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真実水



 黄金の鏡の他にも珍しい商品はないか、と探す振りをした。『悪女』ならば、一つに拘らず多数を探す。ジルも分かっており、社交界やクレオンが思い込むレインリリーならこんな物が好きだろうと積極的に勧めてくれる。未だマーサと話しているクレオンの機嫌は普通に見える。このままさっさとアーラスと共に魔女の村へ帰ろう。ジルは勿論連れて帰る。本人の了承は得ている。久しく帰っていない家はどんな風になっているのか、誰かが定期的に掃除をしてくれれば綺麗なままだが……。こっそりと溜息を吐いたらジルが顔を覗き込んだ。


「どうしました?」

「え、ええ。自宅に帰ったら、先ずは掃除をしないとならないなって」

「魔法で掃除しないのですか?」

「自分の手で出来ることは極力自分でするようにしていたの。掃除もそう。魔法でやれば簡単ですぐ終わるけど、それだとつまらないでしょう?」

「掃除なら俺もお手伝いしますよ」

「庭師だったのに掃除も出来るの?」

「使用人と比べたら全然ですけど、実家で一般的な掃除の仕方くらいは教えられました」


 クリスティ伯爵家にいた頃から、先代庭師と共にジルは親切にしてくれた。庭師としての腕前は先代が太鼓判を押す程。故に、彼を解雇にしたエヴァは愚かだ。優秀な庭師を見つけるのは中々苦労するというのに。

 そろそろ戻りましょうか、と声を掛けた時「レインリリー」とクレオンの冷たい声に呼ばれ、何かと振り向いた。すると顔に冷たい水を掛けられた。突然過ぎて避ける間もなく、ジルがクレオンを責めるもレインリリーは手で制した。

 濡れた顔を袖で拭いクレオンを睨み上げた。


「どういうつもりですか?」

「マーサが面白い商品があると言ってね。『真実水』というらしい」

「『真実水』?」

「ああ。その者の本性を現すというらしい。お前の性根の悪い姿を見てやろうとな」


 マーサ扮するアーラスを一瞥した。やれやれと額に手を当てて呆れ半分、楽し気な気持ちが半分。口パクで「わしが作った」と言われ、だろうな、と呆れた。

 彼女が作ったという事は魔法道具。名前からして、何となく想像がつく。

 ふと、クレオンが静かになっと気付く。彼を見やると限界まで瞠目している。なんだろう? とジルを見やると彼は先程の黄金の鏡を持って来て、レインリリーの顔の前に出した。


「……」


『真実水』は掛けた相手の本性を現す。確かに本性だが、正確には正体になる。

 波打つ黄金の髪に長い睫毛に縁取られた黄金の瞳。美の女神が超絶な美を詰め込んだ絶世の美女の顔が映っていた。

 してやったりなアーラスに最初からこれが目的かと察し、後で文句を言ってやると決めた。


「な……え……」

「どうなさいましたクレオン様」

「あ、え、君、その姿」

「ああ、これですか。前世の私です」


 クレオンからしたら信じられないだろう。

 幼い頃、自分を助けてくれた相手が目の前にいて。その相手が『悪女』と蔑むレインリリーなのだから。


「な、なぜ、どうして」

「とある事件で人間に転生したのです」

「てんせい?」

「ええ。クレオン様、貴方の事は覚えていますわ。私が魔女メデイアだった時、森の魔獣に襲われかけていたところを助けた子供でしょう? 大きくなられて良かったですわ」

「あ、ああ……っ」


 しっかりと幼いクレオンを助けた話をしてやると突然クレオンは膝から崩れ落ちた。ギョッとするレインリリーの前で頭を抱え、後悔に満ち溢れた嘆きの声を発した。


「そ、そんな……! 僕がずっと探していた魔女が君だなんてっ」

「私の噂を信じている貴方からしたらショックでしょうね。私は三年もクレオン様と夫婦でいるつもりはありません」


 正体を知られたのは予定外だがこれはこれで使える。


「今日限りで出て行きます。離縁状は……私が勝手に出て行ったとでもしてください。ジル、行きましょう」

「はい! お嬢様!」


 正体を知っても変わらずお嬢様として接してくれるジル。

 たったそれだけの事なのに心が擽ったい。


「ま、待ってくれ!」


 ジルを連れて出て行こうとしたレインリリーの前を立ち上がったクレオンが阻んだ。


「僕はずっと貴女を探していた! 貴女に会う事だけを目標にしていた」

「元気そうで良かった。他の方と再婚して幸せに」


 クレオンはその場で跪き、胸に手を当ててレインリリーを見上げた。


「お願いです、どうか僕にやり直しの機会をください」



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