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古くからの旅行者

 交流会の会場には十数人が集められていた。こんなにいるのかと驚いたが、どうやら中には旅行者として長くこのレジスタンスに所属しているものもいるそうだ。つまり先輩との交流会も兼ねているということである。


 「なぁ、あんたもこの世界に飛ばさせた組かい。」


 おずおずとした態度で中年男性が俺に話しかけてきた。そうだと俺は答える。


 「わけがわからねぇよな、男に人権がない?女たちに強姦される?最高じゃねぇか……こいつらおかしいよ……。」


 なるほどネントが嫌悪感を抱くのも当然の話かもしれない。もっとも男ならこれといって不思議な話でもない。俺だって、外であんな経験をしなければ、彼に同調していたかもしれない。


 「皆さん、初めまして。すでに説明を受けたかもしれませんが、この世界はいわゆる異世界で、あなた方はそんな世界に来たもの、旅行者と言われています。私自身も旅行者なので皆さんの気持ちはわかります。ですが考えを改めてください。この世界では、あなた方の世界とはまったく逆転しているのです。いや、それはもっとひどい方向になっている。」


 壇上に上がり挨拶をしているのは旅行者でもあるらしく名前をカイナと言うらしい。彼もまたこの世界に来て、多くの悲劇を体感したというのだ。


 「あんたも旅行者なら分かるだろ、女なんか男には敵わないし、馬鹿なんだから適当に調子あわせりゃ良いだろ。この世界の男どもは女の扱い方も知らねぇんじゃねぇのか。」


 先ほどの中年が声をあげた。その言葉にカイナは冷静に答える。


 「それは私たちがいた世界での常識です。男と女に体格の違いがあるのは事実です。ですがそれは古い考えです。私たちの世界でも男女格差を埋める道具はあったはずです。闘争におけるならば例えば武器をもった女性に丸腰のあなたは勝てますか?」

 「馬鹿だねあんた、そもそも戦う必要がないって言いたいんだよ。女なんてのはな、さっきも言ったが馬鹿なんだから口八丁で誤魔化せばいいんだよ。」


 まるで聞く耳を持たない中年にカイナは平然とした顔で受け止めていた。きっとこういうのは何度もあったのだろう。


 「俺もそのおっさんの意見に賛成っすねぇ、あ、俺は銀座でホストやってたんだけどさぁ、刺されるホストって結構いるよ?でもそれって三流なんだよね、女なんて甘い言葉を適当にかけとけばいいんだよ、あんたたちに女の扱い方レクチャーしてあげようか?」


 下品な笑い声で中年とホストは笑う。他の旅行者も彼らの言葉に感化されたのか確かにそうかも……という声があがりはじめる。


 「皆さん、落ち着いてください。元の世界であなた方が女性に対してどう接していたかはわかりませんが、この世界では男に人権はない。それは事実なのです。わかりますか、人権がないという意味が。生存権すら保障されていないのです。女性がその気になれば皆さんを殺害することも女性たちは可能なのです。そしてその逆はできません。」

 「そのときは俺の空手をお見舞いするぞ!女なんて適当に殴れば何もできなくなるだろ!」


 会場で笑いが巻き起こる。もう収拾がつかない。カイナは静かに!静かに!と注意しても誰も聞かない。


 「あー交流会は一時中断する。全員解散してくれ。」


 ライドは無理やり交流会を終わらせた。俺は一人会場に残り、後片付けを手伝う。


 「すいません、えーっとタスクくんだっけか?外の世界を知っているんだっけ?やはり現実を知ったほうがいいのかな……。」


 カイナは落ち込んだ様子だった。彼がこの交流会に参加したのは完全に善意からだろう。同郷のものが地獄を見ないように。


 「いつもあんな感じなんですか?」

 「いや、今日のは特にひどい方だな。たまにいるんだよ、女性軽視してる奴ら。ホスト?とかいったか。あれも不味いよな、なんか聞く話だと男娼みたいだが、なんであんな女に対して強気にでられるんだ?」


 旅行者ではないライドにとっては彼らの態度が信じられないらしい。文化の違い……にしてはあまりにも隔たりが大きすぎる。


 「旅行者がいた世界はきっと素晴らしい世界なんでしょうね、もっともその感覚をこっちに持ち込んでもらわないでほしいですけど。」


 片付けに参加したネントは愚痴る。彼がこの交流会に同席していないのは察しがついた。きっと今日のような場にいたら、怒り狂っていたかもしれない。


 「でもタスクさんは少し見直しました、聞きましたよ、一人流されずカイナさんの話をちゃんと真面目に聞いていたんでしょう?皆があなたのような人だと良いんですけどね。」


 俺の方を向いてネントはそう答えた。どうやら彼からある程度の信頼は得られたらしい。年も近そうだし仲良くしておくことに越したことはない。


 「そういやよぉ、タスクはいくつなんだ?多分ネントに続いて最年少じゃねぇのか?」


 俺は17と答えた。ネントの年は13らしい。


 「若いのが増えるのはいいことだよ、年寄りが増えるとどうしても後ろ向きになってしまうから。」


 カイナは寂しげにそう答えた。彼も旅行者で、長くこの世界にいるということはもう元の世界に戻れないことを意味しているのだ。だからだろう、年を取り、郷愁に焦がれ昔を懐かしみ、元の世界に戻りたいという思いが強くなるのだ。だがそれは叶わない。そんな事実が彼を後ろ向きにさせ、新しい旅行者をどうにか女性の毒牙にかからないようにするのが、唯一の生き甲斐なのかもしれない。

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