大好物のチラシ寿司
三人は、九兵衛さんのところへ向かおうとして、土蔵の外へ出るけれど、タイミングよく、その当人が姿を見せた。
「やあ少年少女、謎解きは順調かな?」
「あたしたちは、お宝が祠堂のところにある切り株の下に埋まっていることを突き止めました」
オチャコが威勢よく話した。
「なんだって、早いね!」
「はい、頑張りました!」
「あはは、それじゃ、あそこを掘ってみるのかい?」
「あ、でも……」
今から、そのことについて相談しようとしていたのである。
「どうしたのかな?」
「光男さんから、あの場所には、ご先祖さまが祀ってあるってこと、さっき聞いたばかりなので、だから……」
「ああ、そのことを気にしているのだな」
ここへ明智くんが口を挟んでくる。
「あの祠堂の前を掘るなんて、許して貰えないよね?」
「いいや、俺は許す!!」
「えっえーっ!」
「ホントですか!?」
「??」
九兵衛さんの言葉に、驚愕せぜるを得ないオチャコたち三人である。十中八九、ダメと言われるに違いないと思っていたのだから、それは無理もないこと。
「いやあ、実は俺も少年時代に推理して、そこまで辿り着き、親爺に掘らせてくれと頼んでみたのだが、許して貰えなかったのだよ。それ以降、この三十年間ずっと気になっていてなあ。ご先祖さまに申し訳ないと思う心があるのと同時に、掘ってみたい願望も、まだ消えていない。だからこの機会に、思い切ってやってみようかという気になっているのだよ」
うまい具合に許可を貰えて、少なからず拍子抜けする三人を前に、九兵衛さんが話を続ける。
「そうは言ってもなあ、あの硬い地面を掘るのは、簡単じゃないぞ」
「うん、僕もそう思うよ」
「そこでだが、知り合いに、穴掘り機を持っていて、それの扱いにも長けているのがいてな、いつかこの話をした時、《もし掘る気になったら教えてくれ。いつでも協力するぜ》と言ってくれたのだよ。だから一つ、そいつに頼んでみるか」
九兵衛さんは掘る気満々になっている。オチャコたちは、いわゆる「渡りに船」の言葉通り、九兵衛さんの知り合いにお願いするという案に賛同した。
「そうと決まれば、まずは腹拵えをしないとな。昼メシはチラシ寿司だ。お嬢さんたち好きだろ、一緒に食うとしよう」
「ええっ、それホントですか! あたし、大好きなの!」
「わたしもです」
「お二人さん、笑顔がいいねえ」
「はい! でも、どうしてあたしたちがチラシ寿司を好きなこと、知っておられるのですか?」
オチャコは、単刀直入に尋ねた。
それで九兵衛さんが、嬉しそうに説明してくれる。
「実は昨日の夜なあ、チラシ寿司を大好物にしているガールフレンドの二人が遊びにくるからって、珍しいことに、この光男が母さんに、それをリクエストしていたのだよ。あははは!」
「まあ、光男さん! あたしたちのために、そこまで?」
「そうだよ。茶子さんと前田さんに喜んで貰おうと思ってね」
オチャコは、明智くんのことを、ますます好きになる。トシヨンの胸の内でも、彼に対する好感度がさらにアップするのだった。