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その日もウッドウェル伯爵家の夜会は、招待された沢山の貴族で溢れていた。
伯爵という低くも高すぎもしない爵位ではあるが、ウッドウェル家の現当主は領地運営に長けた人物で、決して広いとは言えない領地から莫大な富を産み出す商才に優れた人物であった。
彼の家では開かれる夜会は、新商品のお披露目も兼ねており、領地で作られる食品を使用した豪華な食事や、流行の最先端を行く装いをする伯爵夫妻と、子供らの衣装をいち早く鑑賞できる。
流行に乗り遅れない為にもこの夜会に招待されるのは貴族として一種のステータスでもあった。
またウッドウェル伯爵は下級貴族、平民にも礼節を忘れない態度で接する人格者でもある。
地位の高さに拘らず、客人を等しく持て成す人柄に、自然とウッドウェル家の夜会は他家の夜会のようなギスギスされた貴族の謀は無縁となっており、彼自身を慕う多くの客が訪れていた。
王宮や他の貴族邸にはない、気取りすぎない夜会は自然と気のおけない者同士が会話を楽しむ為だけの場となり、終始リラックスした雰囲気が漂っている。
ウッドウェル家の一人娘であるシャーリーも、自身の邸宅で開かれる夜会を婚約者である子爵令息のブランや友人と楽しんでいた。
「今日のシャーリーのドレスも素敵ね、淡いグラデーションの緑が瑞々しい新緑のよう。貴方のキャラメル色の髪にとても映えるわ」
シャーリーの親友であるメイリールがドレスを褒めると、シャーリーはドレスの端を軽く持ち上げて裾を広げてみせた。
「ありがとう。春らしい彩りのあるドレスが欲しくてお父様にお願いしたの。」
大好きな親友に褒められて嬉しくなったシャーリーが優雅に回るとドレスの生地がふわりと動き、キラキラと光沢を放つ。
周りの令嬢達からため息が溢れる。若緑色のドレスは彼女に本当に良く似合っていた。
きっと令嬢達は、この後自分達の親や婚約者にウッドウェル商会のドレスが欲しいと強請るだろう。
たが、シャーリーには自身が伯爵家が抱える商会の広告塔であるという自覚は全くなかった。
ただ、父親が宣伝の為に茶会や夜会の度に誂えてくれるドレスを素直に喜び、令嬢や御婦人から掛けられる羨望混じりの賛辞を額面通りに受け取り満足していた。
そこにビジネス的な狙いがあることにも、令嬢達からの言葉に妬みが含まれていることにも全く気付いてはいない。
良く言って天真爛漫、悪く言って世間知らず。
それがシャーリーだった。
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