、
「おっと、手がすべった。」
『ドスンッ!』
「ぎいやあああぁぁぁぁぁぁあああ!!」
ボウリングの球は、うずくまっていたエマの右手を再び直撃した!
「ハアッ!ハアッ!ハアッ!………!!」
エマは失神寸前である。
そんなエマに私は言った。
「…ねえ、エマさん。この魔法、二重にかかったって事は、効果も2倍なんじゃ……」
魔法をかけたとき、二人とも黒い光に包まれたのである。おそらく、どちらか一方でも嫌がらせをした時に、効果が発動するのは間違いなかった。
「じ、じゃあ何でアンタには何も起こらないのよ!」
…そりゃそうだと思ったが、それを言うとまたエマがえらい目に遭うのは目に見えていたので、私は何も言わなかった。
「くぅぅ……!」
エマは涙をハラハラと流しながら、お医者さんの元へと向かった。
◇◇◇
〜 次の日 〜
朝食の時、全員がダイニングルームに集まっていた。
エマは満身創痍で、食事も、もはや犬食いだった。
そんな中、お義父様が言った。
「そういえば、隣町の公爵が今夜、二人の結婚のために打ち上げ花火を準備してくれているそうだ。」
隣町の打ち上げ花火は、超特大玉で有名だった。
「隣町の山頂から打ち上げるらしいぞ。」
お義父様はニコニコしていた。
「へえ!それは楽しみだな!二人のことを祝ってくれるなんて、嬉しいよな!」
マヌエルも嬉しそうだった。
「ほんと!私、打ち上げ花火は見た事がないから凄く楽しみ!」
私もワクワクした。
「私達の結婚の時にも、当時の公爵が花火を上げてくれたわよねえ。なつかしいわぁ〜」
お義母様も、昔を思い出して遠い目をしていた。
みんなでワイワイと花火の話で盛り上がってる中、急にエマが立ち上がった!
私はビクッとしたが、エマは微妙な笑顔でこう言った。
「わ、わたし、用事を思いだしましたわ!少し出掛けますわ!」
するとエマは、満身創痍の中、ほふく前進でお城から出ていった。
しかし、家族はエマのことは目にもくれず、花火の話で盛り上がっていた。
(どこに行くんだろう……大丈夫かな……)
◇◇◇
そして夜になった。
お城のみんなは花火を見るためにバルコニーに集まった。
…ただ、そこにエマは居なかった。
「ワクワクするなあ!」
マヌエルが楽しそうに空を見上げる。
「ほんと、楽しみ!」
私も花火を心待ちにする。
「特大玉一発、キレイなんだよなあ」
ご両親も嬉しそう。
みんな、エマの存在を忘れたかのように、打ち上げ花火の時間を楽しみにしていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
一方エマは…。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
エマは隣町の山頂の花火の発射台を目指していた。
右手にたいまつ、左手につるはしを持っていた。
「花火なんか上げさすもんですか…!花火玉をこれで粉々にしてやるわ…!」
エマの目的は、結婚祝いの花火を上げさせない事だった。
「ハア…ハア……それにしても遠いわね。こっちで合ってるのかしら……」
街の中を誰にも気づかれないように、ほふく前進で進んでいた事がアダとなり、すっかり時間を食ってしまっていた。
それに辺りも暗くなり、不気味さが増してきていた。
それでもエマは、
「花火……花火……花火玉を砕いてやる……」
…不気味さはおかまいなく、花火の発射台を目指していた。
しかし、陽は沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。たいまつの弱々しい光だけが頼りだった。
そして……
「ハァ!ハァ!ハァ!……どこなのよ!発射台!」
元々満身創痍な上、ほふく前進で進み、今は発射台の山頂を目指している。
エマの体力は限界をむかえていた。
「あ、土管があるわ…。あそこで一休みしましょ…。」
エマは山頂付近で土管を見つけ、そこに腰を掛けた。
「……ホントに花火の発射台なんてあるのかしら…」
しかし、そのエマが腰を掛けた土管、それこそが超特大花火玉の発射台だったのである!
「たいまつもつるはしも、重いのよ…もう…」
そして、右手にたいまつを持つエマは、そのたいまつを地面に置いた。
しかし、置いた場所が悪かった!
ちょうど、超特大玉花火の導火線、まさにその真上だったのである!
導火線に火がついた!
ジリジリと導火線を火が走る!
「……ん?何の音?」
『ジリジリジリジリ……』
『シュボッ!』
花火玉に点火した!
そして!
『ヒューーーーーーーー』
花火玉が空中に上がる!
「ギエエェェェェェェェェェェエエ!!」
エマは超特大花火玉の上に乗ったまま、一緒に打ち上がっていた!
そして………
『ドオオオオオオオオオオオオオオン!!』
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!」
エマは超特大打ち上げ花火と共に夜空に咲いた!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『ドーン』
「うわあ〜!きれい!」
私は初めて見た打ち上げ花火に感動していた。
「たっまや〜!」
となりでマヌエルが声を掛ける。
「なにそれ?」
私が尋ねると、
「花火が打ち上がると、こうやって言うんだよ。」
マヌエルはニッコリと微笑みながら教えてくれた。
「これで、あとは二人の結婚式を待つのみだな。」
ご両親もご満悦の様子だった。
…結局、エマは結婚式まで帰って来なかった。結婚式からしばらく経っても帰って来ない。
ただ、マヌエルは、
「エマ?知らん。」
…まだ魔法は効いているようだった。
新婚生活は何かと忙しい。
そんな忙しい日々の中、私の中でも段々と、エマの記憶は薄れていった。
…しかし数ヶ月後、両手で杖を支え、ヨレヨレのドレス姿の女が、お城に戻ってくるのであった。
「……ハァ…ハァ……マルティーナ……許さない……!」
〜 おわり 〜
読んでいただきありがとうございます(^-^)
下にある☆☆☆☆☆から、作品への評価をタップいただけるとすごく嬉しいです!
[ブックマーク]もタップいただけると本当に嬉しいです!
どんな評価でも作品作りの参考にしますので、何卒よろしくお願いいたします(*^▽^*)