暗号の解読は進む
東洲斎写楽の浮世絵を模倣したという作品は、土蔵の奥にあった。
それを見て、明智くんが叫ぶ。
「あ、ここ!」
「えっ、なになに!?」
「どうしたの?」
オチャコとトシヨンが驚きながら、明智くんが示すところを見つめる。
「ああっ、これ《サラク》って読むのかも!!」
絵の中に「東洲斎茶楽」と書き込まれているのだった。
「その可能性は、十分に高いだろうね」
「きっとそうよ!」
絵画は額縁に入っているので、オチャコが調べることを提案する。
当然のこと明智くんは、その案を受け入れることに決め、裏側の留め具を用心深く外して、中を確かめる。
オチャコが思った通り、裏板と絵の間にカードが入っていた。
「やった、見つけたわ!」
しかしながら、今度のカードは、中央付近に汚れが広がっていて、星印の正確な位置が分からなくなっている。
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サクラノキ
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「うーん、こんな状態だと、アナグラムを完成させられないわねえ」
「いや、問題ないよ。星の配置パターンは限られているからね」
「え、どういうこと?」
「星の書いてある場所を、シラミツブシに調べればいいってことだよ」
「あ、それはそうねっ!」
オチャコは、手帳の新しいページに、カードの絵を書いて説明する。
「三行目に注目してよ。星は《サ》の下か、《ラ》の下か、どちらかにあるはずだけど、もしも《サ》の下にあるのだったら、四行目が《ラ》なのか、《ノ》なのか決められないわ。だって残っている他の場所に星はないはずだし、四行目に二つの星が並んじゃうのは、ルール違反だもの」
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サクラノキ
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★■■□□ ← 三行目
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「僕らが想定しているルールに過ぎないけどね。でも、それが正しいと仮定した場合、三行目の星は、《ラ》の下にあるってことかな」
「そうよ、間違いないわ!」
オチャコは、自信に満ちた表情で、別の絵を書く。
「三行目が決まると、四行目と五行目も必然的に決められるわ」
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サクラノキ
□★□□□ ← ク
■■★□□ ← ラ
□■■★□ ← ノ
★■□□□ ← サ
□□□□★ ← キ
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「クラノサキか、それって!」
「うんうん、この蔵の先に、なにかあるって意味だわ!」
謎解きが大きく前進したようである。
しかしながら、明智くんが冷静な口調で話す。
「でも、これといってお宝と呼べるものはないよ。二人も見たでしょ?」
「ふふふ、光男さん。それには一つ、盲点があるのよ」
「え、どんな?」
「あの桜の木の切り株よ。やっぱり、あの下に、なにか埋まっているはず」
「えっ、人が埋まっているのだとか、わたし、凄く怖いわ!」
「トシヨン、安心して。そうじゃなくて、あたしの推理によると、大五郎さんが、お宝を埋めたのよ。あの場所を掘ってみなきゃ!」
これには明智くんも、即断では賛同できない。なぜなら、ご先祖さまを祀ってある祠堂の傍を掘り返すだなんて、無茶にもほどがあるから。
それでも、オチャコがあまりに熱心な態度を示しているので、「お父さんに、話だけでもしてみようか」と提案する。