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ふざけた食事

 

 

「っ……!?」

「お嬢様?」


 今後の事を話し合おうと部屋にジルを呼び、早速話を始めようという時に背中から頭を強烈な悪寒が走った。風邪を引いた訳でもない悪寒が嫌な予感を齎す。怪訝にするジルを誤魔化し、気を取り直し本題に入った。


「ジルが用意された部屋はどう?」

「普通の使用人部屋って感じです。俺よりもお嬢様です! 公爵夫人として嫁いだお嬢様にこんな……」

「良いのよ、却って気が楽で」


 元より三年の白い結婚を遂行する気は更々ない。


「話をする前に聞きたいの。ジルは魔女を知ってる?」

「ええ。御伽噺の世界の人だと俺は考えています」


 人間で実際に魔女と出会えた人は極僅か。姿を見ただけの人すら少ない。


「その魔女が私だって言ったらどうする?」

「え?」


 きょとんと首を傾げたジルに笑みを見せ、証拠を見せると言って足元を黄金の光を浮かばせた。驚くジルに「見てて」と自分を見るよう言い、次第に姿を変えるレインリリーを瞠目した。亜麻色の真っ直ぐな髪と藤色の瞳の女性の姿から、波打つ黄金の髪と長い睫毛に縁取られた黄金の瞳を持った女性に変貌した。言葉を無くすジルを微笑ましい表情で見やるレインリリー。


「びっくりした?」

「え、ええ? どういう事ですか? 俺が知っているお嬢様は……」


 驚き過ぎて目の前の情報を頭が処理しきれず、ジルが見てきたレインリリーと目の前にいるレインリリーが同一人物という認識がされていない。ジルを落ち着かせたところで事情を話した。

 親友の大魔女アーラスによる渾身のドッキリは伏せ、自分の不手際で転生魔法を自分に掛けてしまって人間になり、クリスティ伯爵家にもノーバート公爵家にも未練がないから魔女の村に帰りたい。が、それには親友と連絡を取る必要があり、その為に魔女の鏡が必須なんだと話した。


「お嬢様が鏡を欲するのはそういう事だったのですか」

「ええ、人間の世界から魔女の村に帰るには、魔女の手助けが必要なの」

「分かりました! 任せてください! 俺の実家の花屋には商人も多くいらっしゃるので変わった鏡がないか探してもらいます」

「ありがとう」

「鏡を見つけたらお嬢様は帰ってしまわれるのですよね……」

「ええ。ジル、そこで相談なんだけど、貴方さえ良ければ私と魔女の村に行かない?」

「お嬢様と……?」

「勿論、無理にとは言わない。一度魔女の村に行ったら、中々ご実家へは帰れなくなるから、よく考えてみて」


 稀に魔女と両想いとなった人間が村に移住するから、村には少数だが人間はいる。長寿の魔女と寿命の差はあるが、皆仲睦まじく暮らし、子供がいる家庭もある。

 ジルに強制はしない。母が亡くなり、親しかった人達が次々に解雇されていく中、家令が粘って残してくれた大事な人だ。庭の花壇で土いじりをするジルを眺めているのが好きで、ノーバート家へ従者として一緒にいるのも何かの縁。ジルが拒否するなら寂しいが一人で帰る。


 そろそろ元の姿に戻ろうか、と手を上げたレインリリー。その手をジルは握った。


「お嬢様! 是非、俺も連れて行ってください!」

「決めるのは早くない? もっと慎重に考えても良いのよ?」

「二度と実家に帰れなくなる事はないと先程言っていたではありませんか。年に一度か二度、両親の顔を見られれば十分です」

「ジルが良いと言うのなら分かったわ」


 即決に近い決断に吃驚しつつも、これからも一緒にいてくれると決めたジルに感謝した。


 魔女の姿から元のレインリリーの姿に戻った。ジルに明日実家に戻り、常連の商人に鏡の情報を聞き出してほしいと頼み、レインリリーはお客様らしく大人しく過ごす。未だにお客様扱いをされるレインリリーに悲しみ、クレオンやノーバート家の使用人達に憤るジルを落ち着かせた。


 代わりの世話係を寄越すと言っていたが来る気配がない。クレオンに命じられても気持ち的には仕えたくないのが本心で、本心に従ったのだろうという考えに至った。来なくても困らないのでこのままにしておく。


 


 


 結局、世話係は来ず。来たところで最初に来たアリサとどうせ変わらないだろうとレインリリーはそろそろ夕食の時間かと時計を確認、自分で着替えられるドレスに着替えるとノックをされて返事をした。入室したのは大人し気な少女。


「お客様を食堂へご案内します」

「ありがとう」


 お客様呼ばわりは変わらずでもアリサと比べると遥かにマシ。


「あの、着替えは……」

「自分でやったわ。お気遣いありがとう」

「……すみません」


 嫌味だと思われただろうか、俯き謝る彼女にどう声を掛ければ良いか分からず、取り敢えず食堂へ案内してもらった。書類上夫のクレオンとかなり距離がある席に座らされると料理が置かれていく。ステーキとサラダ、スープ、パン、飲み物。全て置かれてもレインリリーは固まってナイフとフォークを持てずにいた。既に食事を始めているクレオンが顔を顰め、食すよう促してくる。


 これをどう食べろと……


 ステーキは真っ黒でソースからは異臭がし、サラダはドレッシングで腐りを誤魔化し、スープの水面には大量の胡椒が掛けられ、飲み物の色は薄い灰色。距離が離れたクレオンには見えないからこそ、料理に悪意を盛り付けた。料理人のする事じゃない。恥を知れと罵りたい。ジルが心配になってくるも、食べる姿勢を見せないままでいればクレオンはうるさくなる。食べられはしないと壁に立つ使用人達は薄ら笑いを浮かべている。クレオンの側に控える執事も然り。


 食事は一日の楽しみだとメデイアの時から大好きで、それを汚されれば黙ってはいられない。食べないと高を括る使用人達はナイフで豪快にステーキを切り始めたレインリリーにギョッとした。大きめに切ったステーキをフォークに刺し、態と音を立てて食べだした。目に余る動作にクレオンが耐え切れなくなり勢いよく立ち上がった瞬間、皿を両手に持ちクレオンの許へ大股で行き皿を叩きつけた。


「なんですかこのふざけた料理は!!」

「な、なにを……あ」


 突然の行動に勢いを無くしたクレオンはレインリリーが持ってきたステーキ皿を見て言葉を失った。全体的に真っ黒に焼かれ、異臭がするソースが掛けられたステーキ。呆然として使用人達を見ると俯くか顔を青く染めている者しかいない。


「こんなゴミ以下の食事を食べろだなんて、ノーバート公爵家はとても変わった食事をなさるのですね」

「いや、これは」

「食べろと叱られたので一口食べましたが見目通りの味です。これなら、街で食べる方が遥かにマシです。ジルを連れて食事をしてきます」

「ま、待て」


 呼び止めるクレオンを無視し、早足で部屋を出てジルがいる使用人部屋へ行き、彼を連れ街の料理屋に向かった。途中、執事や門番から引き止められるも命と同等に大切な食事を疎かに出来ないと一蹴し、ジルを連れ出した。


 食事の件を聞いたジルがとても憤慨するも「心残りがどんどん消えていって嬉しいって事にするわ」と苦笑するレインリリーだった。


 


 


 

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