ショート劇場「僕は綿飴が嫌いだ、だが彼女は好きらしい。」
僕は綿飴が嫌いだ。
あんなものは砂糖の塊。甘いだけで大して美味しくもない。
あとベタベタするし、大きく見えるが、水に濡らせば縮んで如何に貧素な物か分かる。あんな物に100円以上払うことに嫌悪感すら覚える。
だから、喫茶店にて彼女が綿飴が好きと言ったのが信じられなかった。
僕には勿体無いぐらいの素晴らしい彼女。理知的でクールで黒髪ロングの髪はサラサラでスタイルもいい。
そんな彼女が綿飴のことを好いているなんて、にわかには信じられない。
「どうして綿飴なんか好きなの?」
思わず『なんか』と言ってしまった。好きな人にとっては侮辱に当たるかもしれない。だが、彼女はそんなこと気にも留めてない様でニコニコ笑っている。
「モコモコしてて、雲みたいじゃない?あのフォルムが好きなの。羊みたいで可愛い。」
何とも子供っぽい理由だが、可愛い。可愛いからもうそれでいいと思えてしまう。
「君は綿飴が嫌いなの?」
僕の目を覗き込みながら彼女はそう問うてきた。その大きな宝石のような瞳で見つめられたら、正直に答えるしかない。
「う、うん、嫌いなんだ。何かチープじゃない。」
「ふむ、君の言い分も一理あるね。」
僕の意見を否定するわけでもなく、ウンウンと頷く彼女。決して否定から入らないところが柔軟で、彼女の溢れんばかりの知性が伺える。
「だが、こうも思えないか?人間が雲みたいなお菓子を作ろうとして、トライアンドエラーを繰り返して、あの形を作り上げた。確かに綿飴は子供騙しのチープなお菓子かもしれないが、アレはアレで人類の英知の結晶だと私は考えるよ。それに人が雲を作り上げるなんて夢があっていいじゃないか。」
綿飴だけでこんな風に論じられる彼女が素晴らしい。それに対して僕は、浅い考えで綿飴を否定することしかしなかった。あまりに閉鎖的で恥ずべき考えだったかもしれない。
「ごめん。」
「何を謝る必要がある?人によって考え方が違うのは当たり前のことだよ。まぁでもコレを期に君が少しでも綿飴のことを見直してくれたら私は嬉しいよ。」
彼女と話すたびに僕は自分の考え方の枠を外されていき、少しだけ賢くなった様に感じるから不思議だ。話すことが楽しくて仕方ない。
「そうだ、今度、港の方で夏祭りがあるらしいよ。丁度いいからそこで綿飴を一緒に食べようか。」
やられた。僕の方から誘おうと思っていたのにな。彼女がイタズラっ子っぽく笑っているので、それを見越して話してきたのかもしれない。全く敵わないな。
「私の浴衣楽しみかい?」
笑みを絶やさずに、そう聞いてきた彼女。僕は困ったように2回頷いた。