謎解きはオチャコに
オチャコは、手紙とカードを見つめながら、ふと尋ねる。
「大五郎さんって、どのくらい遠いご先祖さまなの?」
「僕から数えると五代前で、探偵をやっていてね、西暦千九百一年にイギリスの温泉地へ行って、そこで出会った有名な推理作家と、犬について話したことがあるのだとか、ないのだとか、少しばかり謎めいている人だよ」
「へっえ~、凄いのねえ」
感心するオチャコだけれど、大正時代に生きた、偉大な探偵が残した謎を、なんとしても解いてみたいと思うのだった。
「よおし、謎解きはオチャコにお任せ!!」
「うん、頼むよ」
「オチャコ、頑張って!」
応援して貰ったオチャコは、カードを見て言う。
「これは暗号に違いないわ。問題は、どうやって、秘められている意味を紐解くかなのよ。ねえ光男さんは、どう思うの?」
「うん、そうだね、これはアナグラムではないかと、僕は思うよ」
「なんなの、それ?」
推理には少しばかり疎いトシヨンが尋ねた。
これには、オチャコが胸を張って答える。
「アナグラムはねえ、例えば、猫って意味の英単語、catのアルファベットを並べ替えて、actにすれば、動作という意味の単語ができるでしょ。そんな感じで言葉を変換して、秘められている謎を解明するのよ」
「ふうん、そっかあ」
オチャコは、スカートのポケットから小さい手帳を取り出す。鉛筆も備わっている、外出時の必携アイテム。
それの白いページに、カードの絵を書いて説明する。
「一行目は《サクラ》で、二行目には《サ》の下に星印が書いてあるでしょ。三行目は《ラ》の下、四行目は《ク》の下だから、その順番でつなげると《サラク》という言葉ができるのよ」
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サクラ□□
★□□□□ ← サ
□□★□□ ← ラ
□★□□□ ← ク
□□□□□
□□□□□
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「サラク?」
「うん」
「どういう意味なの?」
「それを推理するのが、謎解きの第二段階よ」
「ちょっと難しいわね」
トシヨンは、少し困惑の表情を見せる。
それでオチャコは、この大親友を勇気づけるための言葉を発する。
「心配無用だよ、トシヨン。あたしがいるのだから、大きな宝船に乗った気持ちでいたらいいの!」
「ありがとう、そうするわ」
明智くんは、二人の話を聞いていて、「宝船だなんて、大袈裟だなあ」と思わざるを得ないけれど、それは口に出さない。
「サラクと読む単語って、なにがあるかなあ?」
「あ、うん、そうだねえ」
謎解きは続いているのだった。明智くんは少しばかり真剣な表情になる。
しかしながら、意味があって「サラク」と読む言葉が思い浮かばない。
またオチャコも、「サラク、サラク、サラク、うーん」と口に出しながら、考えるけれど、すぐには謎を解けないそうにない。
トシヨンは、「わたしには、とても考えが及ばないわ」と思いながら、黙って待つしかないのだった。
少しして、オチャコが叫ぶ。
「あっ、シャラクかも! 東洲斎写楽だわ!」
「え、それって」
「うん、さっき僕のお父さんが話題にした江戸時代の絵師だね」
「その人の絵に、なにか秘密があるのよ!」
「でも贋作だと、お父さんは言っていたけど?」
「そうだけど、調べてみる価値はあると思うわ!」
オチャコたちは、九兵衛さんが仕舞ったという絵画を探し始める。