表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

産まれながらの奴隷

 朝だ。見慣れぬ景色に若干戸惑うが俺は外泊をしていたんだ。旅行者用住宅……だったか?タンスを開けると着替え一式がご丁寧に用意されてあるし、冷蔵庫の中には保存食が詰まっていた。俺はそれをソファに座り込んで食べる。テレビでも見ながら……といきたかったが、流石にそんな贅沢品まではないようだ。さて、これからどうしようか……状況がさっぱり分からないが、言葉は通じるし手厚い補助も貰えた。しばらくは困らない。ならとりあえず、この壊れたスマホをどうにかしよう。机を見ると紙の地図に近場の店が書いてある。飲食店やスーパー、家電量販店やら必需品はここで買えということだ。

 俺は家を出て家電量販店に向かうことにした。スマホを新しく買おう。玄関を出ると何人かの女性が俺の家の前にいた。俺の姿を確認するとまるで逃げるように距離をとる。しかし視線は俺から離れない。何なんだあいつらは……。旅行者用住宅として確か近所に周知しているとスーツの人は言っていたから、物珍しさに見に来たのだろうか。だが……ずっとついてくるのはどうなんだ?

 ついてくる女性たちを無視して家電量販店についた。スマホコーナーはやはり盛り上がっていてのぼりを立てて新規契約キャンペーンをしている。こういうのは一番安いのを選べばタダ同然で手に入るはずだ。早速俺は店員に話しかけて契約の段取りを進めた。


 「あーお客さん一人ですか?ちょっと男性の方一人には難しいんですよね。」


 いきなり出鼻をくじかれた。男性一人だと駄目なのか?連帯保証人のようなものがいるとかいうのはまぁ確かに分からなくもないが。


 「ほら、男の人ってこういうの分からないでしょ?あとで文句言われるの困るんですよ、それに未成年だから経済的不安もありますし、彼女さんや親御さんと一緒に来てくださいよ。」


 酷い偏見だが食いかかっても仕方がない。他のキャリアに声をかけよう。

 結論から言うと全滅だった。男一人では信用できないらしい。俺はまだ働き盛りの若者だというのに、なんて酷い話なんだ……。しかし親と連絡がつかないのは痛い。家の電話番号を覚えていないのだ。連絡帳に登録してたからな。いやしかし、そもそも親と連絡がつくのか?そんな不安も残る。

 途方に暮れていた。意味もなく喫茶店でぼけーっとしていた。そういえば明日から日曜日が終わり学校だ。学校……俺のいた学校はなくて、あった場所は別の建物になっていた。

 時計を見る。とりあえずバイトの求人誌があったので、仕事を探そう。読むと男性歓迎とばかり書いてあって逆に気持ち悪かった。そもそも働くのに性別なんて関係ないんじゃないのか……?力仕事なら分からなくもないが、事務とかそういうのにも書いてある。変な話だが近場で条件の良さそうなところをめくる。気がつくと、もう三時になりそうだ。コーヒーは尿意が近くなって仕方ない。俺は一度席を立ち、男子トイレへと向かった。


 「ふぅ……結局良さそうなのなかったな。」


 呟きながら鏡を見るとスタンプが消えていた。24時間後に消えると言っていたな。そして気が付いた。そうか、みんなこのスタンプが気になっていたのか。滑稽な話だ。顔にこんなものを付けてたら誰だって気になる。俺は失笑し、男子トイレから出ようとドアを開けると開けた瞬間、突然女性が飛びかかってきた。


 「うぉ!!?」


 俺は間一髪で身体を翻し、それを躱す。一体何なのだ。強盗か何かか?そのまま女性は地面に倒れた。少し心配だったが、そうは言ってられない。だって後続がやってきたんだから。このままトイレの個室では逃げ場がない。俺は二人目を回避したあと、大挙している女性たちをかいくぐり、自席のカバンを回収した。


 「すいません店員さん!お釣りはいらないです!!」


 財布から千円札を投げて俺は走り去った。


 「はぁはぁ……なんなんだ一体!!」


 後ろを振り向くと女性たちが追いかけてくる。あれだ、ゾンビ映画を思い出すな。そんなことを思ってると、通行人も襲いかかってきた。


 「ちょ、なんなんだよあんたら!」


 俺は走る、走る、走る。目に見える女性たち全てが俺を襲ってくるのでなるべく人気のないところを選んだ。だがそれでもしつこく追いかけてくるのだ。これでは体力の限界が近い。だがもう少しで家だ。家に帰りさえすれば、彼女たちも諦めるだろう。あの角を曲がれば見えるはずだ。


 「な、なんだよこれ……。」


 黒煙が立ち上っていた。女たちの怒声が聞こえる。探せ、探せという声が聞こえる。俺の家が燃やされていた。近所の人たちの手によって。呆然と立ち尽くす俺の姿を一人の女性が見つける。いたぞ!という声とともにこちらへ駆け出してきた。俺はただ、ひたすら逃げ回るしかなかった。しかしどこに……?とにかく人通りを避けた。人気のない裏通り……だが全ては無駄だった。突然何かに引っ掛かって転んでしまう。そしていつの間に潜んでいたのか、複数の女性に取り囲まれてしまった。


 「旅行者ってのは警戒心がまったくないってのは本当なんだな、へへ……あんな堂々と誘惑するような格好して街中を歩いてたら、何をされても文句はいえないよなぁ?」


 彼女たちは不良グループだろう。柄の悪そうでだらしのない格好からそれは明白だ。俺は両手両足を掴まれ身動きがとれない状態となる。リーダー格と思われる女性が前に出て俺に馬乗りになる。


 「めんどくせえからよ、叫んだりするんじゃねぇぞ?まぁ誰も助けなんてこないけどな。」


 ……いやよくわからないが今の状況、ただの役得ではないか?馬乗りになっている女性を見つめる。俺と同じくらいの年だ。そんな女性が俺に跨がり馬乗りになっている。助けとは、一体何に対するものなのか。

 そんな俺の思いとは裏腹に女性は俺のズボンを下ろそうとするが手つきがぎこちない。おそらく男物の服をそんなにさわったことがないのだろう。ようやくチャックを見つけたのか心底嬉しそうな顔でチャックに手をかけるその瞬間だった。周りの女性たちの悲鳴が聞こえた。一体何事だとリーダー格の女性は周囲を見渡す。突然壁を壊してジープが乱入してきた。


 「探したぞ!早くここから逃げるぞ!」


 俺の手を無理やり掴み助手席に引っ張り込む。彼は確かあのとき出会ったライドと名乗る男だ。後ろを振り向くと、先ほどの女性が待ちやがれと鬼の形相で叫んでいた。

 そのままの勢いで大通りに出る。大勢の女性がいた。


 「いたぞ!増えてるわ!」


 女性の一人が車の前に立った。だがライドはスピードを緩めない、むしろ加速させた。女性は跳ね飛ばされ、吹き飛ぶ。それを俺はただ眺めることしかできなかった。


 「あんた達、頭がおかしいんじゃないのか!?ひ、人が死んだんじゃないのか、今のは!!」

 「お前、旅行者なんだってな……なら無理はねぇが、おかしいとは思わなかったのか?あんな目になってまでなお、あんなにも多くの女たちに襲われて。」


 ライドは俺を落ち着かせるようにゆっくりと、だがはっきりとした口調で俺を諭した。おかしいと思わなかったか……だと?おかしいことだらけだ、さっきのこともあんたたちも。何で俺がこんな目に遭わなくてはならないんだ。


 「俺は旅行者じゃないから分からないがよ、なんで旅行者ってのは皆、強姦されそうになってなお、女どもを庇おうとするんだ?分かってんのか、お前あのままだと、あそこにいる女全員にまわされて、尊厳なんて壊されてたんだぞ。それだけで済めばいい、あのままあのチンピラどものペットにされてたっておかしくない。」


 言われてはっとした。確かにあの場であの女性の相手だけで済むという確証はなかった。あのまま全員の相手をさせられ、それだけで満足しなかったら連れ去られ監禁、自由を奪われた上で殴る蹴るなどの暴力も与えられていたのかもしれない。


 「で、でもなんでこんな、こんなこと、俺は普通の男だぞ!?」

 「だから隊長も言っていたじゃねぇか、俺たち男に人権はない。捕まったら最後、女の奴隷さ。」

 そう呟いたライドからは静かな怒りを感じた。

 「あぁ、くそっ……そりゃあ来るよな。」


 ヘリコプターの音がする。上空を見るとヘリが俺たちを追いかけていた。大勢の車やバイクも俺たちを追いかけていた。


 「旅行者の若者、そりゃあどいつも必死になって捕まえようとするんだろうな。」

 「さっきから、その旅行者ってのはなんなんだ、俺のことなのは分かるけど、旅行者がそんな価値があるのか!」

 「あぁあるとも!お前たち旅行者はどこからともなく現れる、この世界の常識を知らない……女に対して警戒感も持たず、むしろ自分からすり寄ってくる、女にとって都合のいい連中だからな!!」


 ライドの言葉でようやく、理解したくないが分かってしまった。隊長たちは皆、正気だった。俺はこの世界に何らかの理由で現れてしまったのだ。この男女の立場が逆転した世界に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ