目を覚ますとそこは戦場だった
男女平等なんて大嘘だ。
俺は今、初夏の日差しを感じながら、蒸し蒸しとした暑さをこらえて映画館にいる。前々からテレビやSNSで話題の映画だ。学校でも話題になってたし、俺は当然観に行くのだ。だが映画館は人混みで溢れかえっている。それでも俺が並ぼうとしたら今日はレディースディで男は後回しらしい。仕方なく、俺は近くの喫茶店に寄った。こうなれば砂糖たっぷりのスイーツをやけ食いだ。俺は早速そいつを注文するのだが……男性はお断りらしい!許せぬ、何がいけないのだ。もっと弱者男性を優遇しろ!
そんなことを思いながら、電車に乗りマイホームへと向かう。だが失敗した、ここは女性専用車両だ!しかもいつもと違って混雑している。気づいたときには遅く、更に後続からたくさん人が入ってくる。視線が凄く痛い、だが他の車両へは動けないのだ。だって満員なんだから。
「ちょっと!あんた男でしょ!なんでここにいるのよ!」
女が金切り声をあげて抗議してきた。うるせぇ俺だって好きで乗っていないんだ。だというのにしぶとく声をあげるもんだから、俺はそそくさと無理やり退散しようとした。
「痴漢!痴漢よその男!私から逃げて他の女を狙っているわ!」
なんて冤罪だ、乗客全員に睨まれる。早く退散しなくちゃ……俺は逃げるように連結部へと向かった。助かった、これで……ん?
連結部を抜けた先は何もなかった。あるのはただの暗黒、勢いよく飛び出た俺は為す術もなく暗闇に落ちていった。
気づくとベッドの上だった。意識の目覚めた俺に気づいたのか男が嬉しそうな顔でこちらを見た。
「起きたか!運が良かったなぁ、お前。おい皆!倒れてた奴が目を覚ましたぞ!!」
ぞろぞろと男たちが出てきた。一体ここはどこだろうか。見た感じ病院というより……避難所みたいだ。
「本当に運が良かった。まだ意識のない奴もいるんだが、もう待てない。行くぞ、俺たちについてこい。」
訳のわからないまま男に連れ出される。外を見ると、そこは廃墟だった。瓦礫の山、崩れかけた高層ビル……何なんだよこれは。
「隊長早く!そいつを連れて行きましょう、もう連中は目の前にいます!!」
見た感じまだ幼いであろう少年が俺たちに合図をする。隊長と呼ばれた男は走れるか?と俺に問いかけた。運動能力は問題ない。無言で頷き少年のもとへ隊長と駆け出す。そこにはジープトラックがあった。
「全員揃いました!出発お願いします!!」
「了解、飛ばすから気をつけろよ!!」
トラックは瓦礫の山を駆け抜ける。猛スピードで。
「何なんですか一体!どこに行くというのですか!?」
「後で説明する、それよりも使い方は分かるか?」
隊長はライフルを俺に渡した。重量感から本物だなと本物を知らないのに勝手に思った。
「使ったこと無い!どうしろっていうんだ!」
「簡単だ!そいつをただ目標に向けて引き続けろ!誤射だけはすんなよ!!」
目標ってなに───そう言いかけた瞬間、それは分かった。俺たちを追いかけてくるジープトラックだ。それも何台もある。いや、あれはトラックというより装甲車……。
「飛ばせ来斗!俺たちのことは気にすんな!!」
そう言いながら隊長と少年はライフルを構えて追手を射撃する。
「なにしてるんですか!あなたも早く撃ってください!!」
少年に急かされて俺もライフルを構えて撃つ。要領が全然分からない!だがひたすら撃ち続けた。
「大人しく、抵抗はやめなさい。射撃をやめなさい。投降すれば命だけは補償します。」
拡声器から俺たちの投降を促す声が聞こえた。
「はっ!命だけは補償だとよ!逆だろ、命のある俺たちが目当てのくせしてよ!!」
ライドと呼ばれた男はその警告に皮肉を返した、隊長や少年もそれに同調する。
「君!わけがわからないだろうが、あの声には耳を貸すな!安心しろ!君の安全は必ず我々が補償する!!」
隊長は叫ぶ。だがその瞬間、装甲車から大砲のようなものが出てきた。
「ミサイルだライド!!やべぇぞ何とかしろ!!!」
「無茶振りだろ隊長!!!」
発射されたミサイルがトラックの近くに着弾する。強い振動でガタガタと車体が揺れた。
「次は当てます。投降しなさい、あなた達を傷つけたくはない。」
それは慈悲の声だった。俺たちを本気で思っている、助けたいと思っている声だった。
「なぁ!投降したほうがいいんじゃないか!このままだと殺される!!」
俺は我慢の限界になって叫んだ。
「馬鹿野郎!!奴らが傷つけたくないと言っているのは奴ら自身のためだ!!傷物は商品価値が落ちるからな!!死んだほうがマシだと思う地獄が待ってるだけだ!!」
構わずライフルを隊長たちは撃ち続ける。だがこんなもの、いずれは終わるじゃないか、命あってのものじゃないのか。俺がそう思った矢先だった。
「見えたぞ!目的地だ!!」
ライドが嬉々として叫ぶ。だがその瞬間ミサイルが発射された。発射先は俺たちの先行、地面が崩れる。
「やべぇやべぇぞ!ライド飛べ!!」
「飛べねぇよ馬鹿ぁ!全員伏せろ!!運が良けりゃまた話そうぜ!!」
車は奈落に落ちていく。俺たちは重力に従い落下して、そのまま地下深くへと落ちていった。地面が見えた、そこは地面というか……地底湖だ。大きな音を立てて、俺たちは車ごと湖に突っ込んだ。
「はぁはぁ……全員……生きてるか……。」
荷台に置かれていた荷物を掴んで必死にもがく。
「新入り……大変かもしれないが、とりあえずこの湖からあがるぞ……ほら、あそこだ……。」
隊長は焚き火を用意してくれた。焚き火の周りで服を乾かしながら円陣となる。
「なぁもう良いだろ、なんなんだあいつらは、そしてあんた達は何者なんだ。」
「俺たちは……レジスタンスだ。そしてあいつらは……女だよ。」
みんなは黙り込んだ。神妙な顔つきで。そうかレジスタンス……いやそれは分かった。今、なんと言った?女?女って?
「改めて自己紹介をしよう、俺は大理。この部隊の隊長だ。」
「とりあえずは安心だな、俺は来斗、隊長はこう見えて女から何人もの男を救った英雄なんだぜ?」
「僕は年都と言います。隊長がいれば安心ですよ。」
各々が女性との戦いを自慢話のように語り合っていたが、意味がわからない。何故そんな話を……?
「あぁすまん。最初から説明するべきだな。端的に言おう。この社会で俺たち男の人権はない。男とは全て女に奉仕をするために産まれてきたもので、女は男に何をしても許される。先程の連中は俺たちを生け捕りにし、どこかの変態にでも売りつけようとしたのさ。」
───何を言っているんだ?真剣に話をしている人たちを見てそう思った。正気ではないのか?きっと頭をうって現実と想像の区別がつかなくなったのだ。ここまで色々としてくれた辺り、根は良い人たちなのだろう。だが……頭のおかしい連中と一緒にいて、巻き込まれるのはごめんだ。俺はこっそりと談笑している彼らの目を盗んで走り去った。
落ちた地下空間……それはよく見回すとドームのようだった。上を見ると建造物らしきものが見えて、きっとここは昔コンサートなどをしていた廃墟なのだろう。あれだけ派手な音を立てたのだ。きっと警察や救急隊が来るに違いない。俺は人や出口を探した。ここが地下廃墟なら上に向かう階段やエレベーターがあるはずだ。しばらく歩くと、突然大きな音がした。音の方向に向かうと、そこには女性が腰をさすって苦しんでいた。
「いたた……着地に失敗しちゃった。けど本当にこんなところにいるのかな?」
彼女はごつい作業着のようなものを着ていた。だが熱が籠もるのか上半身は着崩して肌を露出させてるので下着が見える。恐らく周りに誰もいないからなのだろう。声をかけるのが偲ばれるが、そうも言っていられない。
「おーい、こっちだこっち助けてくれ。」
俺は女性に手を振り声をかけると、女性は驚いたように振り向き俺を見て、駆け寄り両肩を掴む。
「え!本当にいた!ま、幻じゃないよね、あるいは男装してるとか。」
そして俺の身体をボディチェックのように弄り、確認をした。
「ちょっと強盗に襲われてこんなところまで逃げてきたんです、助けに来てくれた人ですか?」
俺のその言葉に彼女は少し返答を詰まらせたが、やがて口を開いた。
「に、似たようなものかな。そ、それより……少しくらい良いよね……。」
突然、音がした。彼女がいた場所の近くだ。続々と女性たちが来た。
「む、見つけたのか。早かったじゃないか。こんな部隊を組む必要は無かったな。」
リーダー格と思わしき女性が声をかける。そして俺を抱き寄せた。
「すまなかったな、もう大丈夫だ。さぁ戻ろう、私たちの街へ。」
レスキュー隊が女性ばかりなんて珍しいこともあるもんだなと思ったが、それは納得だった。帰りの道は狭い通気孔のようなもので、体格的に小さい女性しか難しかったのだろう。レスキュー隊といえば筋肉質のマッチョマンというイメージだものな。出口が見えた。長い長い暗闇の道を抜けた先には大都市が広がっていた。太陽の光が眩しく、反射した光がきらきらと眩い。
「いや……どこだここ……?」
そこは見たこと無い知らない場所だった。きっと車で長時間移動したから結構離れてしまったのだろう。女性にヘリに乗るよう言われたので、言われるがままに乗った。病院に連れて行ってくれるのだろうか。